指名依頼?
ちょっと移動
ゲソタッコンパニックから数日経過し、すぐに都市の日常は戻った。
ゲソタッコンによる被害は、今のところ畑とかそういうところのようであるが、まあ何とかなる程度で済んだそうな。
なお、ゲソタッコンは当分ザスト内でメニューとして出ており、全員が飽きたころにやっとその在庫はなくなった。
おいしかったけどね。
それからさらに数日後、ギルドにて依頼を探しているときに、受付の人に呼ばれたので行った。
「指名依頼ですか?」
「はい、ギルドマスターからの指名依頼です」
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「指名依頼」
特定の冒険者たちに向けて出される特別な依頼。ギルド、都市、首都、貴族、王族など様々なところから個人に当てて出される。依頼達成報酬は通常の依頼に比べて高いのだが、その分難易度が高い。
断ることも可能である。なお、その依頼中にかかる旅費などは依頼人が全額負担をする。
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ギルドマスターが僕らに指名依頼か・・・一体なんだろうか?
ギルドの二階に上がり、ギルドマスターが待っているという執務室の前に僕らは来た。
ドアをノックする。
コンコン
「指名依頼を受けた、Dランク冒険者のライとその従魔たちですが」
「・・・・入っていいよ」
若干緊張しながら僕らは部屋に入った。
ギルドマスターと言えば、冒険者登録初日の時に見た人である。
ハクロたちが警戒してもいたその人は今・・・・。
「話をしたいけど・・・・まず、助けて」
「何やっているんですか!?」
何やら、笑顔の女性に首を絞められていた。
しかも顔が本気で青ざめており、締め上げている人の方はこめかみに青筋が浮かんで見える。
「助けなくていいデスヨ、この人は女性の敵のような方ですカラ」
なまっているようなそんな発音だけど・・・・明らかに殺意しか見えない。
「女性の敵なら・・・」
「・・・黙認」
「ウミュ?」
ハクロ、ヤタがその言葉に反応し、ロウはいまいちわかっていないようである。
「いや!!さすがに死んじゃまずいですよ!!」
慌ててギルドマスターを女性の手からひったくった。
その際に「ぐえっ」とか聞こえたけど・・・・トドメ刺しちゃったかな?
「ふぅ、危うくあの世に逝くところだったよ・・・」
「ちっ」
舌打ちしながら、締め上げていた女性は部屋を出ていった。
どうやらこのギルドマスターの秘書とかだったらしく、無罪放免とかギルドマスターは言っていたけど・・・・痴情のもつれかな?
とりあえず、気にしないことにした。聞いたら聞いたでハクロたちがそっち側に回りそうだし。
「さて、今回はギルドマスター直々の指名依頼だ。なにを依頼するかわかるかい?」
先ほど瀕死になりかけていた人とは思えないくらい元気になって質問してきた。
「いや、内容がわからないから来ているんですけど・・・・」
「まあ、わからないよね。まだいってないしねー」
・・・ムカッ
なんか今ちょっとイラついたな。落ち着け、相手はこのギルドでも偉いギルドマスターだ。
「今回依頼するのはね・・・・ちょっとある都市でお買い物をしてきてほしいのさ!!」
「買い物ですか?」
「そ、初めてのお使いみたいな感じでね!!」
・・・・ピキッ
何か変な音が聞こえたので見ると、ハクロたちが何やら怒気を出しているように見えた。
「ライ様を完全に子ども扱いしているような感じですね・・・」
「・・・ちょっとあの女性に加担しておけばよかったかも」
「ウミュ?」
ロウの方は、何かわからないと言った感じである。
「お使いですか・・・?」
とりあえず、無視して話を進める。いちいち反応していたら話が進まない。
「ああ、ここから馬車で4日ほど先にあるここと同じような都市『スイブ』にね。馬車代金はこちらから支払うよ」
「スイブにですか・・」
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「スイブ」
辺境都市ザストから離れた海側の方にある都市。ザストよりやや規模は小さいものの、奴隷都市として有名。海側にある利点として、海上輸送で奴隷を大量に運べるからである。奴隷を買い求める人が多いのだが、中には解放させるために買っている人もいる。
たいがいは人間だが、たまにドワーフやエルフなどの集落からはぐれて犯罪を起こしたりして奴隷になった者たちも混じっている。
また、モンスターの中で人間と交わって子がなすことができるようなものも奴隷として販売されている。
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行きたくない都市だな・・・・。
奴隷制度自体は、犯罪者とかならまだいいけど、たまに非合法ななのも混じっているようだし、人が人として見られないようで嫌なんだよね・・・。
「そこで買ってきてほしいものは・・・・まさしくその都市の『奴隷』の一人だ」
「!?」
まさか、ギルドマスターが奴隷を買うなんて・・・・。というか、先ほどの首絞めの原因ってこれか。
「勘違いしないでほしい」
と、いきなり何やら神妙な顔になった。
「今回のはただ奴隷が欲しいからとかそういうわけではない。その買ってきてもらう奴隷はあらかじめ手紙で予約をしているんだが・・・その奴隷というのは、ある集落の娘さ」
「ある集落のですか?」
なんかやけにはっきりと言っているような・・・。
「昔、お世話になった人の娘さんでね、生活が苦しくなったから自身を奴隷として売ったらしい。その金は、その人に届けられたけど、そんなことはしてほしくないと奴隷商のもとに急いでいったんだけど、素早く転売されていて、探し当てたらそこにいたってわけさ」
つまり、このギルドマスターはその娘さんを助けたいということだろうか。見た目チャラ男だけど、結構深刻そうだし。
「ただね・・・予約を入れて買うって決めたのはいいんだけど、最近少しばかりギルでの仕事が忙しいから、いけないのさ。他の職員にも買ってきてもらおうにも、そっちも仕事が山積みだからね」
「で、冒険者に指名依頼をと」
「そういうこと」
「・・・・何で僕らなんですか?」
これでもまだEランクなんだけど・・・・そういうのを任せるなら信用性が高い上のランクの人のほうが良いんじゃ。
「まあわけありでね、心配な点があって・・・・で、君なら大丈夫かなと?」
「心配な点ですか?」
「まあ、その美しいお嬢さんがたを連れているしね・・・」
ハクロたちを連れていることとなにか関係があるのだろうか?
「早いとこ行かないと、予約取り消しってことになるんだけど・・・どうかな?」
「・・・わかりました、受けましょう」
まじめな感じだし、まあ遠出感覚でいいかな?
奴隷を買う代金とか予約証明書などを受けとり、明日出発すると言って退出したのであった・・・・。
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ライたちが部屋から出た後、ギルドマスター・・・アーガレスは椅子に腰かけた。
「聞いた話だと、その娘さん厄介なモノを持っているらしいからな・・。美しい女性を連れて平気なあの冒険者なら大丈夫だと思うけど・・・・」
アーガレスは思い出す。昔、偶然立ち寄ったとある隠れ里のような集落で世話になった人物を。
その人物の娘が奴隷になっていると聞き、慌てて対応したはいいけど買いに行く余裕がね・・・。
それに、その厄介なモノもある。ライなら平気かなと思い、こうして出したのであった。
「期待の新人だし、魔物使いの星ともいえる。この指名依頼を無事にこなせたなら、ランクを上げることを検討しておこうかな・・・」
指名依頼というよりお願い?