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オルガンコード  作者: 木葉 音疏
未来からやって来たのはマーティではなくビフでした。
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or The Future Dolores

 私が脱獄犯を射殺した事に関して、ダンテ様の部下が上手く(そう、本当にウマく)処理してくれたおかげで、私は一切の罪を問われずに済んだ。

 私は料亭の駐車場に放置されたダンテ様のお車をお借りし、ロリカ様のご自宅へ進路を設定する。車内に響いているのは、フランツ・ペーター・シューベルトの「魔王」だ。


   Der Erlkönig

J.W.v. Goethe

Wer reitet so spät durch Nacht und Wind?

Es ist der Vater mit seinem Kind;

er hat den Knaben wohl in dem Arm,

er faßt ihn sicher, er hält ihn warm.


Mein Sohn, was birgst du so bang dein Gesicht?

Siehst, Vater, du den Erlkönig nicht?

den Erlenkönig mit Kron und Schweif?

Mein Sohn, es ist ein Nebelstreif.


“Du liebes Kind, komm, geh mit mir!

gar schöne Spiele spiel ich mit dir;

manch bunte Blumen sind an dem Strand,

meine Mutter hat manch gülden Gewand.”


Mein Vater, mein Vater, und hörest du nicht,

was Erlenkönig mir leise verspricht?


Sei ruhig, bleibe ruhig, mein Kind;

in dürren Blättern säuselt der Wind.


“Willst, feiner Knabe, du mit mir gehn?

meine Töchter sollen dich warten schön;

meine Töchter führen den nächtlichen Reihn

und wiegen und tanzen und singen dich ein,

und wiegen und tanzen und singen dich ein.”


Mein Vater, mein Vater, und siehst du nicht dort

Erlkönigs Töchter am düstern Ort?


Mein Sohn, mein Sohn, ich seh es genau,

es scheinen die alten Weiden so grau.


“Ich liebe dich, mich reizt deine schöne Gestalt,

und bist du nicht willig, so brauch ich Gewalt.”


Mein Vater, mein Vater, jetzt faßt er mich an!

Erlkönig hat mir ein Leids getan!


Dem Vater grauset’s, er reitet geschwind,

er hält in Armen das ächzende Kind,

erreicht den Hof mit Müh und Not;

in seinen Armen das Kind war tot.


 「魔王」を鑑賞している間に、ぽつぽつと降雨が始まった。地瀝青アスファルトは徐々に雨滴で黒くなっていく。そこを、私は無言のまま進んで行った。

 ロリカ様のお屋敷は、警察によって厳重に警護されていた。入口も半ば封鎖されていたので、私は自分がロセッティ家の者であると説明して中へ入らなければならなかった。

「お待ちしておりました。よくぞご無事で」

 玄関に立っていたのはかわいらしい女性レディー。黒色の髪は長めで、大きな胸がメイド服によって押さえつけられている。

「はじめまして。天登在都と申します」

「聞き及んでおります。わたしはお嬢様のお世話を致している、カナ・ファーバーです。どうぞ中へ。ご主人様がお待ちです」

 コートを脱ぐと、私は背中の部分に穴が開いていることを思い出した。ロリカ様を刺殺しようとした板前にやられた痕だ。

「ひょっとして、テロに巻き込まれて?」

 カナさんは落馬した馬乗りに声をかけるときみたいな表情をする。

「ええ。まいったな。ダンテ様から頂いた大切なコートなのに」

「貸して下さい。わたし、こういうの得意なんです」

 カナさんは笑顔でコートを受け取る。

「いいんですか? こんなお手間をかけさせてしまって」

「気にしないで下さい。明日のご出発までには、間に合わせますから。それより、お怪我はなかったですか? 見たところ、包丁か何かによるもののようですけど」

「自然治癒に委ねられるレベルの傷です。少し時間はかかると思いますが」

「便利ですよね。義体って」

 カナさんも義体の使用者だ。

 私達は廊下を歩きながら会話を続行する。

「義体化なさっていないお嬢様を見ていると、時々、怖くて堪らなくなるんです。わたしの腕は、銃弾を撃ち込まれても、火を点けられても、なんてことはありません。でも、お嬢様の場合、そうはいかない。ほんの小さな掠り傷を負っただけでも、場合によっては、そこからバイ菌が入って、大事に至ってしまうかもしれないんです。そう考えると、東京タワーの天辺で片足立ちしている犬を見ているみたいで……」

「『血のかよった本物の心臓の脈打つ胸の中には夢や希望がいっぱい詰まってい』るそうですよ」

「たしか、『銀河鉄道999』に登場する、ゼロニモのセリフでしたね」

 カナさんは軽快な莞爾を浮かべる。だが、私は笑顔を返すことができなかった。


銀河鉄道999

 二十世紀後半日本の漫画作品。作者は松本零士。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』とモーリス・メーテルリンクの「青い鳥」をモチーフにしたと言われる。


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