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4th Stage.(1)濡れ透け白ワンピ談義

▼1


 日曜日、島津達にとっては週に一度のオフの日である。

 この日は朝のラジオ体操を終え、朝番組の特撮を見終わった後に緒賀と山路と悠里がショッピングの旅に出かけ、お洒落に興味を示さないものぐさ男子の島津と神野の二人がNHK教育の将棋番組を観ながらだらけていた。


「やっぱり昭和だと全体的に戦法が古いな」

「ん。ゴキゲン中飛車辺りを持ち込めば敵陣強行突破も出来そうかも」

「まあプロ相手だとそっからが続きそうにないけどな。中盤粘られて終盤で指し負けるってところか」


 などと好き勝手に論評しつつ対局の行方を見守る。やがてじりじりした中盤戦の差し合いから後手側が一気に勝負をかけ、一手差で読み勝つのと時を同じくして、買い物に出ていたパーティメンバー3人が戻ってくる。

 ショッピングと言っても東京が壊滅状態でまともな店が残っておらず片道5分で行ける館内の生協だったので、女性の買い物の割には比較的早い時間に帰ってきたのだ。


「ただいまー、って二人ともいつまでテレビ見てるのよ。本当に休日のお父さんみたいにだらしないわよ」

「家じゃあ娘の世話がある分かえって忙しいけどな。むしろ独り身の今だからこそようやく日曜日にゴロゴロできるってもんだ」


 悠里の嘆きに島津が反論する。元居た方の日本では彼は早くに妻を亡くした父子家庭で、休日でも割と忙しい生活を送っていたのだ。


「そう言えば島津君の娘さんって今年から高校生だったっけ?」

「ああ。難しい年頃でちっとも俺の言うことを聞きやしない。なんだってわざわざスカートを短くしたがるんだろうな。この前も危ないから中にブルマ穿きなさいと言ったんだが、今時ブルマはないわーって口答えしやがるし……」

「……うん。ブルマはないわー」

「……ない、ですよね」


 女性陣二人にも駄目出しをされてしまい劣勢に立たされたので話題を変えてみることにした。


「と、ところでそれが買ってきた私服か? 随分懐かしい雰囲気だな」

「ふふん。折角の昭和世界観だからもう一度青春を満喫することにしたのよ」


 くいっと丸レンズのサングラスを装着しポーズを取る悠里。彼女の服装はレトロポップなサングラスに横縞(ボーダー)のTシャツ、それとバギーパンツと呼ばれる裾の広がったジーンズ姿だ。

 いつもの清楚系ワンピース制服とのギャップが新鮮に感じる。


 山路は白いポロシャツにベージュの綿パンにカーディガンを肩からかけたスタイルで、長身で金髪碧眼の外見だとファッションモデル風にも見える。


 そして緒賀はと言うと……


「で、緒賀はなんでコート着てるんだ? パーティドレスでも買ったか?」

「ふッ、惜しいな。この下はスケスケネグリジェにセクシーランジェリーだ。ある意味ナイトドレスみたいなモンだけどな。見たいか?」

「いや、要らん」


 心底興味なさそうにひらひらと手を振る島津と神野。そんな様子に思わず苦笑いした悠里が持っていた紙袋を島津達に押し付ける。


「それと、島津君と神野君にもお土産。折角だしたまにはお洒落を楽しんでも良いんじゃないかしら?」

「ん。おお、こういうの好きだ。ありがとう」


 中を見てみると、神野の袋にはハードボイルド風味の漂うソフト帽が入っていた。早速被って渋いニヤリを演出してみたが、首から下が学ランのままだと違和感が大きい。


「んー、次はスーツでも買いに行く?」

「や、そこまで揃えてもコスプレかパチものにしかならないから遠慮しとく」

「……で、これを俺に着ろと?」


 そして島津が引きつった笑顔で取り出したのは純白のワンピース。所々リボンで装飾されており、シンプルなフォルムの中に華やかさや可愛らしさが演出された職人芸を感じる一品だった。


「そうよー。良いでしょ? 可愛いでしょ? こういうの好きでしょ?」

「観賞対象としては好きだけどなあ。もし娘に何か一品土産を選べるとしたら迷わずこれに決めるんだが」

「さて島津君、きみは自分の手で着替えても良いし私達の手で無理やり着替えさせられるのも自由よ」

「OK解った。着替えてくるからその手を引っ込めろ」


 目をギラギラ、手をわきわきさせて迫ってくる悠里と緒賀を制し、観念した島津は純白のワンピースを掴むと隣の部屋に重い足取りで移動するのだった。





「さあ着替えたぞ。感想は聞かん」


 数分後、ノースリーブの白ワンピース姿で不機嫌そうな表情を浮かべ仁王立ちする島津の姿があった。生地が薄く、布地面積も狭く、代わりにあちこちの隙間が大きいその服装は、色んな意味で攻撃力が高く防御力の低い決戦用装備だ。


「うわあ、可愛い~。これで麦藁帽子とかあれば正に夏のお嬢さんって感じよね。あ、でもそのタバコチョコはイメージぶち壊しかな」

「むぐっ!?」


 満面の笑顔で悠里が賛辞を述べた後、邪魔なタバコ型チョコを指で突いて島津の口の中に押し込んだ。


「そして抜き打ち無駄毛チェーーーック!」

「おわあっ!?」


 その勢いのまま、隙を突いて島津の二の腕を掴んで持ち上げて付け根付近をねっとり眺める。


「うん。ちゃんと毎日処理してるみたいね。感心感心、おかーさんは嬉しいわ」

「だな。その服も予想以上に似合うし、ちゃんと美少女ライフに順応してるじゃねェか。諦めてちょいとそこで可愛いポーズとか取ってみ?」

「断る。俺で遊ぶな」

「あら残念」


 顔を赤らめつつ両腕を抱き寄せるようにして島津は悠里と緒賀から距離を取っていく。


「ところで話は変わるけど、白ワンピって見てると無性に濡らしたくなったりしない?」

「お、気が合うな。実はオレも丁度そう思ってたところだ」

「でしょでしょ! 白ワンピの美少女をびっしょびしょに濡らすのは男女問わず人類共通の願望よね!」


 邪悪な笑みを浮かべてがしっと握手を交わす変態二人。突然の特殊性癖暴露に島津のみならず山路や神野も若干引いている様子だ。


「俺が知ってる人類とお前さんの本の中の人類との間には、昏くて腐臭漂う沼がありそうだな」

「そうかしら。こう、降りしきる雨の中を傘も差さずに虚ろな目で歩く女の子ってグッと来るよね?」

「あー、そういう余分な悲壮感は要らないかな。オレはもっと明るく爽やかな濡れ透けが良いぜ。白ワンピ姿でプールとか海に落っこちて『いやーん、濡れちゃったー』みたいな」

「これだから男の人は……そんな濡らされて喜ぶ女の子なんてエロDVDの中にしか出てこないわよ。濡らすのは好きだけど濡れると冷たいし気持ち悪いし臭くなるしである意味暴力とか陵辱の象徴だし。だからこそ本来濡らしちゃいけない制服とかフォーマルスーツなんかで濡れて途方に暮れる取り返しのつかない罪を犯した感じが良いんじゃないの」

「女ってのはこういうものにまで情緒とかドラマとかを求めるから面倒臭ェよなぁ。ジャケットとかスーツだと濡れても透けないから面白く無ェだろ。Tシャツみたいな薄着で身体のラインやら下着やらがくっきり透ける方がロマンがある訳よ。そしてノーブラだと尚宜しい」


 対立が深くなり、結成したばかりの同盟は早くも濡れ透け性の違いで解散の危機を迎える。

 フォーマル派でシチュエーション重視の悠里に対してカジュアル派でエロ重視の緒賀という対立構造はほぼ対極の位置関係だと言ってよく、辛うじて避暑地のお嬢様風の白ワンピがフォーマルとカジュアルの境界線上にあり議論の際に共有できる中立都市だったのだろうか。


「そもそも、フォーマルの象徴にして女子専用装備のストッキング。あれが濡れてテカテカする感覚はカジュアルなお子様服には到底再現不可能なのよ」

「テカテカ感ならローションがあるじゃねェか。あの滑らかに肌を伝うヌルヌルの魅力、非現実的だからこそ常識に囚われたシチュエーション物には無いロマンが存在するんだぜ」

「それこそエロDVDの見すぎでしょ。服にローション垂らすなんて洗濯が大変そうで冷めるわー」


 この辺は流石主婦の感覚といったところか。


「非現実系ならパイ投げとか一度やってみたいのよね。こう、お高く止まった美少女の(ツラ)にスパーーーン! って。良いストレス解消になりそうだわ」

「あー、オレは逆にパイ投げとかビールかけなんかが駄目だわ。子供(ガキ)の頃は食べ物を粗末にするな! って徹底的に躾けられたからなァ」

「最近じゃあテロップで対策するらしいわよ。『この後パイまみれの島津君はスタッフが美味しく頂きました』って」

「目的語がおかしいぞ。あと釘屋のことかと思ったら俺かよ」


 このまま二人に気の済むまで言い争わせてこっそりフェードアウェーする予定だった島津だが、つい我慢しきれずに突っ込みが入った。

 緒賀と悠里はそんな島津の肩を左右からがしっと掴むと、にこやかな笑顔を浮かべる。


「対立解消の為には、もうこの手段しか残されて無ェな」

「そうね。実際に濡らし比べてみてどっちがよりそそるか勝負ね」

「……服は自由に使って良いから二人で好きなだけやってくれ」


 呆れた声で言うと島津は一瞬の早業で白ワンピを脱ぎ捨て、白いシンプルな上下の下着のみという危険な格好で山路の背中に隠れる。変態二人の手の中には抜け殻だけが残ることになった。

 ワンピースの弱点である脱がし易さを最大限に逆用した鮮やかな脱出劇だ。


「すまん、借りるぞ」

「え? あの、ちょっと! まさか島津さん! その格好で外に!?」


 そのまま山路が肩にかけていたカーディガンを抜き取り、軽く羽織って部屋の外に脱走。山路の体格に合わせたサイズなのできっちり着込めば胸元から膝上までガード可能だが何かの拍子に中が見えてしまうと大変なことになる。


「……人で遊ぶのは、良くない」


 気に入ったらしいソフト帽を指先でくるくる回しつつ、神野が緒賀と悠里にちくりと一刺しする。


「あそこまで嫌がるとは誤算だったぜ……」

同人誌(ほん)とかだと、いやよいやよと言ってても実際に体験させると堕ちていくパターンが多かったから、つい……」

「多分島津さんの男性としてのプライドを刺激したんでしょうね。でも嫌がってはいましたが怒ってはいないようでしたから素直に謝ればきっと許してくれますよ」

「はーい」「へーい」


 山路が穏健派らしい考察でその場を纏めつつ、島津が我に返って恥ずかしくなりまたここに戻ってくるのを待つ一同であった。


 ちなみに、この日のお土産品の紙袋はもう一つあり、それには堀井用にピンクのブラウスと花柄のスカートが入っていたりする。

 そのことを知った時神野は心の中で弟子に合掌したのだがそれはまた別の話だ。



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