訳アリ
とりあえず、警戒されるのも好ましくないので、素直に僕らは正直に話した。
というか、スキュラの人は真面目に聞いてくれているんだけど、水龍のほうは人化状態で寝ているんですけど・・・昼寝で物凄く気持ちよさそうに寝ている。
ちょっとうらやましいかも。
「なるほどのぅ・・・その変態の情報で来たのじゃな」
スキュラの人・・・というのも変なので、一応何て呼べばいいかと聞いたら
「『アルテミス』じゃな。あの寝てるのは『リーゼ』と呼んでほしいのじゃ」
なんでそんな名前かと聞くと、なんとなくらしい。
この港町の人にもそういってくれるように言っているのだとか。
この場合、別に魔物使いの従魔契約のような状態になっていないので、ライと契約を結んだ状態にはならない。
というか、野生のモンスターと同じなんだけど・・・人とものすごく変わらないな。
とにもかくにも、アルテミスにもその噂話は初耳らしい。
しかし・・・・モッサンさんを速攻で変態認定するとは早いね。間違っていないし。
なお、モッサンさんは現在ハクロの手によって再び天井につるされている。アルテミスの胸もリーゼの胸もストライクゾーンだったらしい。
「となると、やっぱり誰かのでデマ話かな?」
「そうじゃろうな。我らもそんな噂されるのは気持ちよくないのじゃ」
モンスターでも噂話は気にするようだ。
「大方・・・あの貴族が原因じゃな」
「あの貴族?」
話によると、4カ月ほど前の事らしい。
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「今日の売り上げはこんなものじゃな」
アルテミスはその日、適当に港町中をうろついてポーションや風邪薬などを売っていたそうだ。
この部屋で売っていたりするけど、たまにそうやって町中を歩いて販売するらしい。
モンスターだけど、アルテミスの種族・・・スキュラは別に人に危害をくわえず、友好的なモンスターだと知られているので、恐れる人はいなかったらしい。
その時点で、モンスターにしてはすでに十分変わっているんだけど・・・。
ちなみに、リーゼはいつもこの宿の部屋で昼寝をしていたらしい。
水龍だけど、そうは見えないというか、アルテミスにとっては手のかかる妹的な感じらしい。
で、売り上げ金を確認して、宿に戻ろうとした時であった。
一台の馬車が目の前に泊まって、中から人が出て来たそうだ。
「ほう・・・この港町で噂になっている『薬屋』の女とはお前の事か」
出てきたのは、この港町の領主ではなくどこかの貴族のおっさんだったらしい。
「なんの様じゃ?生憎今日は薬関係は売り切れじゃ」
「ぐっふっふっふっふ、別に儂は薬を買いに来たわけではない。お前を買いに来たのだモンスターよ」
モンスターを従えさせることができるのは、竜騎士など一部の例外を除いては魔物使いの人々だけである。
だが、奴隷としてモンスターそのものを売買する違法な奴隷商人もいるらしい。
だけど、アルテミスは奴隷ではない。
「ふん、我はお前のようなやつに飼われるモンスターではないのじゃ」
不快感を思いっきり隠しもせずに言い切った。
「ぐっふっふっふっふ、無理やりにでも従ってもらうぞ!!」
その貴族はそう言って、手を向けると馬車から別の人達が出て来たそうな。
冒険差者の人達の様で・・・
「なるほど、我を弱らせてから無理やりという感じじゃな」
「ふん、金で集めた凄腕の冒険者だ!!お前には勝つことはできまい!!」
貴族が合図をして、冒険者たちがアルテミスに襲いかかってきた。
が、ものの数分ほどで冒険者たちを全滅させたそうだ。
「こんなものかのぅ?」
「ば、ばかな・・・」
アルテミスは加減して全身骨折で済ませたそうだが、その光景に貴族のおっさんは信じられないような目をした。
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「で、その後おっさんは冒険者たちをその場において逃げたのじゃ」
「冒険者たちはどうしたの?」
「ほおっておくわけにもいかぬからのぅ・・・港町の人たちに説明して引き取ってもらったのじゃ」
まあ、治療はしなかったそうだが。
町の人達もその話に憤慨してくれたらしい。
「その貴族・・・もしかしてガボグ=ザスチョンじゃないか?」
と、忘れられかけていたモッサンさんが話にはいってきた。
「そのようじゃな。特徴とか言ったら、その名前の人物ではないかと言われたのぅ」
「やっぱりね・・・・モンスターを狙っている時点でそうじゃないかなと思ったよ」
「どういうことですか?」
話によると、ザスチョン家は今当主争い・・・要はお家騒動の真っ最中らしい。
「当主であるクエス=ザスチョンがね、今年の戦争で大けがを負って、隠居しようとしているそうだ。だけど、彼には三人の息子がいて、その中の三男であるガボグが無理やり当主になろうとしているという噂がある」
だが、長男次男よりも優れたところがなく、唯一優れているのはバカさだけだったそうな。
「で、冒険者たちを出世払いとか言って雇って長男たちを襲ったりしていたらしい。証拠を捕らえようにも、そういうところは抜け目がなくてつかめないそうだ」
「で、この際徹底的に確実に当主になれるように・・」
「アルテミスさんを狙ったんですね」
「・・・多分、リーゼも狙っていた」
まあ、さすがに人化をしているとはいえ水龍に手を出すのは危険だと判断したのだろう。
まだ楽だと思えるスキュラのアルテミスを狙ってという事の様であった。
「あの噂話は、流すことによって冒険者たちを引き寄せて、アルテミスに攻撃してもらって、よわたところを捕獲して奴隷みたいにするつもりだったんじゃないかな・・・」
「まあ、町の皆は普段の我を知っておるからそんなうわさ話は信じなかったが・・・」
「信じたモッサンさから、僕らに依頼を出したというわけか」
なるほど、そういう事になるのか・・・
「そもそも、私たちだって仕える人は選びますよ」
「・・勝手に従わさせられるってのは不快」
「フザケンナー」
ハクロたちも、その話に不満ああるようだ。
「まあ、その当主争いが終わったら・・・今度は慰めものにでもしたかもしれないね」
「ひどいわね・・・モンスターとはいえ、同じ女としては憤慨するわ」
モッサンさんの推測に、ルミナスも怒りを示す。
「というか、それならさっさと当主を決めてもらえればいいのに」
その三男とかじゃなくて長男か次男の人にさ。
「そう簡単に決まらないのが、貴族ってやつさ」
モッサンさんも思うところがあるらしい。
「大体、この容姿なのに結婚を申し込んでくる貴族もいたからね。玉の輿とか言いそうだけど、要は見た目で選んできているから断ったよ」
「まあ、中身も残念ですからね」
モッサンさん、見た目が幼い子供なのに一応成人済みだからな。申し込んできた人ってロリコンか?
「ともかく、噂はやっぱりデマだったということが分かったけど・・・」
「その貴族が問題ですねぇ」
このまま港町にいたら、また僕らのように噂を聞いてやってくる人が出るだろうし・・・。
「この際だから、ライがアルテミスたちと偽物の従魔契約を結んだらどうかな?」
「偽物の従魔契約?」
つまり、その貴族の目的がアルテミスたちならば、魔物使いである僕と偽物の従魔契約をして、それで従魔契約をしたという噂話をしてもらえばいいらしい。
「そうすれば、その貴族もあきらめがつくんじゃないかなと」
「モッサンさん・・・まともなアイディアを出せたんですね」
「どういう意味だ!?」
何はともあれ、要は従魔契約をしていないけど、従魔契約をしたよーみたいな話を広めたもらえればいいだけである。
「ほー、魔物使いがおるし、ちょうどいいのかのぅ」
「何の話をしているの姉様ー」
と、リーゼが起きてきた。さっきまで寝ていたとか、この子本当に水龍かよ。
かくかくしかじかと話し合い、その方法で行こうと決めた。
「となると、僕らも数日はここに泊まっていたほうが良いのかな?」
「そうですね、噂を早く広めたほうが良いでしょうし、一緒に過ごすのが良いんでしょうけど・・・」
「・・・ちょっと不満」
ヤタ達としては、帰りたいんだろうか?
「まあ、2,3日ほど滞在すればいいかな?そうすればすぐにでも届くだろうしね」
そういうわけで、しばしの間僕らはこの港町に泊まることになったのであった。
さて、どうくるかな?