表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オルガンコード  作者: 木葉 音疏
未来からやって来たのはマーティではなくビフでした。
7/37

A Certain Lingual Fascism

 それから七年が過ぎ、私はロリカ様という二つ目の特別に出会った。

「ところで、ロリカ様には何か将来の夢がおありですか?」

 私がインターネットで事前に調べた、見合いにおける話題の一つである。

「ワタシは、おじい様の跡を継いで英国貴族になるつもりです」

 ダンテ様は貴族の出身だったのだが、その身分を捨て経営者の路を選んだのだ。

「本当に、イギリスがお好きなのですね」

 今となっては愛国心を持つ人は珍しい(イギリスはもう国でないので正確さを求めるなら「愛国心」という言葉は不適当だが)。

 ふと、私の耳に妙な金属音が届いた。

(義体の軋む音? でもどうして――?)

 次の瞬間、私の真後ろにある襖が乱暴に開けられ、震える手で包丁を持った男が私に襲いかかった。瞬時に私は体を一八〇度回転させ、男の包丁を掴んだ右手を抑える。

「こう見えても士官学校を出ているんだよ、こっちは」

 私は男から奪取した包丁の峰で男を気絶させる。

「いったい何事だ? これは」

 ダンテ様は白目を剥いた男を見て困惑なさる。

 この男、服装からしてここの板前のようだ。

「ダンテ様はロリカ様を。この動き、間違いなく脳のハッキングです。大方アガルタ帝国の残党による仕業でしょう。他にもハッキングされた人がいるかもしれません」

 アガルタ帝国は、最後まで地球国による併合を拒み続けた東南アジアの国である。結局、二十二年前に首都・ジャカルタを占領され、アガルタ帝国皇帝は地球国軍が首都へ進軍するのを見届けた後自害。アガルタ帝国があった領土は地球国の一部となり、フィリピン州、インドネシア州、マレーシア州、パプアニューギニア州に分割された。そしてアガルタ帝国軍の生き残りが各地に散らばり、戦後しばらく報復テロを行っていた。

「奴等の狙いはお二人です。すぐにここを脱出しましょう。ダンテ様はロリカ様を抱えて、私の後ろについて来て下さい」

 私の首から小さな丸形カメラが吹き出物みたいに現れる。これで私の視界はほぼ三六〇度になる。

「今更テロとは」

「数年ぶりじゃないですか? この星でテロが起きるのは」

「アガルタ帝国の残党のほとんどが、社会に適合するか、警察や公安に逮捕されるかしたからな。数年前に一度あっただけで、ここ十年間はほとんどテロがなかった。しかも日本でとなると、特に珍しい」

「天皇陛下は、同じemperorとしてアガルタ帝国皇帝と世界政府との関係をとりもっていらっしゃいましたからね。アガルタの人々は、日本に好意的だったと聞きました」

「私が標的になったのは、日本人でないからか」

「単純に狙いやすかっただけだと思いますよ。ダンテ様は他の政府高官と違って、ガードが手薄ですから。今日なんて私一人だけです」

 暴力革命主義者テロリストが私達の脳をハッキングしない理由は以下の通りだ。❶ロリカ様の脳がハッキングされていない理由:脳のハッキングは対象の脳と接続されたインターネットを通して行われるが、ロリカ様はナチュラルであるため、彼女の脳はインターネットと繋がっていない。そのため、ロリカ様の脳をハッキングすることが不可能だから。❷ダンテ様の脳がハッキングされていない理由:ダンテ様は国家の重要人物であるため脳の保護が厳重である。そのため、ダンテ様のハッキングは困難だから。❸私の脳がハッキングされていない理由:脳をハッキングするには対象を明確にしておく必要があるが、私の素性は暴力革命主義者テロリストに知られていないので、彼等は私をハッキング仕様がないから。

「大名行列は趣味じゃない。だがまあ、娘のいる今日ばかりは、趣味じゃないこともやるべきだったか」

「そう言えば、ロリカ様には優秀なボディーガードがついているとか」

「タカヒロのことですか?」

 私はダンテ様にお姫様だっこをされたロリカ様に視線を遣りながら、拳銃に装弾する。

「相手は無関係の民間人だ。火器を使ってはいけない」

「承知しています。ですが、私の仕事はお二人の身を守ること。それは、わかっていただけますね?」

 言わずもがな、一般人の銃器所有は違法である。したがって、法律上は私も鉄砲を所持することが許されない。にも拘わらず、私が懐に小型南部式拳銃を収納していられたのは、芸津の口利きがあったからだ。こういったことをしているのは私だけでなく、政府高官の護衛役ならば皆、と言っていい程、よくある話だ。

 私は口径七㍉㍍の小型南部式拳銃を腰に入れる。そうして廊下へと通じる襖の前に立ち、義肢の調子を確認してから、勢い良く襖を蹴り倒した。その結果、襖は真っ二つに割れ、その下にはこの部屋へ押し入ろうとしていた輩の体が横たわっている。

「行きます」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ