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STO ― 昭和東京オペレーター物語 ―  作者: TAM-TAM
Final Stage.たったひとつの冴えた空中殺法
36/41

Final Stage.(1)出陣

▼1


 島津達“STO”のプレイヤー陣が昭和(こちら)の日本へとやって来て遂に30日目、予定されている帰還日の前日になった。


「じゃあ最終チェックね。ハンカチと決戦用兵装(びっくりどっきりメカ)はちゃんと持ったかしら?」


 “七つの苦難(セブン=トーメント)”最後の1体、暗黒の巨人アロガントとの決戦を控え、ロビーで別働隊の面々と最後の打ち合わせを済ませた『東京防衛戦(TDL)』の5人。

 いよいよ出発前の最終チェックを、パーティの物資担当である悠里が取り仕切っていた。


山路(やま)ちゃん、盾は二つとも持った?」

「あ、はい。抜かりないです」

「神野君も、ニードラーの準備は万端?」

「ん、何時でも撃てる」


 悠里の指差し確認に、順番に応答していくパーティの面々。


「ネカマ組は、ちゃんと勝負用の下着で決めた?」

「おゥ、当然ッ!」

「その質問にはノーコメントだ……」


 島津の答えがいまいち煮え切らないが流石の悠里もロビーで周囲に人が居る状態でスカートを捲る蛮行には至らず、着々と出撃の体勢を整える。


「……あ、あのっ、何かボクにお手伝いできる事って、ないでしょうかっ?」


 そんな中、堀井がサイドテールを揺らしながらあざとい上目遣いでそう訊いてきた。

 この最終決戦に際して、釘屋が募集・編成した別働隊が遠くから援護射撃をする手筈になっていたが、条件が『長距離射撃の命中率の高いガンナー』で、彼女はその要求から漏れてしまっていたのだ。


「ああ。気持ちは嬉しいが無理して欲しくないな」

「そう、ですか……」


 島津の合理主義者感溢れる素っ気無い返答にがっくり俯く堀井。アロガントを始めとしたボス格との戦いにおいては量より質が重要であるから自分が参加しても邪魔になるだけということも頭では理解しているが、やはり悔しい気持ちは拭えない。

 そこへ悠里がきらーんと眼鏡を光らせた。大抵は腐れた類のスイッチが入った時の現象である。


「じゃあ、ちょっと高難度ミッションあるけど、お願いして良いかしら?」

「は、はい! できることなら何でもしますっ!」

「何でもって言ったわね? ならとりあえず、タイツとパンツ脱いで貰おうか」

「ええっ!? そ、それが戦闘と何の関係がっ!?」


 顔を赤くして、堀井はスカートを抑えつつ引き気味に悠里から距離を置く。その様子に悠里はぐっと親指を立てて言葉を続けた。


「ノーパン状態で、中が見えるかもっていう危機感と羞恥心と快感の間で揺れ動く乙女心の発露の表情を見せて貰って今度出す同人誌(ほん)の資料に、と思って」


 てへっ、と悪びれも無く舌を出す悠里の脳天に島津はチョップを一撃。


「俺の知ってる乙女心と違うぞ」

「それに、前も言ったと思うけど、人はノーパンになると感覚が研ぎ澄まされて普段以上のポテンシャルを発揮するのよ。脱げば脱ぐほど強くなるあの伝説の武術も強さの源泉はここにあるわ。……という伝承の真偽をちょっと検証して貰いたくて」

「OKそろそろ黙れ。セクハラでしょっぴかれるぞ」

「この程度でセクハラ? 全く最近のネカマは過敏なんだから。なら来週もう一度ここに来て頂戴、本当のセクハラを食らわせてあげるわ」

「来週はもうここには来れないだろ」

「なんてこった! パンナコッタ!」


 悠里の渾身のボケをいつものようにあっさりばっさり斬って捨てる島津であった。そう、泣いても笑っても今日と明日で昭和(こちら)の日本での生活は終わりを告げる。


「へェ、じゃあオレもノーパンになれば普段以上に強くなれるってことか?」


 自分のスカートの裾を摘みながら目を輝かせた緒賀に、悠里は苦笑して首を左右に振る。


「あ、緒賀君は羞恥心無いから無意味だと思うわ。その武術の真髄は羞恥で自らを追い込む背水の陣にあるらしいから」


 意外と面倒臭い武術であった。


「ほんと、全く、呆れるほどにいつも通りね」


 そこへいつの間にか姿を見せていた釘屋が左手を腰に、右手で金髪をかき上げつつ尖った声を投げかけてくる。


「釘屋さん……部室で待機してるんじゃなかったんですか? わざわざお見送りに?」

「あ、あなた達の顔見るのもこれに最後になるかも知れないんだから、記念よ記念っ!」


 山路の言葉に釘屋がぷいとそっぽを向く。この辺のやりとりももう慣れたもので、初期の頃のようなギスギス感も無くなっていた。


「はッ! オレ達がそう簡単にくたばると思うか? 巨人(アロガント)の首を土産に持って帰ってやるから飾りつけの準備して待ってな」

「やめてよ! そんなグロいの!」


 思わず耳を塞いだ釘屋に、島津は柔らかく笑いかけた。


「ま、心配は無用だ。それにお前さんにそんな顔は似合わんよ。女帝らしくいつも通り傲然と構えて朗報を待ってな」

「ちょっ! わたしのイメージってそんななの!?」

「何か言い分があれば帰ってから聞くさ。じゃあ、俺達もそろそろ出るぜ」


 HAR(ハル)が「いってらっしゃいませ~、ご武運を~」と火打石を鳴らして見送る声を受け、『東京防衛戦(TDL)』――熱い心を強い意志で包んだ強化人間達が横一列になって歩き出す。


「最後に一つだけ、答えて。どうしてあなた達はこんな危険な戦いに行こうとするの? お金も名誉も感謝も、元の日本に戻れば全部無意味になるのに」

「そんなの決まってる」


 今まさにロビーを出ようとしていた戦士達に、振り向きもせず真剣な声音で問いかける釘屋。島津も同じく振り向きもせずに背中で答えを返す。


「そうした方が格好良(カッコイ)いからさ。男が戦うのにこれ以上の理由が必要か?」

「全く、これだから男ってのはみんな…………」


 肩を竦め、彼女は言葉の続きを口にすることなく飲み込んだのだった。



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