勉強だよ
本日2話目
のんびりのんびり学んでいこう
冒険者用学校へ入学し、数週間ほど経過した。
「えーと、ここでこれを足して、5引いて、9足して」
「ライ様、この部分の計算が間違っていますよ。ここは4引きまして」
寮の自室にて、今日の復習を僕はやっていた。
ハクロが意外にも計算がわかるみたいで、確かめてもらっているんだけど・・・
「これを引いて」
「ライ様、そこは6足した後に引きますよ」
念のため、答えがあるので確認・・・ハクロの言う通りみたいなんだよな。
「なんでハクロが計算できるんだよ」
「え?式さえ頭にいれれば簡単ですよ?」
どうやらハクロは、見て聞くだけで覚えられるようである。うらましいな。
そもそも、冒険者用学校でなぜ算数などを習っているのか。
理由としては、将来的見通しがあげられる。
冒険者用学校を卒業できたら冒険者として働くのだが、冒険者となってもいつまでもランクが上がらない人が冒険者を辞めたときや、寄る年波が原因で引退したときに、何もできなかったら困るからだ。
こうして勉強をすることによって、それなりに社会に出ても大丈夫なようにするのである。
退学しても、どこかに雇ってもらう際に、ある程度の座学ができていれば、全く出来ていない人よりも安定した収入をもらえる可能性が高いらしいからね。
とは言っても、やはりそこは冒険者用学校。
冒険者に必要な薬草を見分ける訓練や、モンスターの種類や生息地なども学ぶのである。
さらに、学科によって異なるところもある。
戦士科だったら、剣など武器を扱う訓練や体術の基礎訓練など。
魔法使い科だったら、呪文の早口詠唱や無詠唱の訓練、魔道具の作り方など。
癒し科だったら、人を癒せるような笑顔や、薬の調合。
そして、魔物使い科は従魔に命じたり、判断させたりなど素早く行う訓練が行われるのだ。
ちなみに、普通の算数などの授業の時には、従魔は主である魔物使いの側にいて一緒に学ぶか、授業終了まで校庭を走り続けさせられるかなどがある。
ハクロは一緒に学ぶの方を選んだよ。明らかに校庭を走るのを拒否したようだけど・・・こうして授業の復習をする際に手伝ってくれるから助かる。
「おーい、ライいるか?宿題手伝ってくれ」
「またかよ・・・」
部屋の外からノックがあり、中にいれた。
この学校に来てからできた、同じ魔物使い科の同級生であり友人のタルサである。
彼が連れている従魔は植物型モンスターの「トレント」の「トト」であった。
一緒に顔がついた切り株が入ってくる光景はちょっと怖いかもしれないが、トトはどうやらおとなしい性格らしく、常にじっとしているのだ。
「こんにちは、トト」
「・・・」
話しかけるが、トレントは喋らないし、鳴き声もあげない。まあ、だいたいの機嫌はその頭にちょこんと生えた葉っぱでわかるのだが。
話しかけたらくるくる葉っぱが回るから、今日は機嫌がよさそうである。
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「トレント」
植物型モンスター。古い切り株や、切られた手の切り株がモンスター化したもの。切り株ならとにかくトレントになるのだが、できる確率は一万本切り倒してやっと1体という位なかなか出にくいモンスターである。切り株だが、顔のような模様が浮かび上がり、そこに眼球なども形成されている。どの種類の木の切り株かによってトレントの特徴も異なるのだが、トレントの進化種「エルダートレント」になると紫色の古ぼけた切り株の姿に統一される。基本的には無害なのだが、毒をまき散らす有害なものは討伐対象となる。
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トトは無害で無口なトレントらしく、タルサの従魔になった経緯は、昔適当に木をぶった切ったことがあって、たまたまトレントとなっていつの間にか従魔になっていたそうな。何の木だったのかはタルサは覚えていないようだが、どうやら果物がなる木だったらしく、すこし甘いにおいを出している。
ある意味スゴイ確率である。
なお、名前の由来はトレントの前後の文字からつけたらしい。
「タルサ、自分でまじめに宿題をやろうとは思わないの?」
「いや~だって、ライ、ハクロさんが教えてくれるからいいじゃん」
タルサと友人になった経緯はいたって簡単である。
前に、フーリン先輩が言っていた女湯を覗き見してどうなるかを身をもって教えるであろう最初の男子・・・今年はタルサがそれになったのである。
風呂にゆっくりと浸かっていると、タルサが桶を並べていき、階段状にして仕切りを超えて見ていたら、気が付いた女子生徒が桶を投げたのだ。
直撃し、そのまま落っこちるタルサ。
風呂から上がった後、女子達が待ち受けていて集団でぼっこぼこにされていく様子・・・怖かったなぁ・・・。
なお、女湯の方にはその時ハクロは入っておらず、他にいた従魔たちと何やらそれぞれの主についての話し合いをしていたらしい。ハクロって一応上の部分が人間の女性とほぼ変わらないから女湯に入れるのだそうだ。
どういうふうに話されていたかは気になるけど・・・というか、他のモンスターと会話できているのが不思議だが。
・・・・それは置いておいて、ぼっこぼこにされたタルサはその後他の男子たちから慰められて、皆仲良くなった。勇気あるバカとしてたたえられていたけど・・・・・それって褒めているの?けなしているの?
とにもかくにも、この騒動の跡に何回か話しているうちに、自然と互いに友人となっているのであった。
なお、女湯の覗きが危険なことはタルサが身を持って示したはずなのだが、ハクロが女湯に入っていることを知った男子たちが同様の事をしてぼっこぼこにされていたのは後の話。
ハクロはこの時、「ライ様以外には裸を見られたくはないんです」とか言って、仕切りの覗きができる部分にみっちりと隙間なく糸を吐いて見えなくしたけど、この発言のせいで危うく他の男子たちからのリンチに遭いそうだったよ。
まあ、何とかなったけど。
とにもかくにも、勉強再開。
「ここで、これを足せば」
「・・・正解です。よくできましたねライ様」
ハクロに褒めてもらうのはうれしいけど、従魔に褒めてもらう魔物使いって・・・・。
「えっと、ここは4引いて6足して、3引けはいいんだよな?」
「タルサさん、全部間違っていますよ・・・・」
タルサの回答を見たハクロが苦笑いを浮かべた。
今のところ、僕の成績は普通だけど、タルサが結構やばい状態らしいからな・・・・。
どことなく、タルサの従魔のトトも苦笑しているような気がした・・・・。
学校のシステムから言うと、どこか義務教育に近いものがあるかな?
ハクロはやればできる子なんですよ・・・・無駄にしているところが多いだけで。
なお、風呂に入る際に従魔たちは本当は従魔たち用のがあるけど、学校側から人の見た目に近いモンスターは一緒に入浴してよしという校則が出ているのである。




