ゲンガーさん家は大家族。
しばらくして米蔵が到着した。洪庵殿がダンテ様に通報したらしい。
「事後処理は我々にお任せを。それよりも、芸津がチャット・ルームを用意していますから、そちらに繋いで下さい」
言われた通り、私達はダンテ様をホストとするチャット・ルームにアクセスした。
チャット・ルームはインターネット上に創られる仮想現実の一種である。
「昨日に続きとんだ災難だな、在都君」
「まったくです。映画になりそうなレベルですよ」
「にしても、拳銃でハウプトマンに立ち向かうとは、無茶をする」
「街の人に危害を加えられたら大変ですから。動きを封じて、洪庵殿に解析してもらうつもりだったんですが、自爆されてしまいました」
「怪我は?」
「わしは無事だが、彼はー……」
「腹部に一発やられました。後で病院に行きます」
「そうか。無茶はしないでくれよ」
「肝に銘じておきます」
「さて、君達を襲ったのは、地球国軍のC級量産型対人用人型戦闘ロボット『ハウプトマン』だ」
「私は軍に目を付けられるような覚えはないんですがね」
「まあこれを見てくれ」
映像が現れる。
「これは、わしの研究所じゃないか」
タイム・マシンのある部屋だ。時刻は今から一時間前。
すると、タイム・マシンにデロリアン・ゲートが発現した。中から出て来たのは――、
「そんな!?」
「なんということだ……」
三体の、ハウプトマン。
「彼等は三十分間、この部屋に居続ける。そして三十分後、」
三体の殺人兵器は部屋を出る。ここで映像が切り替わって、三体の歩く廊下が映される。そこで、彼等は研究所で留守番をしていた一体のヒューマノイドと遭遇する。
「あなた達は、何者ですか……?」
ヒューマノイドと言ってもほとんど女の人である。
「ヴェルヌ……」
映像を見ながら洪庵殿が呟く。きっとあのヒューマノイドの名前だろう。
「銃を下ろしてください」
ヴェルヌがハウプトマンに近づこうとしたその時、一体のハウプトマンがプラズマ・ガンで彼女の全身をハチの巣にした。
「その後、三体は研究所を出た」
「私達を襲ったのは、そのうちの一体というわけですか」
私は渋面する洪庵殿を横目で見ながら、ダンテ様と意思疎通を行う。
「ああ、彼等の目的を探るために泳がせていたんだが、まさか二人を襲うとはな。これは私の責任だ。本当に申し訳ない」
「そんなことより、民間人に被害が出たらどうするんです!?」
「それなんだがねぇ……。これを見てくれ」
二枚の写真が表示される。それぞれ一体ずつ、ハウプトマンが撮影されている。ハウプトマンの周りには、数人の一般人が。
「一分前の写真だ。今のところ、ハウプトマンが襲ったのは、ヴェルヌと君達だけだ。街の人々にはいっさい手を出していない」
ハウプトマンがヴェルヌを攻撃したのは、ヴェルヌから自分達への敵意を感じ取ったからだろう。
「つまり、彼等の標的は、私か洪庵殿のどちらか、もしくはその両方、ということですか?」
「そのようだ。しかし念のため、いつ暴れても早急な対応ができるように、各個体に傭兵をつけた」
「傭兵ですか?」
「知っての通り、タイム・マシンの研究は、大統領の許可を得てのことであるが、極秘事項だ。総統殿ですら知らないはずだ」
大統領は世界政府の首脳、即ちこの星で最も権力を有する者だ。
総統とは、各州を統治する役職である。
「警察や軍の協力は得られないと? それなのに、傭兵なんか雇っていいんですか?」
「彼等にはただ、ハウプトマンが暴れたら始末するよう依頼しただけだ。タイム・マシンのことは何も教えないさ」
「でも、これで未来から私が来た理由が判明しました。ハウプトマンがタイム・マシンを使ってやって来る。それを知らせるために、未来から私が来た。そういうことでしょう」
「しかし、なぜハウプトマンに狙われるのか、という新たな謎が生まれた」
「研究所のセキュリティーが作動しなかったということは、彼等はわし等のうちの誰かのパーソナル・データを持っているということだ」
研究所には火器を伴う厳重な防犯が敷かれていて、登録された者以外が無断で立ち入ると発砲されてしまうのだ。
「まさに。三体は何れも、在都君のパーソナル・データを持っていた」
「このこと、中央政府には?」
「まだ報告していない。現状で、一番怪しいのは大統領だからな」
タイム・マシンの存在を認知しているのは、私と洪庵殿、そして米蔵の一部の職員と、大統領、及びその近辺の人物だけだ。よって、タイム・マシンでハウプトマンを送ったのも、このうちの誰かである可能性が高いのだが、私と洪庵殿はもちろんのこと、ダンテ様が私達を襲うなどあり得ない。加えて、ダンテ様の部下はダンテ様に忠実なので、ダンテ様の意志を無視して事を起こすとは考えにくい。となると、残るのは大統領なのだ。
「これから、ハウプトマンをどうするんですか?」
「しばらく泳がせておこうと思う。もしかしたら、奴等がここへ来た理由は、他にもあるかもしれないからな。無論、誰かに危険が及ぶようであれば、速やかに始末するが」
「とはいえ、狙われる身である以上、ボディーガードを続けることはできませんね……」
「しばしの休暇だ。在都君にはセキュリティーを備えた場所を用意する。洪庵殿には、できるだけ研究所から出ないようにしていただきたい」
かくして、私は取手市郊外で過ごすことになった。