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謀婚 番外編  作者: 樫本 紗樹
謀婚 番外編
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ジョージとライラの日常2

 王宮に戻ってきてから、ライラはジョージにハーブを育てる環境をお願いしていた。彼は室内で育てられる鉢植えを提案したものの、彼女は兵舎の横で育てたいと言ってきかず、結局赤鷲隊兵舎の横に細長い鉢を用意する事になった。

「奥様、おはようございます」

 朝食後、ハーブの様子を確認するのがライラの日課になっていた。そして毎日訪れる隊長夫人の周りに、複数の隊員が群がるのが日常と化していた。皆自分の名前を覚えて欲しくて色々と話しかけるのだが、彼女は人の名前を覚える事を得意としていない。毎日申し訳ないなと思いながらも、約千人いる赤鷲隊隊員を全て覚えているジョージを改めて凄いと感じていた。

 ライラは鉢を二つ用意してもらい、ジョージの祖母パメラから貰った育て方を読んで、秋から植えられるカモミールとローズマリーを育てていた。ケィティとレヴィでは気候が違うので同じ秋とは言えないかもしれないが、彼女は今まで植物を育てた事がなかったので、新しい挑戦を早くしたくて仕方がなかったのだ。

 隊員の一人がじょうろをライラに差し出した。彼女にじょうろを差し出すのは、隊員の中で毎朝くじ引きにより決められていた。彼女は井戸から水汲みする事も抵抗なかったが、ここは隊長夫人らしく振舞おうと、隊員達が水を汲んでじょうろに移して渡してくれるのを大人しく笑顔で受け取る事にしていた。この笑顔を間近で見る為に毎朝大盛り上がりでくじ引きしている事を彼女は知らない。ちなみにジョージは知っているが、あえて何も言わなかった。隊員との距離が近くなるのは勿論彼にとって面白くはなかったが、彼女の対応はあくまでも隊長夫人であり、隊員達も憧れの奥様と近付きたいという和やかな雰囲気で、苦言を呈する方が自分の器の小ささを露呈させそうで、黙る方を選んでいたのである。

 ライラが水遣りを終えじょうろを隊員に返した時、裏門警備を担当している隊員が兵舎へと入っていった。朝食後まもない時間なのでジョージはまだ兵舎内の食堂にいる。彼が食堂から出てきて一緒に王宮へ戻るのが彼女の朝一連の日課なのである。

 暫くしてジョージとカイルが兵舎から出てきた。ライラはジョージの雰囲気がいつもと違う事にすぐに気付いたが、周囲の隊員達は特に気付かなかった。いつものようにジョージに敬礼をしてライラから距離を置く。

「ライラ、朝から打ち合わせをしたい。時間はあるか」

「えぇ、大丈夫です」

 ライラは微笑むとジョージの腕に手を回した。黒鷲軍団基地に以前流れていた、隊長に惚れてついてきたガレスの姫という噂は完全に消え、今はガレスの姫を隊長が口説いている最中に変わっていた。実際は夫婦というよりかは恋人のような二人であるが、それを知っている隊員はカイルだけである。

 ジョージの部屋にライラとジョージは入ると、いつものようにソファーに隣同士で腰掛けた。

「そう言えばカイルは?」

 ジョージの部屋はいつもカイルが扉を開ける。先程ジョージが扉を開けた事で、ライラはカイルがいない事にやっと気付いたのだ。

「急な来客の対応に向かって貰ってる。ライラ、借金延長願いを覚えてるか?」

 そう言いながらジョージは軍服のポケットから手紙を一通取り出し、ライラに差し出した。彼女はそれを受けとると広げる。

「えぇ。国に石材を売っているのに借金している伯爵でしょう?」

「あぁ、その返事だ。まず読んでみて」

 ジョージに促されライラは広げた手紙を読み始めた。借金返済のめどは今暫く立たないので、先に担保を送る。これでどうか返済を延長して欲しいと書かれていた。

「輸送可能な担保とは宝石かしら?」

「宝石ならライラに相談しないよ。伯爵令嬢だ」

 ライラは訝しげな表情をジョージに向けた。カイルの急な来客対応はその伯爵令嬢なのだ。こちらが了承もしていないのに突然送りつけられてきても、彼女もどうしていいのかなどわからなかった。

「どうするの? 受け入れるの?」

「受け入れるわけがない。俺は側室を持つ権利もないし」

 王族や一部貴族に側室を認めているのは、その家を存続させる必要からである。赤鷲隊隊長は一代限りで、その子供は騎士階級になる。騎士階級には側室が認められていない為、赤鷲隊隊長になった時、王位継承権と共にこの権利も捨てるのである。それでも金に不自由はしないので、愛妾を持つ事は出来る。

「それなら私の侍女として預かれという事?」

「その辺は会って見極めて欲しい。もしかしたら彼女は伯爵令嬢ではいられなくなるかもしれないから」

 ジョージは手紙を返信後、仕事に復帰したカイルにその伯爵を調べさせていた。原因は伯爵の骨董品収集による散財だった。復興作業に使う石材を、より楽に切り出せるよう土地を整える為にお金が必要だというから貸したのに、土地は整えられておらず全て骨董品に化けていた。そして借金返済延長の担保としてその骨董品を送ってくるならまだしも、娘を送ってくる時点で彼はその伯爵に情けをかける余地はないと思い始めていた。

「わかったわ。少し待っていて。宝飾品を身に着けてくる」

「あぁ、それとエミリーに紅茶の用意をお願いして貰えるかな」

 ライラは頷くと立ち上がり、自分の部屋へと戻った。ライラの部屋ではエミリーがワンピースにレースを縫いつけていた。

「エミリー、来客があるから紅茶を用意して欲しいのだけど」

「どちら様でしょうか」

「北の方の伯爵令嬢」

 エミリーは針をワンピースに止めてテーブルに置きながら、その伯爵令嬢を頭の中で探したが見当がつかなかった。

「申し訳ありませんが、お名前を伺っても宜しいでしょうか。どなたかわかりません」

「名前は私も知らないわ。初めて会うのだから」

 ライラはそう言いながら鏡台に腰掛け、宝石箱を開けて身に着ける宝飾品を探した。彼女は王宮に戻ってきてからは、毎朝エミリーに化粧される事を厭わなくなっていた。ジョージが気に入ってくれたウォーレン式の化粧をする事で、赤鷲隊隊長夫人の仮面を常に被っていたのである。

「話が見えませんが、サマンサ殿下御用達の紅茶で宜しいでしょうか」

「えぇ、それでいいわ」

 ライラが宝飾品を選んだのを見て、エミリーはライラに近付き首飾りと耳飾りを身に着けさせる。ライラは鏡を見て納得した。

「もしかしたらその子を侍女として預かるかもしれないの。エミリーも様子を伺ってね」

「先日クラーク卿の話を断ったばかりなのですから、侍女はいかがかと思いますけれど」

 国家反逆罪騒動でレヴィ王国公爵五家のうちの一つ、レスター家がなくなった。男子のいないクラーク家も断絶は目前であり、それ故にクラーク卿は娘をハリスン公爵家に嫁入りさせようと画策していた。ハリスン公爵家も先日、当主の孫であるグレンが亡くなったばかりでまだ落ち着いてはいないのだが、建前はライラの侍女にして欲しいなので時期など気にしていなかった。紹介された公爵令嬢はウォーレンの美意識から外れる普通の女性であったが、態度は明らかに公爵令嬢そのものだった。エミリーも難色を示したのでライラは丁重に断った。ライラは元公爵令嬢だが身分に拘っていないので、その公爵令嬢と仲良くやっていく自信もなければ、ウォーレンに嫌味を言われるのも嫌だったのだ。

「とりあえず会うだけ。最終的判断はジョージがするから」

「ジョージ様が? 紅茶はジョージ様の部屋に何人分お持ちすれば宜しいのでしょうか」

「三人分で大丈夫。それでは頼んだわよ」

 ライラは微笑むと立ち上がった。エミリーは納得がいかないまま扉を開け、ライラはジョージの部屋へ、エミリーは紅茶の準備の為に調理場へと向かった。



 カイルが伯爵令嬢をジョージの部屋に連れてきた。ジョージとライラはソファーに隣同士で腰掛けている。その令嬢は名乗りもせず、ジョージの許可を得る前にソファーへ腰掛けた。この時点で部屋の中の空気が変わったが、それを令嬢は察しなかった。エミリーは淡々と紅茶を淹れると三人の前にティーカップを置き、ライラに視線で不可と合図をしてから一礼をして部屋を出て行った。カイルは伯爵令嬢の後ろに控えるように立っている。

「人を呼びつけておいて待たせるなんてどういうおつもりでしょうか」

 名乗る前に文句を言い出した伯爵令嬢にライラは内心呆れた。ジョージも相手にする必要なしと判断したのか、明らかにやる気がない。

「こちらは呼び出していない」

「しらを切らないで下さい。私は父に赤鷲隊隊長が望んでいるから、一度会いに行ってほしいと言われてわざわざ出向いたのですよ?」

「こちらは伯爵に借金返済請求をしただけだ。娘がいるのも今日初めて知った」

「借金? 父は借金などしておりません。いい加減にして下さい」

 伯爵令嬢の雰囲気からいって嘘を吐いているようには見えなかった。伯爵令嬢が領土の財政を把握している事はまずない。しかも今回は領地に問題があるわけではなく、伯爵個人が勝手に趣味で骨董品を収集し、その代金の為に借金をしているので、娘が知らない方が普通である。しかし、そんな普通はジョージに通じない。

「それなら今すぐ領地に帰って父を問い詰めるがいい」

「わざわざ出向いたというのに、すぐ帰れとはあまりにも酷くはありませんか?」

「だから呼んでいない。こちらの都合も考えずに押しかけられても困る」

 ジョージの声色は低く冷たかった。いくら何でも十六歳くらいの女性に対し、大人気ないとライラは横で感じたが、目の前の伯爵令嬢は特に堪えている様子はなかった。彼は相手を見て話し方を変える。どうやら彼も伯爵令嬢に侍女役を与える気はないようだ。

「では貴方でいいわ。折角ですもの。私に王都を案内して下さらないかしら」

 伯爵令嬢は後ろを振り返りカイルに話しかけた。カイルは人受けしそうな笑顔を浮かべる。

「私には仕事があります。どうしてもという事でしたら屋敷の者を手配させて頂きます」

「屋敷の者なんて嫌よ。貴方がいいわ」

 どうやら伯爵令嬢はカイルの事が気に入ったようだ。ジョージは伯爵令嬢が後ろを向いた隙に、ライラの腰に手を回す。彼女は困った表情でその手を押し退けようとしたが、力でかなうはずがなかった。

「私は仕事がありますので対応致しかねます」

「それなら貴方の仕事が終わるまでここで待っているわ。それならいいでしょう?」

「いいわけないだろう。ここをどこだと思っている。カイル、つまみ出せ」

「つま……っ。貴方の態度は先程から気に入らないわ。誰に向かって口を利いているの。私はラナマン伯爵家長女アンジェリカよ。そもそも貴方こそ偉そうだけど誰なの? 隊長を出しなさいよ」

 アンジェリカの言葉で彼女の不遜な態度の意味を三人は理解した。ライラを横に置いてでさえ、こんな小娘にも王族と思われないのかとジョージは苦笑いを浮かべる。

「私が赤鷲隊隊長ジョージだ。王族に対してのその態度、いかがなものかな」

「嘘でしょう? 貴方みたいな王族がいるなんて、こんな馬鹿げた話は付き合えないわ」

 ライラはアンジェリカの言葉に苛立った。ジョージを馬鹿にされるのは許せない。彼女はジョージに寄り添った。

「ねぇ、ジョージ様。このような失礼な方に私は好意がもてませんわ。早く帰して下さいませ」

「あぁ、悪いな。心配しなくてもカイルがつまみ出すから安心していい」

 ジョージもライラに付き合うように彼女の髪を撫でた。アンジェリカは目の前の光景が理解出来ないのか眉を顰めている。

「アンジェリカ様、お帰りはあちらです。本当につまみ出されたいですか?」

 カイルも珍しく声色が冷たい。しかしアンジェリカも引くに引けない状況になっていた。

「それならつまみ出してみなさいよ」

「かしこまりました。少し失礼致します」

 そう言うとカイルはアンジェリカの前方に回り、彼女の前に跪いたかと思うと、彼女を軽々と肩に担いで立ち上がった。

「では隊長、彼女を外までご案内してきます」

「あぁ、宜しく」

 カイルは軽く頭を下げると、おろしなさいよと喚いているアンジェリカを抱えたまま部屋を出て行った。

「カイル、あんなに力があるの?」

「細そうに見えて鍛えてるよ。剣は扱えないけど体力と筋力は隊員に引けを取らない。ライラも肩に担がれたい? やろうか?」

「いいわよ。肩に担がれても楽しくないもの」

「じゃあ何が楽しい?」

 ジョージは意地悪そうな笑顔をライラに向けた。彼女は困ったような表情を浮かべて、彼から顔を背ける。

「カイルがすぐ戻ってくるわ。紅茶を飲んだら仕事にしましょう」

 ライラはそう言いながらティーカップへと手を伸ばした。折角エミリーが淹れた紅茶を飲まないなんて、アンジェリカは何て勿体ない事をしたのかしらと思って紅茶を口に運ぶと、ジョージが横から手を出してきてティーカップを彼女の手から取り上げ、テーブルの上に置いた。そして彼女の髪に手を差し入れ、後頭部を固定すると唇を重ねる。彼女は抗議するように彼の肩を押した。彼は渋々彼女から離れる。

「ジョージは楽しいかもしれないけど、私は楽しくない」

「何で? 嫌なの?」

 ジョージは不機嫌そうである。ライラは口を尖らせた。

「ジョージは慣れているのかもしれないけど、私はこういう事をジョージ以外ではした事がないし、からかわれる一方なのは何か嫌」

「俺もこんな事をするのはライラが初めてだよ」

「それなら何故そんなに余裕そうなのよ。初めてという感じがしないわ」

 ライラはカイルが仕事復帰した後は代筆役が御役御免となった為、毎日ジョージに呼び出されているわけではない。彼は赤鷲隊任務だけでもそれなりに忙しいのに、王宮内の人手不足を手伝わされていて、一日中会えない日もある。だから彼女は兵舎の隣にハーブの鉢の様子を見がてら、朝少しの時間だけでも彼に会えるのを楽しみにしていた。彼は必ず兵舎で朝食をとるので彼女とは一緒にならない。夕食は前向きに検討すると言っていたのに、未だにその約束は守られていなかった。彼女は会えない時は寂しいのに、会うとこうして彼に振り回されるので素直に喜べなかった。

「初めてだって。聞き回っても俺の女性関係の話は出てこないよ。ないんだから」

 ライラは不満そうに視線を外した。エミリーがジョージの女性関係の噂は一切拾えなかったと言っていたのだから、多分恋人がいた事はないのだろうとは思っても納得がいかない。彼は十八歳という若さで総司令官の立場に就き、それを王家に生まれた者なら当然と受け入れてその重責を果たし、今では赤鷲隊だけでなくレヴィ国軍全てが彼を総司令官として認めている。相手がそんな非凡な男という不利さを彼女は理解していなかった。

「今日は軍事関連の仕事しかないから、ライラは戻っていいよ」

「今夜も遅くなる?」

「あぁ。大臣との会食が入ってる。何時に終わるかわからない」

 戦争が終わればゆっくり出来るとライラは思っていた。しかしジョージは戦争前より忙しそうである。出立前に冗談のように言っていた、戦線を残しておいた方が楽な気がするというのが現実になっていた。議会に初めて出席してから毎晩誰かと会食があり、彼女が眠る前に彼が寝室に来ないのである。彼も現状に嫌気がさしており、だからこそ少し時間があれば彼女に触れていたいのだが、一体それの何が不満で彼女が文句を言っているのか彼にはわからなかった。

「何時でもいいから起こして。私はジョージの腕の中で寝たいわ」

「俺はいつも眠ってるライラを抱きしめて寝てるよ」

 ライラは驚きの表情をジョージに向けた。彼は意地悪そうな笑顔を彼女に向ける。

「でも起きる? 口付けしたり撫でたりしてるけど、今まで起きた事なかったし」

「ちょっと待って。私が寝ている間に何をしているの?」

「ライラの肌はきめ細やかで気持ちがいいから触りたくなるんだよね」

 そう言いながらジョージはライラの手の甲を撫でた。彼女は全身を覆うワンピースしか着ないし、袖も釦で留めてあるので普段見える素肌の部分は極端に少ない。寝衣も長袖で足首丈だが捲りやすい作りである。

「ジョージばかりずるいわ。私もジョージに触れたいのに」

「遠慮はしなくていいよ」

「ここでは嫌だとわかっていて、そういう事を言わないで」

 ライラはジョージを睨んだ。彼はそれを笑顔で受け止めると彼女を優しく抱きしめる。

「軍事関係以外の仕事が減るように調整しているから、もう少し待って」

 ジョージは十五歳で赤鷲隊に入った為、社交界では知られていなかった。貴族の間でも側室の息子であるし、勉強が出来ないから軍隊へ入ったのだと言われていた。しかし実際彼には幼少期より英才教育が施されており、またそれを受け入れられる素質も持っていた。先日議会に初出席し、態度も考え方も堂々としていた事で、参加した貴族達の見方が一斉に変わった。元々表に出ていなかっただけで裏では色々やっていたわけだが、それが議会に出た事で完全に表に出る羽目になり、彼は多忙を極める事になったのだ。表に引っ張り出したのは彼の父と兄である為、彼は文句を言う事も出来なかったのである。

「その調整が出来たらゆっくり出来る?」

「ずっとゆっくりは難しいかもしれないけど、もう少し何とかなるとは思う」

「一緒に夕食の約束は検討してくれている?」

「覚えてるよ。最近料理長の味が恋しい状況だから早々に何とかする」

 王宮内で会食の場合は王宮料理人が用意した食事になる為、ジョージは最近赤鷲隊料理長の食事は朝しか食べていない。朝と夜では食事内容が違うので、彼はそれも不満だった。

「会食の時に呼んでくれてもいいのに」

「それは駄目」

「何故?」

「ライラまで表に引っ張り出されたら、俺達が一緒に過ごす時間が無くなる。ライラはあくまでも俺の補助まででいいの」

 ライラは頷いた。昼間仕事をする分には何ら抵抗はないが、夜ジョージと一緒に過ごす時間が無くなるほど仕事が増えるのは避けたかった。王宮内の混乱はじきに収まるはずだからもう暫くの辛抱のはずである。

「わかった。もう少し我慢する」

「俺はそろそろ限界だけどね」

 ライラはジョージを見つめる。彼は彼女を抱きしめる力を緩めると、彼女に意地悪そうな笑顔を向けた。

「今夜は起こすよ。嫌がっても起こすからね」

「いいわよ。でも出来るだけ遅くならないでね」

「あぁ。なるべく会食を早めに切り上げる」

 ライラとジョージは微笑みあった。そして触れるだけの口付けを何度も交わした。

「そろそろ戻るわ。カイルも戻ってくるでしょうし」

「あぁ。ティーカップは適当に片付けておくとエミリーに言っておいて」

「わかったわ、それではまたね」

 ライラは微笑んでジョージに小さく手を振ると自室へと戻っていった。彼女は結局彼に丸め込まれている事に気付いていない。彼は楽しそうに微笑むと少し冷えた紅茶を口に運んだ。

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