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魔術師は黒猫がお好き-転生使い魔の異世界日記-  作者: 東 万里央
第一話「月の光と胸の痛み」
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002.モフモフこそ最強説(1)

 私はルナ。ケット・シーのルナ。古い言葉で「お月様」って意味の名前なの。私はソロの冒険者にして渡りの魔術師、クルトのたった一匹の使い魔だ。


 ケット・シーは猫型の魔物で、人間並みの知能と魔力を持つ。模様はいろいろあるけれども、私は黒一色の毛並みがじまんだ。そして使い魔とは魔術師の仕事を助け、パートナーとなる魔物のこと。


 そんなケット・シーにして使い魔の私は、主人のクルトと一緒に世界中の街から街へと旅をしていた。ちなみに一時間前に新しい街に着いたばかりであり、現在一人と一匹で街歩きを楽しんでいるところだ。


 いつもはクルトについて歩くことが多いけど、ここ、マーヤ市の大通りは人が多くて危ないからと、ひょいと肩に乗せてもらっている。私はこの場所が大好きだった。だってクルトと同じものが見られるもの。クルトの背は高くてほとんどの人間を見下ろせる。


 マーヤは前の街より大きくてにぎやかだ。街に有名な大聖堂があって、その宿場町になっているからなんだって。冒険者ギルドの施設も大きくて、クエストの依頼もたくさん集まっている。武器屋も、道具屋も、薬屋も、大通りの両側にずらりと軒を連ねていて、冒険者じゃない旅人にもとても便利な街なのだ。


 大通りには住民や商人のほかにも、冒険者のパーティが何組も歩いている。戦士、僧侶、武闘家、中にはクルトと同じように、肩に使い魔を乗せた魔術師もいた。


 あっ、あの子も私と同じケット・シーだ。黒と白のぶちの男の子みたい。向こうも気がついて私をちらりと見てくる。きっと同じ年ごろだけど、やっぱり私よりずっと大きいな。


 私がクルトと出会ってもう一年が過ぎている。その間に私はぐんぐんと大きくなって、クルトの手の平に乗るサイズから、ちょっと小さい猫くらいにはなった。けれども同族のケット・シーには遠く及ばない。


 後ろ脚だけでは歩けず人間への変身もできず、念話とレベルの低い治癒の魔術しか使えない。ほとんどのケット・シーは生後半年で人型になれて、魔術もお手のもので主人のクエストの補助ができるのに。


 クルトは「急ぐことはない。そのうちできるさ」と慰めてくれるけど、ケット・シーは人間に比べて成長が早い。一年で人間の十六、十七歳くらいにはなってしまう。そこから先は不老のまま一〇〇歳くらいまで生きるのだ。


 つまり私はもう人間では立派な成人にあたり、のびしろがあるとは思えなかった。普通のケット・シーだったらよかったのにと落ち込んでしまう。だって私は魔術師の使い魔のはずなのだ。使い魔なら使えなくちゃいけない。


 私はいつだってクルトの役に立ちたいのに、どうしておちこぼれのままなんだろう。頑張っているつもりなんだけどな。まだまだ頑張りが足りないのかな。


 街や人への好奇心いっぱいの態度から、しゅんとなった私が気になったのだろうか。クルトが手を伸ばし私の頭を撫でた。


「ルナ、どうした。疲れたのか?」


 私は慌てて頭を上げて念話で答える。


『何でもないの!ねえ、クルト、今からギルドへ行くの?それとも酒場?宿屋?』


 クルトはそうだなと辺りを見回した。


「まずはギルドからだな。手持ちが不安だからひと稼ぎだ」




◇◆◇◆◇




 冒険者ギルドとは危険がともなう依頼を預かり、その仕事を冒険者にあっせんする組織だ。仕事の内容はさまざまだけれども、大体がレア素材やアイテムの収集か、人間を脅かす魔物の退治になる。


 私たちのいるマーヤは四方に開発中の森や林が多く、そこには肉食の魔物が頻繁に現れ、貴族や村々からの依頼がひきも切らない。そんな理由で手っ取り早く稼ぎたい冒険者たちがやって来る街でもある。


 マーヤの冒険者ギルドの施設は中心街に立っていて、建物は隣国の王都で見たお城のように立派だった。薄い茶の石づくりになっていて、五階はあるんじゃないだろうか。アーチ形の広々とした入り口は、どっと人が押し寄せても平気だろう。


『すごいねえ、クルト。お金持ちの街なのね』

「この国ではすべての街がこうらしいぞ。現国王が非常に有能なのだと聞いている。まだ御年二十四なのだそうだ。名君に年齢はまったく関係ないな」


 クルトはほんの少し複雑そうな口調になった。うん?どうしたんだろうか? クルトは「行くぞ」と呟き施設の入り口をくぐった。「魔術師の方はこちらへ」と書かれた窓口へと向かう。


 私たちのように他国からやってきた冒険者は、まずその国のギルドで登録をしなおさなければならない。それから身分証明書でもあるギルドカードをもらい、ようやく仕事を受けることができるのだ。


 隣の戦士の窓口には冒険者がずらりと並び、受付のお姉さんがパニックになっていた。いっぽう魔術師の窓口は運がいいことにガラガラだ。私たちはすぐにギルドカードを作ることができた。


 クルトは木のカウンターに愛用の杖を立て掛けると、お姉さんに「ではさっそく」と声を掛ける。


「ソロで三〇ゴールドを稼げる仕事はあるか? 素材採集でも、ダンジョンでも、魔物退治でもいい」


 お姉さんは難しい顔になり、「そうですねー」と首を捻った。


「この辺りではソロ可の三〇ゴールド以上の依頼はほとんどがAランクの冒険者からなのです。B以下の方はどうしても三人以上のパーティが条件になることが多いんです」

「そうか……」


 クルトはカウンターに置かれたギルドカードを見下ろした。そこにはざっとクルトの身分や立ち位置が説明されている。


名前: クルト・フォン・ハンス(十九歳) 

冒険者ランク: B

誕生日: 黒竜の月の第二週 

出身地: ルシタニア王国首都

資格: 魔術師(攻撃/補助/回復) 

取得地: ガラティア王国シレジア市

特記事項: 依頼により剣の使用も可能。

     剣は戦士でのランクC


 そう、「カードにある」クルトの冒険者としてのランクはBだった。

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