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STO ― 昭和東京オペレーター物語 ―  作者: TAM-TAM
Final Stage.たったひとつの冴えた空中殺法
37/41

Final Stage.(2)ラストバトル・前編

▼2


 そして再び訪れた文京区の後楽園球場――その跡地。

 砕けたコンクリート、折れた鉄柱、割れたアスファルト、さながら天変地異の後のような惨状が島津達の眼前に現れる。


「これはまた……徹底的に破壊されてますね……」

『特に背の高い建物の破壊具合が顕著だな。つまりはそれだけ奴も胸から上への攻撃を嫌がってるってことだ』


 山路の呟きに、オペレーターインカム越しの島津の分析が返ってきた。それを受けて緒賀も一言。


「オレ達にも立体機動みてェのが使えりゃァな」

『道具の開発、習得の訓練、それから新しい戦術の構築に1ヶ月どころじゃない時間が必要だろうからな』


 テレビのアニメで観た、ワイヤーとガス噴射を駆使した縦横無尽の高速機動を思い出しながら論評した島津は更に言葉を続ける。


『それに、空中に居る間は隙が大きい。狙い撃ちされたら一たまりも無いぞ。だから今日の戦闘じゃあ空中戦は一度っきりだ』


 振り返ってみるならば、狭間が致命傷を受けたのも緒賀があわや撃墜されかけたのも、巨人の上半身に攻撃を加えた直後の滞空時間を狙われてのものだった。


「ん。遠距離は任せろ」


 なので自然と、攻撃の主軸は神野および別働隊として参加したガンナー組だ。


 ちなみに釘屋が募集をかけた別働隊には、平均的に高い能力を誇る『姫様のお茶会』と『お姉さんの保健室』、パーティ全員が射撃慣れしている『グングニル』、パーティ内にガンナーが2人居る『ラーメン研究会』、それからガールズパーティの『銃撃少女帯』からガンナー少女3人が参加していた。

 質、量共に申し分の無いメンバーである。


 いずれも熱い魂を強い理性で包んだ一騎当千の強化人間達である。

 島津達の生き様に共鳴した者、自分達のプライドの為に参戦した者、過去『東京防衛戦(TDL)』に助けられて借りを返す機会を待っていた者……動機や事情は人それぞれであるが、皆が誰からも強制されずに自分の意志でこの場に居ることは間違いの無い事実だ。


 上位陣の一角である『県立日本防衛軍』が不参加であったが、彼らは遠距離が苦手な脳筋パーティなだけなので代わりに別働隊が待機してある位置周辺の雑魚狩りに勤しんでおり、間接的に貢献している点を記しておくべきだろう。


「さて、予測どおりならそろそろね」


 眼鏡の位置を直しつつ、悠里の表情が真剣味を帯びる。無駄に待つ時間が長くならないよう、これまでのアロガントの出現時刻を分析してこの日の出現予測時刻を算出していたのだ。

 そして、まるで彼女のその言葉に反応したようし、周囲が一気に暗くなった。


「はッ! 予定時刻ピッタシか! ま、こんなイイ女が揃ってるんだから待たせるような野暮も無ェだろうしな!」


 晴れ渡り、太陽も強く輝いているままの空模様だったが、アロガントの登場エフェクトである暗闇の柱がまるで周囲の光を吸収したかのように辺りの光量が減少していた。

 “七つの苦難(セブン=トーメント)”最後の1体である暗黒の巨人の登場に備え、気合いを入れ直した緒賀に続くように他のメンバーも各々の武器を準備。


『おハルさん、釘屋。闇の柱が立った。戦闘を開始する。本日天気晴朗なれども波高し』

『はい、どうかご無事で~』

『こっちからも見えてるわ。援護は任せて。その代わり上手く誘導してよね』


 圧倒的な質量を持つ巨体が闇の柱をゆっくりと降りてくる存在感を肌で受けつつ、島津が基地で待つ組へと連絡を入れる。返って来た声はどちらも緊張が感じられたが、プレッシャーに呑まれた様子は無くむしろ高揚感すら含まれていた。


『さて、ここからは今まで積み重ねてきたことの集大成だ。俺達の力だけじゃない。頼りにしてる仲間が力を貸してくれるし、過去の強敵達との戦果だって利用しないのは勿体無さ過ぎる財産だ』


 珍しく感慨の込められた島津の声に、仲間達も戦意を滾らせることで答える。


『これで最後だ。勝って、生きて帰るぜ!』

「応ッ!」「はい!」「了解」「勿論!」


 皆が気合いの声を上げると同時に暗黒の巨人アロガントが地上へと現れ、遂に最後の戦いが始まりを告げた。





 地鳴りと共に、暗黒色の巨体が一歩踏み込む。それはアロガントにはほんの一挙動であるがサイズの違う人間側にとっては脅威の移動能力で、約10メートルの距離を一気に詰めてきたのだ。

 そのまま手刀を振り上げて強烈な攻撃を叩きつけた。前衛の島津、緒賀、山路が散開したところに、巨大なハンマーで打ちつけたかのような爆音と衝撃が弾ける。

 黒い土と瓦礫が火山灰のように舞い上がり、一瞬視界が濁った。


『緒賀、確実に回避することが優先だ。無理にカウンターを狙うなよ』

「へいへい、ッっと」


 普段ならこういう場面は紙一重で回避しつつ単分子(ブレード)で斬りつけるのが緒賀の基本戦術であるが、アロガントの攻撃の場合回避しても地面が爆散してその勢いに巻き込まれてしまう。序盤は射撃メインで状況を組み立てていくのが安全ということだ。


 初撃を空振りしたアロガントが立ち上がったところに、まず島津と山路が光線銃(レーザーガン)で射撃。

 位相と振幅と波長を合わせた光線を束ねて増幅することで殺傷力を持つまでに至らせた昭和の科学の粋がアロガントを強襲したが、見たところ大したダメージにはならずに黒銀に輝く表皮に散らされて霧散する。


『少しは効いてそうだが……5分間って制限時間(リミット)だと無意味に等しいな』


 充分の時間があり相手が逃走しない状況下だと小ダメージの蓄積も有効であるが、今回はどこかで大技に頼らなければならない。

 だが、大技を気取られて対策されてもいけない。小技で気を引き相手を罠にかける為にも島津達は次々と攻め手を変えて行く必要があるのだ。


 お返しとばかりに、アロガントは胸の前に持ち上げた両の掌の間に灼熱の炎を生み出す。高層ビルすらも焼き尽くす程のエネルギーが両手から注ぎ込まれ、火球が徐々に大きくなっていく。そこへ――


「……それは、対策済みっ」


 神野が手にしたハンドキャノンから炸裂弾を射出。弾丸はアロガントの作り出した火球へと吸い込まれ、破裂する。その際の衝撃と仕込んでいた火薬への引火とで火球が誘爆を起こし、アロガントの上半身が炎に包まれた。


『OK、ナイス爆破だ』

「よーし! この隙にッ!」


 爆炎がアロガントの視界を覆った好機を見逃さず緒賀が猛ダッシュをかける。相変わらずスカートの裾の翻りに頓着しない豪快な走りであるが皆慣れたのか諦めたのかもはや何も言わない。

 そしてその駆け抜ける勢いを乗せて単分子(ブレード)の刀を振るい巨人の足首を切断しようとしたが、危険を察知したか地響きと共に一歩後ろに下がられたので浅く切り傷をつけるに留まった。


「ちィッ! 避けられたか!」

『一度見せた攻撃だからな。あちらさんも学習してるんだろう』


 そう評しつつ、島津はハンドサインでパーティ全体を隊列(フォーメーション)は維持したままで三歩下がらせた。狙撃準備をしている別働隊の射線へと誘導するためである。

 その誘いに乗せられたかそれとも単純に先程の攻撃に対する逆襲の為か、アロガントも地面を割る勢いで一歩踏み込んで足を振り、サッカーボールを蹴る時のような蹴りを放つ。


『避けろ! 山路!』

「いえ、受けきってみせます! ここで逃げると、後衛が無防備にっ!」


 防御に優れたディフェンダーでもまともに受けると盾ごと潰されそうな一撃。それに対し山路は道具箱(インベントリ)からこの日のために用意した秘密兵器(とっておき)を取り出す。

 それはいつも使っている物に比べて二回り以上大きく、分厚い盾。ジュラルミンと硬化プラスチックを重ね合わせた二重構造の上から、更に凶竜レイジの鱗を貼り合わせて極限まで防御力を追求した一品だ。

 当然その盾は大きさ・重量共に人が持って扱うようなものではなく、据えつけられた(スパイク)を地面に突き刺して固定させる造りになっている。山路も叩き付けるように路面に対し垂直に盾を固定し、裏側から両手で押さえつける。


 重く、鈍い音。


「――くぅっ!」

山路(やま)ちゃん!?」


 盾、いや形状的にはむしろ壁越しの衝撃に山路が呻き声をあげるが、凶竜レイジの鱗は伊達ではなかった。亀裂が入り真っ直ぐだった壁が内側にへこんでしまってはいるもののアロガントの強烈な蹴りを見事止めていたのだ。

 ヒーラーの悠里が慌てて駆け寄るが、なんとか持ちこたえたようで山路はイケメンスマイルで応える。


「まだ――大丈夫ですっ!」

「よっしゃァ! よくやったぜ山路!」


 アロガントの足が止まった絶好の瞬間、緒賀が今度こそ足首を深く斬り裂く。傷口からどす黒い粒子が血のように噴き出し、霧散した。


『OK! 今だ釘屋!』


 巨人を射線上へと誘導し、しかも足を斬りつけて機動力を封じた。狙撃をするのにこれ以上のタイミングはもうないだろう。

 島津の呼びかけに、インカムの向こうから釘屋の声が応える。恐らくは手を真っ直ぐに振り下ろしたのであろう風切り音もついでに聞こえてきたのはご愛嬌だ。


『主砲斉射、三連!』


 釘屋の号令から3秒後、無数の弾丸が空を切り、巨人(アロガント)の胸に叩きつけられた。



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