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謀婚 番外編  作者: 樫本 紗樹
シェッド帝国の行く末

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48/73

王太子妃と赤鷲隊隊長夫人

「色々あったけれど今は彼と幸せに暮らしているわ。アスラン内が落ち着いたら彼を連れてレヴィに訪問するから楽しみにしていて、と書いてあったの。サマンサが幸せそうで本当に嬉しい」

 ナタリーはサマンサから届いた手紙を持って、ライラの部屋を訪ねていた。サマンサが嫁いでから四ヶ月。季節は夏になっていたが、今日は窓から入ってくる風が心地よく、ライラは冷ましたハーブティーを口に運ぶ。

「ナタリーは本当にサマンサが大好きよね」

 ライラは微笑んだ。アスランから戻ってきた時、ナタリーの第一声はサマンサの様子を教えて、だった。ナタリーの体形が元に戻っていたので、ライラとしてはそちらを先に聞きたかったのだが、結局ナタリーの質問に答えるまで教えて貰えなかった。

「サマンサがいなかったら私はここで幸せになれなかったかもしれない。それくらい大きな存在よ。サマンサが出立前、彼に強めの釘を刺してくれた事にも感謝しているわ」

 ナタリーは微笑んだ。ライラはサマンサがエドワードに何を言ったのか見当がつかない。

「お義兄様に何を言ったの?」

「サマンサが彼の秘密を全部私に暴露したと言ったみたいなの。そのおかげで監視の目も少し緩んだみたいだから、これからも例の件をお願いね。勿論、ライラの体調に合わせるわ」

 ナタリーはライラのお腹に視線を移した。ライラは帰国後、妊娠していると診断された。ケィティでジョージに言った通り、流産したら大変ですから大人しくしていて下さいとエミリーに言われて、ライラは王宮に引きこもっている状況である。同じ妊婦のはずのエミリーは、もう安定期に入っていますからと全く取り合わず、日常の侍女業務をこなしている。今日もエミリーはハーブティーを淹れた後、衝立の奥で控えていた。

「もう悪阻も落ち着いたし、誰かのせいで王宮の外に出られないから、毎日でもいいわよ」

 ライラは衝立の奥にいるエミリーに聞こえるように言った。ナタリーも二人のやり取りは知っているので思わず笑みを零す。

「乳母や子守はいるけれど、公務や子供達と過ごす時間も欲しいから毎日は難しいわ。そうだ、今度の交流会によかったら一緒に参加しない?」

「それは私が参加していいの?」

 王太子妃主催の交流会は、貴族の妻達だけが呼ばれるお茶会である。本来は王妃が催すのであるが、オルガもツェツィーリアも開催しておらず、サマンサが二年前からナタリーと共同で始めたのである。ライラは赤鷲隊隊長夫人が参加する席ではないと判断して、参加はしていなかった。

「今度はフローラとミラしか呼んでいないから大丈夫」

 ライラは困った。フローラはリアンの、ミラはスティーヴンの妻である。エドワードの側近の妻の集いに、自分が参加する事が正しいのかわからなかった。しかも国王の退位は来春と決まっており、これからのレヴィ王国の中枢を担う者の妻達なのである。

「ジョージ様もこれからのレヴィに必要な人。その妻なのだから心配ないわ。それにサマンサがいなくて不安だから側にいてくれると嬉しい」

 サマンサ出立後、ナタリーは臨月を理由に公務をしていなかった。その為、今回がサマンサのいない初めての交流会で、それ故にナタリーは近しい者だけで今後の交流会をどうしていくのか相談しようと思っていた。彼女は腹の探り合いが得意ではないので、サマンサが横にいないのはとても不安だったのだ。

「わかったわ」

 ライラがナタリーの不安を汲み取り頷くと、ナタリーも笑顔で頷く。そして言葉を切り替えた。

『それではここからシェッドの話をしましょう』

『えぇ』

 以前の約束の通り、ナタリーはライラにシェッド帝国の状況について色々と教えて貰っている。ナタリーは母国にいた時、ほとんどを祈りの時間に費やしていた為、帝国内部について詳しく知らない。ライラも詳細を知っているわけではないが、嫁いだ当初にジョージに貸して貰った歴史書や、アルフレッドから届く手紙と外交官時代に覚えた知識を掛け合わせて自分なりに解釈をし、それをナタリーに伝えていた。

『北方はライラの実家と仲が良かったのね』

『そうみたい。私もガレスにいた時には知らなかったのだけれど』

『もしかしたら私にレヴィ語を教えてくれた人はガレス人だったのかもしれない』

 何不自由なく言葉が通じるので、レヴィ語とガレス語は同じだとライラは判断していた。だがレヴィとガレスのどちらが帝国に近かったかと言えばレヴィである。また、ガレスはレヴィと違ってルジョン教の施設は一切ない。

『ナタリーに言葉を教えてくれた人は修道女なのでしょう? ガレス出身の修道女がいるとは思えないわ。修道女のふりをしていた、というのならわからなくもないけれど』

『彼女はルジョン教徒だったわ。私にレヴィ語と聖書の解釈を教えてくれたから』

 ライラはその修道女が祖父の指示で潜入させていた間者なのではないかと思ったのだが、聖書にも詳しいとなると確信が持てなくなった。ガレスは無宗教なのでルジョン教を信仰しているふりをする事に何ら心は痛まないが、聖書の教えを語れる程まで学ぶのは信仰心がないと難しいと思えたのだ。実際、彼女はナタリーに借りて聖書を読んだものの、ルジョン教徒になろうとは思えず、聖書の解釈もあくまで表面的である。

『宗教内の権力がよくわからないから教えて欲しいのだけど、その修道女はどのような立場の人なの?』

『ルジョン教で権力を持てるのは男性だけ。だからシェッド皇帝になれるのも男性だけなの。つまり私に色々と教えてくれた彼女は何の権力も持っていないのよ』

『それなら何の目的を持って修道女になるの?』

 ライラは修道女になる理由が全くわからなかった。しかしナタリーからしてみれば、その疑問を抱く事が理解出来ず、呆れた表情を返す。

『生涯をマリー様への祈りに捧げる為よ』

『あぁ、そう。そうよね。ルジョン教に対する理解が浅くてごめんなさい』

 ライラは素直に謝った。宗教を拠り所にして生きてこなかった者にしてみれば、修道女になる理由など全くわからないが、宗教に縋って生きてきた者ならば、一生を宗教に捧げる事は当たり前なのである。そしてこの感性の違いを理解しておかないと、今後起こりうる帝国内戦での対応を間違えるかもしれないと彼女は思った。

『帝国に暮らしている人は皆ルジョン教徒と思っていいのかしら』

『それは難しい質問だわ。国民はほぼルジョン教徒だと思うけれど、父が教皇として正しいかと言われると答えられない』

 ナタリーは視線を伏せるとハーブティーを口に運んだ。ルジョン教は一夫一妻制であり、妾を持つ事は認められていない。しかし彼女の父は結婚前から一人の女性と親しい仲であり、彼女の母と結婚後もその関係は続いている。そしてそれに対して苦言を呈する者は、皇帝の傍にはいない。むしろ妾を抱えている聖職者さえいる。

『ルイ皇太子殿下はどうなの?』

『兄は祖父に育てられた影響か、皇帝と教皇が一致していないの。皇帝になる気はあるけれど、教皇になる気はないと思う』

『それではシェッド帝国の存在意義から変わってきてしまうわ』

 ルジョン教の教皇が皇帝だからこそ、近隣の民族がシェッド帝国に属しているのであり、皇帝がルジョン教の教皇の責務を負わないのであれば、帝国からいつ離反してもおかしくはない。それ故に内戦が起こると言っていたのはアルフレッドである。

『以前も言ったと思うけれど、私は兄が皇帝にならない方がいいと思う。相応しい教皇を教徒で選び、民族別の国として独立すれば、ルジョン教が守られるのではないかしら』

『ルジョン教に問題があるのではなく、シェッド家の当主に問題があるのね』

 一体どのように情報を収集しているのかは教えてくれないのだが、ライラの所に届いているシェッド帝国の内情報告は詳細まで書かれている。アルフレッドの間者が皇宮内に潜入していると思う方が自然なのだ。潜入させているからこそ、彼女の末妹アマンダを嫁がせないと判断しているとも思えた。

『そうね。レヴィで色々と公務に携わる事が増えて実感したのだけれど、政教は一致していない方がいいのかもしれない。マリー様はあくまでも見守っているだけ、それで十分と思えるわ』

『そのような事を言ってもいいの?』

『えぇ。エドはルジョン教を信仰する気がないとわかっていて、それでも私は彼を愛している。彼に棄教してほしいと言われたら受け入れるとも思う。だから子供達には誰一人、ルジョン教を教える気はないの』

 ナタリーは決意のこもった視線をライラに向ける。その強い眼差しをライラは微笑んで受け止めた。

『それがいいわ。ウォルターは早々に赤鷲隊へ入隊させてもいいと思う』

『皆がウォルターを次期赤鷲隊隊長だと言うのだけれど、それは流石に可哀想だわ。まだ向いているかもわからないのに』

『基本的に年齢順と聞いたけれど』

『それでも私は授かる限りエドの子供を産むつもりなの。ジョージ様は何気なくこなしている雰囲気がするけれど、赤鷲隊隊長はかなり大変な職務だと思うから』

 ライラは微笑んだ。ナタリーにジョージを褒められた気がして嬉しかったのだ。

『えぇ。ジョージは国内外どちらの動きも把握しているわ。ただ、隊長としてどこまでが本来の仕事なのか、線引きは出来ないみたいよ』

『それは王太子もそうだから王家に生を受けた者の義務かもしれないわ。私も王妃として皆の足を引っ張らないようにしないと』

 ナタリーは不安そうな表情を浮かべた。エドワードはレスター卿を国家反逆罪で裁いた後の人事を自分の都合のいいようにしていた事もあり、すぐに王位を継いでも何の問題もない。にもかかわらず即位の時期を来春に決めたのは自分の為なのだろうと彼女は思っていた。

『お義兄様はナタリーの事を本当に愛しているわよね』

『急に何の話? どうしてそう思うの?』

『結婚記念日と即位の日を重ねるなんて、普通はしないわよ』

 ライラは何故エドワードの即位が来春なのかわからず、最初はジョージに尋ねたものの、彼は興味がなくて答えを持っていなかった。それをエミリーに愚痴ると、すぐに調べてくれたのだ。

『記念日? 結婚式をした日なんて覚えていないわ』

 ナタリーは思い出そうとしたが思い出せなかった。元々何も知らされずにレヴィに嫁いできたので、日程も頭に入っていなかったのだ。その後も特に祝った記憶がない。

 本当に知らなさそうなナタリーを、ライラは驚きの表情で見つめた。

「何故覚えていないの? シェッドでは結婚記念日を祝わないの?」

 あまりの驚きにライラは帝国北方語で話す事も忘れた。一方ナタリーは何故ライラがそこまで言うのかがわからない。

「両親の結婚記念日も知らないわ。陛下と王妃殿下も知らないから、祝わないのではないかしら」

 ライラは結婚記念日を祝うのはガレスの風習なのかもしれないと思った。しかしジョージは知っていた。一年目は海賊退治もあってわずかな時間しか一緒に過ごせなかったが、二年目は彼が料理長にお願いしてくれて、豪勢な夕食を二人で堪能したのだ。

「もしかして私とジョージが結婚記念日を祝っているのを、お義兄様が誰かから聞いて真似しようとしているのかしら」

「エドが人の真似をするとは思えないけれど」

 ナタリーは首を傾げた。確かにライラにもエドワードが人の真似をするとは思えない。しかしエミリーが調べた所、即位予定日はエドワードとナタリーの結婚記念日と重なっているのである。

「エミリーは即位の日についてどう思う?」

 ライラは衝立の奥に控えているエミリーに声をかけた。彼女は帝国北方語を理解出来ない事になっているが、途中からレヴィ語になっているので不自然でもないだろうと判断をした。それにナタリーはそういう細かい所まで注意が及ばないのである。

 エミリーは衝立の奥から出てくるとライラの傍まで寄る。ライラが座るように勧めたので一礼して隣に腰掛けた。エミリーが妊娠している事はナタリーには内緒にしてあるが、この行動は以前からある事なので、身体を気遣っての事とはナタリーは気付かない。そもそもエミリーは元々身体の線がわかりにくい服を着ており、一見では妊娠しているようには見えない。

「私見を申し上げますと、エドワード殿下は意識されていると思います。このお茶会で何を話されているのかも気にされているようで、私やイネスへの探りもありましたが、こちらも徹底して口を閉ざしています」

「イネスからは何も聞いていないのだけど、どのような事があったの?」

 ナタリーは申し訳なさそうにエミリーに尋ねる。

「エドワード殿下と繋がっている使用人がどれ程いるのか正直わかりません。直接聞いてくる者もいますが、聞き耳を立てているだけの者もいると思いますので、私達は迂闊に外で話す事はありません。勿論、お二人が夫を愛しているという話は遠慮なくしておりますが」

「何故そのような恥ずかしい話をしているのよ」

 エミリーの言葉にライラが困ったような表情を向ける。

「お茶会で惚気話をしていると思わせる為です。あながち嘘でもありませんから」

 サマンサがいた時は遠慮をしていたナタリーだが、ライラの前ではエドワードの事を躊躇わずに愛称で呼び、夫婦の話もする。エミリーやイネスがいても同様である。ナタリーがエミリーをイネス同様に感じていてくれる事を、ライラは嬉しく思っていた。

「確かに恋愛話や子供の事を話していると思ってくれたら、それに越した事はないわね」

「えぇ。エドワード殿下が何より恐れているのはナタリー様が離れていく事です。そのような事態にはならないと、強調しておくのは大切です」

「私は再三、エドの傍にいると伝えているのにまだ足りないのかしら」

 ナタリーは悲しげな表情を浮かべた。エミリーは同情が表に出ないように無表情を取り繕う。色々な情報を集めた結果、エドワードのナタリーに対する執着は度を越していた。しかしナタリーはそれを意に介していない。むしろ愛しい人に愛されて幸せだと本気で思っている。その一般的な感性では理解不能なナタリーの心情を、エドワードが理解出来ないのは仕方がないのかもしれないと、エミリーは思っていた。

「サマンサ殿下が仰せになられていたように振舞われればよろしいかと存じます」

「それは難しいわ。私が彼に敵うはずがないもの」

「ですが今後王妃となられるのですから、堂々と振舞われるべきです」

 エミリーは外交に興味はないが、常に二人のやり取りは控えて聞いているし、ライラがアルフレッドから届いた手紙を読んで思考を整理する為に話しかけるので、結果帝国の内部事情にも詳しくなっている。しかし彼女は政治的な話よりも恋愛話の方を好んでいる。王宮内の噂を拾い、ナタリーの話を合わせ、王太子夫婦の動向を気にしていた。サマンサがナタリーにエドワードを掌で転がすように何度も言っていたのを彼女は聞いている。サマンサが無意味な事を言うとは思えないし、サマンサから彼女にも手紙が届いていた。お姉様にお願いしたけれど、響いていなかったから宜しくと。

「昔とは比べられないくらい堂々と振舞っているのだけれど、まだらしくないのかしら」

「先程言っていた交流会の二人とは、どのような態度で接しているの?」

「その二人は友人のように接しているわ。ほら、アリスはエドガーを好きだから」

 そう言いながらナタリーは思い出し笑いをする。アリスがリアンとフローラの息子であるエドガーの事をエドと呼び、エドを好きだと言う度にエドワードが複雑そうな顔をするのだ。

「アリスは将来スミス家に降嫁するのかしら」

「気が早いわよ。サマンサも初恋は叶わなかったけれど、今は幸せそうなのだから、アリスも幸せになれる所へ嫁いでほしいと願うだけ」

 ナタリーは柔らかく微笑む。母親の表情をしている彼女にライラは頷く。

「そうね。アリスには現状のままなら政略結婚をする必要がないし、幸せになってほしいわね」

「えぇ。でもそれは先の話。今はまだ私達の可愛いアリスでいてほしいわ」

「アリスは今日も勉強なの?」

「そうよ。王女は大変よね。私は早いと思うのだけれど、サマンサを踏襲するみたい。サマンサが賢い理由を垣間見たわ」

 ナタリーはサマンサやライラとは受けてきた教育に差があるとは思っていたが、アリスを通して雲泥の差だった事を実感していた。彼女は母親の母国語である帝国北方語は学んでいたが、数学や芸術などは一切触れていない。彼女はルジョン教の聖書が唯一の学問だったのである。それでもレヴィに嫁いだ後で色々と教師をつけてもらい、王太子妃として必要な勉強はしてきた。

「勉強はいいものよ。知識があれば未来を選べると思う」

「えぇ。学校の設立もやっと動き出したものね」

 ライラが平和の為にも平民が学べる場所が欲しいと願い、それをジョージやナタリーに協力してもらい、国立の初等学校設立へ向けて着々と準備が進められていた。雛型はルジョン教の大聖堂に併設されている孤児院での教育である。そちらは聖書教育が中心となっているが、聖書を解釈する為の読み書きが必須だ。彼女はレヴィ語の読み書き、読解力、算数を中心とする学校を目指していた。読む事さえ出来れば国立図書館で望む本を読み、より学びたい者は大学へ進学出来る。奨学金制度も彼女は考えていた。

「今は大学で学ばれているフリードリヒ様が、初等学校計画に興味を持っているらしいの。彼が公爵となり指揮をとりたいと言ったら譲ってもいいかしら?」

「勿論よ。私は表に出ないと決めているから、ナタリーに任せるわ」

 この初等学校計画はナタリー発案になっている。ライラはジョージ同様、表に出る事は避けていた。そもそも赤鷲隊隊長夫人が、国立学校の設立に口を挟む権利は持っていない。それに王太子妃がレヴィ国民を思って考えた計画とした方が、議会でも通りやすい。更にフリードリヒが後押しするとなれば、この計画は順調に進むだろうと彼女には思えた。

「よかった。私は器用ではないから、いくらライラが助けてくれるとはいえ、抱えているものを減らしたかったの」

 ナタリーは安堵の表情を浮かべる。自分が学べる環境になかったからこそ、この計画の必要性は理解していたが、彼女は母国の事に集中したかったのだ。

「話が逸れてしまったわね。どうする?」

「また今度にするわ。話が長引くと散歩の時間にかかってしまうから」

 子供達を連れて王宮内の庭を散歩する事はナタリーの日課になっている。それはアリス出産後から続いている日課であるが、今はエドワードの仕事に合わせて時間を毎日調整していた。だから遅れるわけにはいかないのである。

「そこまでお義兄様に気を遣わなくてもいいと思うけれど」

「私がエドと一緒に散歩をしたいの。ライラには当たり前かもしれないけれど、私達にとって家族の団欒はとても大切な時間だから」

「ライラ様は余計な事を言わないで下さい。夫婦には其々の形があると何度説明をしたら理解して頂けるのですか」

 エミリーは冷めた視線をライラに送る。ライラはつまらなさそうな表情を浮かべた。

「それはわかっているけれど、ナタリーはもっと自由にしていいと思うの」

「私は不自由だとは思っていないわ。私の行動を監視する事でエドが安心するのなら、それに越した事はないと思っているの。誰かに会うなと制限されているわけでもないから」

 ナタリーは微笑んだ。ライラは納得出来なかったが、ナタリーの幸せそうな笑顔に返す言葉が見つからない。

「ライラにしかわからないジョージ様の良さがあるように、私しか知らないエドの良さがある。それだけの話よ」

 ナタリーはエドワードの態度に不満はない。端から見れば歪でも、彼女にとっては唯一無二の夫なのである。彼が自分を求めてくれる事が何よりも嬉しいのだ。

「今度の交流会は絶対に参加してね。フローラとミラの話を聞けば、エドに対する価値観が変わるかもしれない」

「どうして?」

「スティーヴンとリアンはエドと長い付き合いなの。当然、彼の素も知っている。二人とも私達より先に結婚をしているから、色々と知っているのよ」

 ライラは先程まであまり乗り気でなかった交流会が、急に楽しみになってきた。エドワードは人によって評価が違う。一般的には優秀な王太子と言われているが、ジョージは王位を継げる器だが歪な性格だと評し、サマンサはどうしようもない兄だと言う。そしてナタリーは自分には勿体ないくらい素敵な人だと言っている。彼女の印象はサマンサの言葉が近い。

「わかったわ」

 ライラは微笑む。窓から吹き抜ける心地よい風に髪を揺らしながら、ライラとナタリーはハーブティーを飲んだ。

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