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STO ― 昭和東京オペレーター物語 ―  作者: TAM-TAM
7th Stage.流すな汝が涙、と老兵は言った
34/41

7th Stage.(4)決意

※2015/12/21、改稿作業を行いました。

 ラスボスのアロガントを「暗黒の巨人」に変更しております。ご了承をお願いいたします。


▼4


 翌日、狭間の葬儀がしめやかに行われた。

 プレイヤーの中にお寺の三男坊が居たため、略式ではあるが彼が取り仕切って狭間を送り出すことになったのだ。

 遺体は侵略者(インベーダー)の初期襲撃時に犠牲になった一般人と同様、火葬にして共同墓地へと遺骨を納めることになった。


 そしてその更に翌日、アロガント対策緊急会議が開かれた。パーティリーダーのみならず特に上位陣の戦力は自主的に全員参加している。


「わたしは、ううん、『姫様のお茶会』としては、アロガントと無理に戦わなくても良いと思うわ。“七つの苦難(セブン=トーメント)”だって6体落としたし、もう充分戦ったじゃないの」


 口火を切ったのは『姫様のお茶会』オペレーターの釘屋。

 事実、プレイヤー達の戦果としては既に昭和(こちら)側の日本政府の想定を上回っているのだ。

 ボス級の“七つの苦難(セブン=トーメント)”は7体中6体撃破し、残った雑魚敵に関しても組織的な哨戒行動でかなりの割合を撃破。ボスを倒す時期が早かった港区、台東区、中央区に至ってはほぼ殲滅完了だ。


「そうだな。倒せるかどうか判らないアロガントよりも、確実に倒せるであろう眷族を駆逐するのに時間と労力を使った方が確実だと我々も進言する」


 慎重派パーティ『グングニル』もその意見に追従する。


HAR(ハル)さんとしてはどうかな?」

『そうですね~。残りが暗黒の巨人アロガントだけになりますと、1日に5分間だけしか動けませんので侵攻速度は極端に落ちますし、その間に例えば衛星軌道まで届く砲台を開発して撃ち墜とすなり水爆地雷を埋め込んで地上に降りた瞬間に爆破するなりすれば、何とか倒せると思われます~』


 水爆、という剣呑な単語を聞いてプレイヤー達の間に驚きが走る。確かに昭和の科学の粋を集めた水素爆弾の破壊力であればアロガントといえどもひとたまりもないだろうが、その場合は東京どころか関東一円が焼け野原になりかねない。


『人的被害はゼロに収めますから、その後はどうとでもなりますよ~。復興需要で土建屋さん達も儲かりますし~』

「だが、周辺の被害を考えると最善なのは俺たちが暗黒の巨人(アロガント)まで倒してしまうこと、だよな?」


 苦笑いのような表情を浮かべるHAR(ハル)に、島津が挙手して念を押した。


『それは勿論です~。ですが、こればかりは強制する訳にも参りませんので、皆様のご希望に沿う形にしたいと思っております~』

「じゃあ、暗黒の巨人(アロガント)は『東京防衛戦(おれたち)』が貰って良いか? コケにされた借りはきっちり返させて貰う」


 平然とした様子で衝撃的な言葉を放つ島津に、釘屋が机をばん! と叩いて立ち上がり噛み付いてくる。


「ちょっ! 何考えてるのよ! わたしは反対だからね! あんなの放置すれば良いじゃないの!」

「他のパーティに迷惑はかけない。俺達が勝手に戦うだけだ」

「それで迷惑にならないなんて思うのなら身勝手にも程があるわ! この前の時みたいに時間切れになったとかだと結局何の成果も無しで最強クラスの戦力を無駄遣いしたことになるじゃないの! それなら同じ時間で強めの雑魚を狩らせた方が得だし! それに……!」

「……それに?」

「あなた達まで死んじゃったりしたら、残された人達の気持ちはどうなるのよ!? わ、わたしはネカマなんて大っ嫌いだけど、死んで欲しいとまでは思ってないんだからねっ!」


 ツンとした態度で目を逸らしつつ、鋭い声音を投げつけてくる釘屋。


「あー、すまんな。気を遣わせちまって」

「ななななな何よ! べべべべ別に心配なんかっ!」


 慌ててわたわたと手を振る釘屋に、島津はふっと表情を和らげる。


「だけど、テレビで豪語しちまったし、狭間の婆さんに未来を託された手前ここで退く気にはなれないんだ。見栄とプライドって言ってしまえばそれまでだが、東京オリンピックが開催可能な程度には街の被害を意地でも抑えたい」


 そんな島津の言葉に緒賀も乗っかってきた。


「そうだぜ。それに、オレの野望のネカマ風呂計画だって暗黒の巨人(アロガント)を倒しちまわねェと実現できねェからな」


 ネカマ風呂、の響きに一部の男子やネカマの目が輝く。だがその辺りの不純なモチベーションは釘屋のお気に召さなかったらしい。


「何なのよもう……! プライドだとかお風呂だとか、そんな薄っぺらい理由で命賭ける訳!?」


 釘屋の言葉に緒賀は、不敵な笑みすら浮かべつつ形の良い胸を張ると、


「はッ! 薄っぺら上等! 知らねェのか? (ブレード)ってのは薄っぺらい程よく斬れるんだぜ? 男のプライドも一緒だ」

「……ん。言葉の意味は判らないがとにかく凄い自信」


 横手から神野がぼそりと小声でツッコミを入れるが、それは単に緒賀の発言の頭の悪さに対してのもので、立場としては彼自身も暗黒の巨人(アロガント)へのリベンジを希望する1人だ。

 そのまま暫く、無言で睨み合っていた双方だったが、やがて釘屋が長い溜息をつく。


「……はあ。じゃあ、こういうのはどうかしら? あなた達『東京防衛戦(TDL)』の挑戦権はあと1回のみ。それで駄目だったらスッパリ諦めて雑魚掃討に切り替えること。その代わり、挑戦の時はわたし達がサポートしてあげる。遠くから牽制の射撃とか、危険度の少ない範囲でね」

「OK乗った。そこまでお膳立てされたら、受けない訳にはいかんよな」


 釘屋の示した妥協案を、少しの迷いも見せずに島津がまさかの即答。この方針で作戦が決まりあとは実務的な話に移ることになる。


『それでは~、まず島津さん達の挑戦日をいつにいたしましょうか~』

「俺の左腕の怪我に、折れた“大太刀”の修復に、あと他の装備の調整なんかもあるから、3日ぐらい待って欲しいところか」

「それじゃあ、日程が決まったらわたしに教えて。牽制用の部隊はこっちで募集かけといてあげるから」

「ああ。すまん、助かる。釘屋」

「そ、そう? もっと褒めても良いのよっ!?」


 相変わらず持ち上げると乗りやすい釘屋である。ポーズをつけて金髪をかき上げ、さっきまでは険しかった表情も頬が少し緩んでいた。


「……あ、あのう」


 大筋が決まったタイミングを見計らってか、今度は清純派ネカマの堀井がおずおずと手を上げる。


「……えっと、あのっ、お風呂の時って、水着でも良いですか? ボク、恥ずかしくて……」


 顔を赤くしてもじもじする様はとても元男に見えない。これが演技だとしたら大した物だ。

 だがそんな堀井の決死の訴えを緒賀は無情にも退けた。


「常識的に考えて風呂場に水着は認める訳にはいかねェな。風呂場で許されるのは素っ裸か、でなければ制服か白ワンピだけだって昔から決まってんだ」

「お前さんの常識と世間一般の常識の間には、深くて黒い毒沼がありそうだよな」


 慣れた様子で突っ込む島津の言葉に、『お姉さんの保健室』のヒーラーが「そうですよ」と被せてきた。彼女は腰に手を当てて豊かな胸を揺らしつつ、言葉を続ける。


「折角ですからナース服もアリにしましょうよ、勿体無い」

「……そっちかよ」


 残念な存在を眺める目をしつつ痛む頭を押さえる島津。見ると釘屋を始めとした女性プレイヤー達も白い目を向けていた。


「ああもう。ホント男子ってバカばっかりよね」

「ま、否定はしないが、真面目にバカやってる奴らは結構強えぞ。いつの時代も膠着した状態を打破するのはそんなバカさ」

「……格好良く言い直しても騙されないんだからね。で、肝心な事を聞き忘れてたんだけど、勝算はちゃんとあるんでしょうね?」


 釘屋の問いに、島津は内ポケットから取り出したいつものタバコ型チョコを咥えつつ、


「条件が全部揃って、7割勝てるかどうか、ってところだろうな」

「あ、思ったより高いんですね」


 そこへ横から山路が、拍子抜けしたような口調で会話に割り込んでくる。


「そりゃあ漫画に毒されすぎだ。7割って実はかなり恐いぞ。弾丸が2発入ったロシアンルーレット、引き金を引けるか?」

「……そう言われると、ちょっと生々しいですね」

「だから、もし不安があれば山路と悠里は基地で待っててくれてもふふぇっ――」

「そういう仲間ハズレは無しにしようね」


 島津の台詞を最後まで言わせず、横合いから悠里が頬を引っ張った。そのままうにうにと上下にねじりつつ凄んで見せる。


「あたしが居なけりゃ無駄毛処理すらできなかったヒヨッコが今更格好つけるんじゃないわよ」

「ふぇ、ひょっ、ひゃめっ」


 愉快な顔になって抗議する島津の反対側の頬を、山路も追従して引っ張る。


「もし女子供がどうと言うのでしたらお門違いですよ。それなら私だって今は男なんですから。ここは一緒に戦おうって言う場面です」

「そうそう。島津君の方がよっぽど女子供してるじゃないの」


 そこまで言ってようやく頬から手を離す女性陣二人。島津は赤くなった頬をさすりつつ、ぶっきらぼうに言い放つ。


「……ったく、危なくなったらすぐに逃げろよ」

「パーティの守護神たるディフェンダーに何言ってるんですか。逃げる時も勝つ時も一緒に決まってますよ」

「あーはいはい、ご馳走様。全く、ちょっとでも心配してあげたのがバカらしいわ」


 そんな漫才を眺めていた釘屋が大仰に両手を広げ、いつもの調子で毒づいた。

 会議が始まった頃の重苦しい雰囲気はとうに吹き飛んでおり、今は誰も彼もがいつもの調子を取り戻している。


 ――今度こそ、勝てるだろう。プレイヤー達の胸に再び希望が芽吹く瞬間だった。



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