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俺が英雄なら世界の片隅でそっと笑うのが似合っている  作者: 銀とーゆ
第1章:空から降って来た男
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海賊科学者

スーの口癖が長いのが気になるでしょうが、生暖かい目で見守ってください。

「そうかぁ、またスーは勝手に乙女モードに入ったかぁ!見苦しいとこみせたなぁ!!」


そう言って豪快に笑うその男は、名をアリシャといい、この家で科学者をしているという。どうやらこのあたりで科学者はあまり良く思われていないようで、「笑って蔑んでも良いんだぜぇ!」と怖い顔でニヤリと笑いかけた。


「えと・・・ではこの少女が俺をここまで運んできてくれたんですか?」


「まぁそういうことだぁ。助けたんだか空中遊泳の邪魔をしたんだか知らねぇけどなぁ!」


「だってぐったりしてて、それに流れ星と間違うくらい速かったのよ!?このまま落ちたら死んじゃうって思ったんだもの。だからアルテミスの矢まで使ったのよ!・・・それで、それでね!王子様、じゃなくてあなたの名前を教えてくれたら嬉しいなぁって思ったり思わなかったり、思っちゃったり・・・。」


元気溌剌か思いきや、突然自分の世界に入ってしまったり、もじもじし出したりするこのよくわからない少女だが、むしろ俺は助けられたのだから王子様と呼ばれる筋合いはないのにと思いつつ耳を傾けていた。


それにしてもこの子が助けてくれたということは、この子が光の線の主ということになる。突然のことでまだわからないことが多くあるが、とりあえず自分は異世界にでも連れてこられたのかと推察する。しかし訳のわからないことが立て続けに起こっていたため、もう驚くことはやめにしようと自分で自分を説得していた。


「もちろんわたしが勝手に連れてきちゃったのかもだけど、何か運命的な・・・、ううんとりあえず私たちの家で一泊したのだから名前くらいは残してほしいかなぁ。」


「ああ、俺は今野内人、こっちでも同じ歳の数え方なのかは知らないが、17にな」


「ナイト!?紺色のマントを着た勇者様なのね!・・・いいえ、紺色のマントは高貴なお方が身に付けるもののはず、やっぱり王子様!?そう、そうなのね。マントを失くして空を探してたら気を失っちゃったのね。わたしも手伝うわ。それにしても17なの??わたしは16よ。ということは・・・きゃぁ!別に何かある訳じゃないのよ!でも運命を感じちゃうって思ったり思わなかったり、思っちゃったり・・・。」


突然話を遮ってまたしても自分の世界に入り込んでしまったスーは止まりそうにもない。目線をずらすとアリシャが呆れた顔を浮かべており、やはり日常茶飯事であるということを察する。


「スー、お前とりあえずお茶でも出してくれ。切らしてるから上級茶葉を買ってきてくれぇ」


「あ、はーい。」


乙女モードのままスーが階段を駆け下りる。アリシャが扉を閉め、今度は真剣な表情をこちらに向けてきた。


「さて、スーは30分くらいは絶対に帰ってこねぇ。あんたも話したいことがあるだろうし、俺も聞きたいことがある。まずは、空を飛んでいた経緯から話してもらおうかぁ。」


急にシリアスモードになって緊張しながらも、ようやく状況を把握できるかもしれないと思い、突然見たことのない穴に吸い込まれたこと、ぐるぐると回されたこと、空に放り出されてから、スーに助けられた際に気を失ったことを話した。さらに元いた世界にはスーのような力を持った人は1人もいないことも付け加えた。


「なるほどなぁ。ってことは、別の星からその穴を使ってワープしてきたっていうのが見解だなぁ。しかし、ただの恩恵ではまず不可能だし、オリュンポスの力でもそんなことできるなんて聞いた事がねぇ。科学的にも証明はされてねぇ分野だぁ。」


どこか嬉しそうな顔をしながら考え込むアリシャの横で、内人は聞き捨てならない単語を聞いた。


オリュンポス。確かギリシア神話にはオリュンポス12神が登場していた。そういえばアルテミスもその1人であったことを今思い出す。ここが別の星というのなら、なぜこんな共通事項があるのだろうか。自分の言葉が通じてしまうことも含め、疑問は広がるばかりであった。


「それにしても、恩恵がないってことは、さぞ科学が重宝されてるんだろうなぁ!科学なんて、恩恵のせいで廃れているようなもんだぁ。こっちでは基本誰もが恩恵を授かり、日々その恩恵に感謝しながら生活している。その限りでは科学なんて発展しなくても生きていけるからなぁ。だがだからこそ、他の誰もやらねぇ科学を追い求めるのは浪漫があるってもんだぜぇ!」


科学者面でないアリシャが目を輝かせているのを見て、圧倒されながらも微笑ましく思う。こっちの世界にいたらきっと有名な科学者になっているだろう。


「そんで、あんたのこれからだが、とりあえずここに住め。」


「・・・はぁ???」


何を言い出したかと思えば、突然住めと言われても呆然とするしかない。本来こんな怪しい処遇のものは早く去ってほしいくらいではないだろうか。それともこれも科学者の浪漫が関わっているのか。


「俺の浪漫も含まれているがぁなぁ、あんたは正直言って1人でぶらついていない方がいい。ただでさえ血生臭さの残る世の中だ。平穏が続いているとはいえ、この世界のことをわかっていない男がぶらついていて帝国に見つかったら、身柄を拘束されるに決まっている。それにあんたみたいな異世界出身のやつは聞いたことがねぇ。こっちの話だが、少し嫌な予感がするんだぁ。」


「でも俺、その恩恵?とか持ってませんし、ただの役立たずにしかならないんですけど・・・。」


「別に気にしねぇけどなぁ。あと、恩恵は聖職者に提示してもらえばいい。異世界出身がいけるのかは知らねぇが、やってみる価値はあるだろうしなぁ。」


「ええ!ナイトここに住むの!?」


と、突然入り込んできたのはスーだった。手には盆らしきものを持っており、そこに西洋風だが少し大きいティーカップが3つある。


「ナイトがここに住むなら、どこを部屋にするのかしら?わ、わたしのおへや??ダメよ、わたしはまだ16の乙女なの!そんなことをするのはまだ早いわ!この客室にしましょう。でも、毎日、いやたまにおへやに遊びにきてくれたら嬉しいなぁって思ったり思わなかったり、思っちゃったり・・・」


「別にどうしたっていいけどなぁ、ナイトはスーの王子様でも勇者でもなんでもないからそこは自覚しとけよぉ。」


アリシャにそう言われ固まるスー。呆然とする俺。とにかく俺のしばらくの居場所はここに決まってしまった。




「じゃあ、わたしが町を案内するね!」


そう言ったスーについて行き、今ナイトは町を歩いている。あまり外に出ない方がいいのではないかと思ったが、アリシャが早くこっちの世界に慣れた方がいいと、スー同伴の町探検に繰り出すこととなった。


結局俺が他の世界から来たことは公には秘密にして、しばらくは順応して暮らしてくれと言われた。


人の往来で賑わうこの町も、この世界ではかなり田舎の方であるらしい。道には市場のように店が立ち並んでおり、多くは食料品や衣類を販売している。中にはトカゲを干物にしたようなものを売っているところもあり、なぜか人だかりができている。


「・・・トカゲ肉は人気なのか?」


「トカゲ、っていう生き物がいるのね、ナイトの世界には。あれはサンドザードっていう生き物で、土の中にいる上に獰猛だからなかなか仕入れられないの。でも肉は淡白で美味しいから人気なのよ。」


事実、たった5つの干物に対し競りが行われている最中であった。どうやら住んでいる動物も自分の世界とは違うようだ。


動物も、と言ったが、ナイトが街に出て一番驚いたことは、明らかに人とは違う類の者達が町を歩いていたからだ。そんなに読むほうではないが、まさに漫画にでも出てくるような猫耳娘やオオカミ男など、ファンタジー世界の定番が人間とおしゃべりしながらぶらついていた。


「この世界では、人間族が全体の半分ほどを占めるけど、あと半分は他の種族なの。全てを総称して人というわ。」


市場を離れ、人が少ない町はずれの公園のベンチに座り、知っていて当然の知識を教えてもらう。小丘になっており、一面綺麗な緑色の野原が広がっている。


「・・・こ、ここね!若い男女が夕方になると結構来るのよ。綺麗な夕焼けが見れるデートスポットだって評判なの。だからってデートしてるわけじゃないものね、わたしたち!でもなんかちょっといい雰囲気かなって思ったり思わなかったり、思っちゃったり・・・」


「ああ、綺麗な場所だな、彼女と行ったらさぞいいデートになるだろうな。」


無論一般論のつもりで言ったのだが、何を勘違いしたのか、スーは完全にフリーズしてしまっていた。それにも気づかずにナイトは、りんのことを思い出していた。


りんとよく遊んだ場所もこんな感じの綺麗な野原だった。夢でも見たが、春にはシロツメクサの花が咲き、冠を作ってプレゼントしていた。


・・・彼女が生きていたら、高校生になっても毎年そこへ行って、冠を作っていただろうな。この場所も、もし2人とも連れて来られていたら、一緒に来ていただろう。まあ、付き合っていたというわけではないのだが。


「あ、あのー。ナイト・・・?」


「ん、ああ。ごめんなんだ?」


どうやら向こうはナイトの言葉のおかげで自分の世界から戻って来ていたらしく、ナイトに何度か声をかけていたらしい。自分も物思いにふけると周りの声が聞こえなくなるタイプだと自覚する。


「それで、明日はアリシャの友人の聖職者の所に行くわ。主な目的は恩恵だけど、彼女は色々と詳しいし、聞きたいこととかあったら聞くといいわ。」


「その聖職者っていうのはどういう人たちなんだ?」


「聖職者は神々の恩恵を提示する存在。自分の神様は誰なのかを媒介して伝え、自覚を与えてくれる存在ってところかしら。才能ある者達が10年以上かけて訓練して、ようやくなれると言われているわ。」


話を聞いて、とりあえず自分が誰の恩恵を得られるのか教えてくれるってことはわかった。別世界の出身だし、そこまで期待はできないが、少し楽しみな気がしていた。




スー:ヒロイン(?)。152cm、43kg。薄茶色のショートカットで、クリクリした目が特徴。アルテミスの恩恵を大きく得ている。天真爛漫だが妄想が言葉に出たり、いきなりもじもじし出したりする。


アリシャ:190cm超で超強面の科学者。地下で多少研究を進めているが、本命の研究所の場所は不明。口調も少しこわい。

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