目的は?
本日2話目
空の旅から数十分ほどたって、やっと僕は降ろされた。
どうやら結構大きな大木の真上の様で、枯れ枝などが敷かれて大きな鳥の巣のような感じである。
「ここに連れてきて、何がしたいんだ?」
まだこのハーピーの意図が読み取れない。
ハーピーは本来、雄雌どちらも他種族と繁殖を行う習性があるらしい。
だけど、ほとんどが大人を相手にしているから、まだ10歳の僕を攫うのは繁殖のためだとは考えにくいのだ。
子供を攫うとすれば、別のモンスターもいるのだが・・・ハーピーとはさらに姿が違う物だという。
しかも、このハーピーはどうやら超希少種クイーンハーピー。わかっていないことも多いのだけど・・・。
「・・・目的?」
「そうだよ、何で僕を攫ってきたわけ?」
何でなのか全くわからないからね。まさか、食べるため・・・はないか。ハーピーはモンスターの中でも珍しく人肉を好まない種族らしいし。
「・・・こうしたい」
「え?」
と、いきなり抱きしめられた。
翼がモフモフしていて温かく、気持ちいい。
なんか、ほわぁと安心できる感じ・・・・。
例えで言うなら、親鳥に温められる雛みたいな。
そのまま抱きしめられていると、更にギュっとされた。
胸の部分は、普通のハーピーとは違うクイーンハーピのハクロと同じぐらいのせいか、こちらも・・・って!?
(もがぁぁっぁっつ!!)
窒息!!窒息するって!!
ハクロと同様。すなわち、同じ窒息死させられる可能性があるのだ。
ぺちぺちと手で叩くけど、ほとんど効果がない。
ぎゅーっと抱きしめられて、温かくて気持ちいいけど息が・・・・。
そのままガクンと、僕は気を失った・・・・。
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「・・・あれ?」
ほんわかと幸福な気持ちで抱きしめていたライが急に動くのを止めたのを見て、ハーピーは首を傾げた。
ぱっと離すと、そのまま倒れる。
どうしたのかと思ったら、どうやら気絶したようである。
「・・・・?」
抱きしめて窒息させて気絶させたことには気が付かないのであった。
とにもかくにも、すこし小腹がすいたので寝ているようだし、ちょっと木の実でも取りに行こうかと羽ばたいた時であった。
しゅっるるるるるるっつ
「!?」
「や、やっとつかまえましたよ・・・」
いきなり意図が体に巻き付いて、羽が封じられたかと思うと、後ろの方に誰かがいた。
「・・・・あの時のアラクネ?」
ハクロである。彼女はライを追ってこの木の真下まで来て、上ってきたのだ。
ライを抱きしめていた時に幸福感を感じていたので、ハクロが昇ってきていることに気が付かなかったのである。
「ライ様に何をしたんですかこの鳥もどき・・・!」
ライがハーピーの足元で倒れているのを見て、ハクロの頭に血が上ってきた。
「・・・抱きしめたら寝ただけ」
ギリギリと糸が締め付けられながらも、ハーピーは表情を変えずに返答をする。
「気絶してますよねそれ!!」
明らかに寝ているのとは様子が違う。というか、自分がやらかした時の状況に似ているのをハクロは気が付いた。前科はすでにあるからね。
「このまま糸をつけたまま投げ飛ばします!!」
巣の上に上り、ぐいっと糸を引っ張って、投げ飛ばそうとした時だった。
べきっつ
「へ?」
「・・・え?」
・・・・巣が抜け落ちた。
そもそも、この巣はもともとこのハーピーのみが使用していた物で、多人数を想定していない物だったようである。風雨にさらされて傷んでいる個所もあった。
ライの体重はまだ軽いからいいとして、どうやらハクロの体重でとどめを刺したようなのである。
巣が崩壊し、ハクロたちは落下した。
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「・・はっ!!」
巣が崩壊したタイミングでライは気が付いた。
が、その状況で現在落下中。
「どうなっているの!!」
気が付いたら落ちているってなんで!?
「ライ様ー!!」
「ハクロ!!」
ハクロも一緒に落ちているようで、その手元から伸びた糸の先には巻き付かれているハーピーの姿もあった。
「ハクロ!!急いで糸を木に巻き付けて!」
ハクロにとっさに指示を飛ばし、ハクロが糸を木に巻き付ける。
すぐにハクロが僕に糸を飛ばし、巻き付けて引き寄せ、抱えられた状態で何とか落下が止まった。
そのままゆるゆるとゆっくり降りた。
「ふぅ・・・ハクロのおかげで助かったよ」
「いえ、ライ様の指示のおかげです」
ハクロから降り、地上を踏みしめる。
うん、空もよかったけどこうやって歩けるってことは素晴らしいことなんだね。
「・・・あの」
「あ」
ハーピーが話しかけたので、その存在を思い出した。ハクロの糸にぐるぐる巻きで捕まったまま、地面に寝転がされている。
「ライ様、この鳥もどきは私が照り焼きに料理いたしますのでお下がりください」
ハクロがずずぃと前に出た。
「いや、ちょっと待ってハクロ」
「なんですか?」
ハクロをこのままにしておくと、このハーピーが本気で照り焼きとか焼き鳥などにされそうだったので、後ろに下がらせた。
そして、僕はハーピーに近づいた。
「・・・」
無言で無表情のまま僕を見るハーピー。
「気になっていたけどさ、君ってもしかしてさみしかったんじゃないの?」
「・・!?」
ちょっと気になっていたことを指摘したら、少し驚いたような反応を示した。
やっぱり、思った通りか。
「さっき、抱きしめられたときなんかこうぎゅっとしていたけど、本当は誰かに抱き着いたりしたかったんじゃないの?」
先ほど抱き着かれて窒息死しかけたときの事である。
なんか寂しがって、抱き着いてきたとか、そういう感じ。
昔、まだハクロに従魔になってもらいたての時に、お母さんたちが出かけて寂しくなった時にハクロに抱き着いたときのようなそんな感じだった。
「クイーンハーピー・・・・ハーピーの超希少種。他のハーピーと違う見た目だったから仲良く出来なくて、一人で過ごして、さみしかったから適当に誰かを攫って、抱きしめていたかったんでしょう?」
要は、仲間外れみたいなものである。
「・・・半分正解、半分はずれ」
と、ハーピーが話し始めた。
「半分はずれって?」
「・・・確かに、私は寂しいという思いがあった。けど、誰でもいいいというわけではない」
と、何やらじっと見てくる。
「・・・なんとなく惹かれた、そして、決めただけ」
「・・・・・私に近いパターンですかね」
と、ハクロもつぶやいた。
「もしかして、ライ様の従魔になりたいのでは?惹かれるってことは・・・」
「そうなのか?」
「・・・・肯定」
どうもそうらしい。
「って、攫う必要あったの?」
「・・・なかったかもしれない」
「なかったですよ!!」
ハクロがツッコミを入れる。おお、なんかいつもはツッコミを入れられる側なのになんか珍しい。
「それじゃあ・・・・僕の従魔になってくれるのかい?」
「・・・なる」
どうやら、クイーンハーピーを従魔にできるようである。
「って、従魔が増えることになるけどハクロはいいの?」
と、ここでふと思った。先ほどまでこのハーピーに怒髪天だったハクロはいいのかと。
「思うところはありますけど・・・・ライ様の決定なら文句はありません」
ちょっと思案顔になって、ハクロが答えた。
「じゃあ、名前を与えれば従魔契約できるんだったよね?」
「そうですね、モンスターの方から認めていたり、心を許したりしている場合に『名前』を与えられることによって従魔となります。今の状態ならばできるはずです」
名前か・・・クイーンハーピーで、ハクロに近い容姿で、黒い翼と髪・・・・なんか既視感あるような気がするけど・・・・なんか少し違う感じだけどこれかな?
「それじゃあ、お前の名前は・・・『ヤタ』でいいかな?」
「・・・『ヤタ』・・・・・それでいいかも」
と、ハーピーがうなずくと、足元に魔法陣のようなものがハクロの時のように現れて、すぐに消えた。
「・・・従魔契約完了。これからよろしくお願いいたします、我が君」
「その言い方はちょっと・・・・」
「『ライ様』だと私と被るからいいのでは?」
なんかちょっと微妙な呼ばれ方だけど・・・まあいいか。
「・・・・そういえば、ここどこだろう」
「あ」
「・・・私の元巣があった場所」
いや、それ全然あてにならないからね?
その後、ハクロがここまでに来た道のりの荒れ果て具合から帰り道がわかり、僕らはやっと元の場所へと戻れた。
先生たちが探しに来ていて、従魔が増えたことを驚かれたのと同時に、反省文を書かされたけどね。
1000枚は辛いよ・・・・。
ところで、従魔が増えたってことは部屋狭くなるんじゃ・・・・