表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師は黒猫がお好き-転生使い魔の異世界日記-  作者: 東 万里央
第二話「空と海と嘘とキス」
23/26

023.海賊ヴォルフガング(1)

 あんまり何度も引っかいたから、疲れてしまったんだろうか。きっとお腹も空いていたんだろう。私は箱の中でぐったりとなって、浅い息をくり返し吸って吐いた。


 嫌だ、嫌だよう。こんなところで「また」死ぬのは嫌だよう。


――ううん、待って。


 私はなぜかぎくりと身体を震わせる。


 どうして「また」だなんて思ったんだろう? 


 そう考えはじめたとたんに、頭がずきんと痛んだ。痛みはどんどん強くなって、がまんできなくらいになっていく。


 痛い、痛いよう。クルト、助けて……。


 私がここにはいないクルトに助けを求めていると、次は知らない誰かの声が遠くから聞こえた。


――ルナ、思い出してはいけないよ。


 優しい声だった。どこかで聞いたことがあるような、ないような不思議な声だ。


――あなたは、だぁれ? 


 柔らかな、でも温かくはない手が額に当てられた気がした。手は私の額をそっと撫でて痛みを取りのぞいていく。


――決して思い出してはいけないよ……。




◇◆◇◆◇




 私がやっと目を覚ました時には、もう頭は痛くなくなっていた。不思議な声も聞こえなくて、私は夢だったのかにゃと首をかしげる。


 ところがううんと背伸びをする前に、箱がぐらりと持ち上げられて、私は慌てて壁に爪を立てた。


 にゃ、にゃにが起こったんだにゃ!?


 外からは二人の男の人の声が聞こえる。ヴェンディスの港で聞いた声とは違うものだった。


「この船倉の物品はこれで全部だな?」

「ああ。けどよー、こんなもんマジで売れるのか? 宝石や黄金ならともかく、ガラスじゃねえか」

「阿呆。ヴェンディスのガラス細工の価値を知らねえのか。高いもんになると家が一件建つんだぞ」

「へえ、ガラスがねえ」


 この人たちはいったい誰で、どこへ行くつもりなんだにゃ!?


 慌てふためく私の二つの疑問は、次のセリフですぐにわかった。


「この船はどうするんだ?」

「盗るもん盗ったら用なしだからな。海軍に見つかるとまずいから、沈めることになるだろうさ」

「……!!」


 身体が一気に冷たくなるのを感じる。


 この人たちは海賊だ!!


 私が眠っているうちに貿易船が襲われたんだろう。品物を運び出している最中なんだ。他に中にいた人たちは無事なんだろうか。


 私の心配に答えてくれる人は誰もいない。そうこうする間に私の入った箱は、また冷たく静かなところに運びこまれた。ところが前とは違って放り投げられてしまったのだ。


「み"ゃーっ!」


 頭をまたぶつけて悲鳴を上げる。


「おい、乱暴にするなよ!」

「こんだけありゃ一個くらいどうってことねえだろうが」

「ま、な」


 海賊の二人はガハハと笑い合うと、私を残してどこかへ行ってしまった。


 私はそっとフタを頭で押してみる。何かが外れる音がしたので、もしかしてと思ったのだ。


「……!!」


 フタはやっぱりすぐに開いた。私はおそるおそる外に出ると、あたりの観察を開始したのだった。


 心が落ち着いて目が闇に慣れ、あたりがくっきり見える。ここは海賊船のせんそうみたいだ。そんなに広くはないけれども、いろんなものが置かれている。


 私が入れられていた箱は、右側の片隅に積みあげられている。これはガラス細工だって海賊が言っていた。その隣にはふち取りのされた木の箱があって、中から金貨があふれ出している。


 あっ、これは一番高いお金のはずだにゃ。いったい何ゴールドあるんだろう? 


 さらに隣にはやっぱり同じ箱があって、ミルク色に輝く球の首飾りや、赤や青の石のついた指輪や腕輪が入っていた。箱のほかには霊薬になると言われている、ユニコーンの角なんかも何本もある。


 どれも見つめていると目がちかちかするにゃ! それに食べられるものもないみたい。


 食べられるものと考えたとたんに、私のお腹がくぅと小さな音を立てた。


 ああ、やっぱりお腹が空いた。今はヴェンディスに戻るよりも、まずは腹ごしらえをしなくちゃ。


 私はぬき足、さし足、しのび足で、せんそうの扉の前へと近づいた。そっと鼻先で扉を押してみる。カギがかけられているかもしれない――けれどもそんな私の不安は扉が開いたことで、すぐに跳ねあがるほどの喜びに変わった。


 今度は閉じ込められたんじゃないみたい!


 外に一歩足をふみ出すと、つんと潮の香りがした。それから寄せては引く波の音。揺れはそんなに感じないから、どこかに停まっているんだろうか。


 廊下はすすけた木の板でできていて、足あとはあっても人はどこにもいなかった。けれども目を閉じて耳を澄ませてみると、遠くからたくさんの笑い声が聞こえる。


 どこかでえんかいをしているのかにゃ? おいしそうなにおいも漂ってくる。これは鶏肉の丸焼きに違いないにゃ!


 私がにおいにつられて廊下を進んで、角を曲がろうとした時のことだった。向こう側からやって来た海賊と、ぶつかりそうになったんだ。


 私はびっくりしてみゃっと毛を逆立てた。


 だ、誰にゃ!? 海賊でも容赦しにゃいにゃよ!! このツメのエジキにしてやるにゃあ!! フーッ!!

 

 それはクルトと同じくらいの年の、とても背の高い男の人だった。白いシャツに真っ黒な上着をはおって、やっぱり黒いズボンをはいている。


 はだけた胸もとには革ひものチョーカーと、金の大きな輪の鎖をつけていた。耳にも金の輪のピアスがいくつもある。腰の太い革ベルトにはサーベルがさされていた。


 短い髪はいぶしたような銀で、目は金の混じった明るい緑だ。肌は陽に焼けていてあさぐろい。胸もお腹も引きしまってたくましかった。


 けれども何よりも目を引いたのは、右目を斜めに切りさいたような傷だった。ううん、よく見ると顔だけじゃなくて、胸にも腕にも傷あとがある!


 こ、怖いにゃ。なんだかよくわからないけど怖いにゃ!

 

 私がその場にかちんと固まっていると、男の人は「ああ?」と頭を掻いた。その場にしゃがみ込んで私をしげしげと眺める。


「なんでまた船に猫がいるんだ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ