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STO ― 昭和東京オペレーター物語 ―  作者: TAM-TAM
3rd Stage.釘は無慈悲なサークルの女王
12/41

3rd Stage.(3)堀井真

▼3


「あ、あのっ、ボク、パーティ『明大第三古典部』所属のガンナー、堀井(ほりい)(まこと)です。宜しくお願いしましゅ!」


 『東京防衛戦(TDL)』の部室に戻り、赤毛の少女が噛みながら自己紹介をすると、パーティメンバーからは「大学生か、若ェなー」「何故古典部が三つも……?」「あの大学ならさもありなんだわ」と思い思いの反応が返ってきた。


「あの、それから、先日は危ないところを助けて頂いて、本当にありがとうございましたっ」

「……ん。ついでだったし、横殴りでかえって邪魔になったりしてなければ気にしないで良いから」


 学生帽を目深に被り直して照れたように返す神野。


「それはそれとして、わざわざこの部室(へや)にお持ち帰りしたってことはもしかしなくてもあたしの出番ね? よーしママ全部脱がして美少女が生やしちゃイケナイ禍々しい茂みを上から下まで駆除しちゃうぞー」


 悠里がわくわくとした様子で眼鏡を光らせつつ何か口走ったのを慌てて島津が止める。


「OK止まれ、それは女同士でも逮捕される案件だ。それより本はできてるか?」

「あーうん。島津君が出てる間に館内新聞と一緒に届いたから丁度製本終わらせたわ。強化人間じゃなければ製本作業で指がもげるところだったわよ……」


 しみじみと語りつつも、数日前に話の出た『女子ライフ教育用資料』を一冊取り出して堀井に渡した。わら半紙にインクの掠れた孔版印刷が懐かしさを感じさせる。尚書籍のタイトルは『完全ネカママニュアル』と結構微妙なチョイスである。


「一応、身だしなみとかお風呂とかトイレとか角質とか夜のおかずとか思いつく所は一通り入れてるから。文章部分は山路(やま)ちゃんにも手伝って貰ってあたしはその分絵のクオリティに力入れてるし。あとエロいのは袋とじにしてあるから帰ってこっそり見てね」

「あ、あの、どうもありがとうございます」

「はい。島津君に緒賀君も」

「ああ、サンキュって随分凝ってるんだな」

「ってか、コレ金が取れるレベルだよなァ……」

「まぁ、印刷費タダだし画材も借り物だからねー。人件費はサービスで食堂の隅にでも積み本しとくわ」


 無駄にクオリティの高い冊子をパラパラと眺める一同。

 後日、印刷部数は50部と“STO”でのネカマ推定人数よりもかなり多めに刷ったにも関わらず、絵がエロいせいか普通の男子生徒にも大好評で飛ぶように無くなり慌てて追加で50部作ることになるのだがそれはまた別の話だ。


 それから堀井も交えて世間話に興じることになる。彼女達『明大第三古典部』はリアル学友同士の3人パーティで、大学の課題の一つでもある郷土史の研究の名目で“STO”に参加したとのことだ。

 ガンナーの堀井の他はアタッカーとヒーラーのどちらも男子という構成。前衛にディフェンダーが居ないので先日のワイバーンのように突進力のある敵に対して守勢に立たされると苦しい編成と言えた。


「ディフェンダーは地味ですからね、若い子だとなかなか就きたがらない気はします」


 深刻な様子で同情を表す山路。彼らと同じように中途半端なパーティ構成でこちらの世界に転移してきた者も多いことを思うと対策無しにこのまま過酷な戦いを続けるのも良くない気がする。


「パーティ毎に実力とか敵との相性とかまちまちだからねー。むしろウチとか『お茶会』みたいなバランスパーティが少数派? 他にボス戦とか強い雑魚を安定して任せられそうなパーティがせめてあと2つ3つあればねえ……」

「茶会と言えば、あの(・・)釘屋に絡まれたんだって? 災難だったな、少年」


 災難と言う割には楽しそうに膝をぺしぺし叩きながら緒賀が茶化す。


「でも釘屋(くぎゃ)ちゃんは口と性格と頭は少し悪いけどそんなに性悪な子じゃないから『はいはいツンデレ乙』って感じで生暖かく見守ってあげて。PK(プレイヤーキラー)に走ったりもしないし」

「ぴ……PK、ですか?」


 物騒な単語にやや引き気味の堀井に悠里は笑顔で続ける。


「それと、あれは男子の見てる前じゃあ猫被ってる子だから、堀井君も外に出る時は常にパーティメンバーの男子と一緒に居るようにすると良いわ」

「は、はい。そうします」

「あ、PKと言えばそこの緒賀君も昔は常習犯だったのよねー。チョイ悪親父って感じ?」

「人聞き悪ィよ、あんなのPKじゃねェし。やれネカマだのキモいだの言ってくる連中に決闘ふっかけて首・即・斬しただけだ」


 一応ゲーム時代の時のシステム上は無差別に襲い掛かるPKと両者の同意が必要な決闘では区別されるので、緒賀のやってることは乱暴ではあるが社会的にも許容範囲だ。

 但し単分子(ブレード)で武器や盾ごと首を斬り飛ばす戦闘スタイルは決闘の相手のみならず観客の皆さんにも結構なトラウマを与えたとか。


 ちなみに当然ながら、ゲームが現実になった今では死んだら終わりなのでPKも決闘もご法度である。


「ま、5人程死なせたら変な事言ってくる奴も居なくなったけどな。全く、ネカマの何が悪いって言うんだ。カワイイ女の子になりてェっていうのは男女問わず全人類の共通する願望なのにな。少年もそう思うだろ?」

「え、えっと、ボ、ボクは……」

「俺が知ってる人類とお前さんの頭の中の人類との間には、深くて暗い溝がありそうだな」


 肩をすくめつつ口を挟む島津。ネカマ同士の割に緒賀と島津とでは何故か意見があまり合わないようだった。


「あ、緒賀さんの武勇伝はボク達のパーティにも聞こえてきてます。個人戦力で一二を争うほどの実力と。何か秘訣とかコツとかあるんですか?」


 さりげなく話題を変えつつ純粋な尊敬や憧憬に目をキラキラと輝かせる堀井。それに気を良くしたようで緒賀は上機嫌で語りだした。


「おう! やっぱり一番の秘訣は二刀流だな! 両手に武器を持つと攻撃力二倍だ! 昔の少年漫画でもそう言ってたから間違い無ェ!」

「ん、自称理系がゆで理論を持ち出すのは良くない」


 大きい胸を自慢げに張る緒賀に神野が控えめなツッコミを放ち、アドバイスの主導権をもぎ取る。


「緒賀は特殊な例だから素人が参考にするのは危険。単発で当たらない人が二丁拳銃に手を出すべきじゃない。まずは連射するよりも、一発一発を大事に狙って撃つことを心がけると良い」

「は、はい!」

「あと、君の主武器(メインウェポン)はレーザーガンだったかな? だとしたらポインタ機能は面倒がらずに活用すべき」

「取説は読みましたから機能は知ってましたが、実戦になるとどうしても焦りと緊張で忘れてしまいます……」

「その為にはひたすら練習すべき。意識せずとも使えるように身体で覚えてからがようやく実戦のスタートライン」


 同じガンナーで親近感が沸くからか、神野の口数もいつもより多い。

 ちなみにレーザーガンのポインタ機能とは、引き金を半分ぐらいまで引くことで殺傷力の無い赤い光を飛ばす仕様のことで、そのまま引き金を引き込めば赤い光の指した箇所に命中するものだ。これを活用すれば素人でも遠く離れた的に一発で命中させることが可能になる。


「それから……機会があれば一度実弾も撃ってみると良い。侵略者(インベーダー)の中にはレーザーが殆ど効かないのも居る」

「そ、そうなんですか!?」


 堀井の驚く声に答えたのは、ほぼ全てのモンスターデータが頭の中に入っている島津。


「ああ。怪魚テラーとその眷属の中でも特に魚型の奴らは、銀色の鱗が反射装甲(リフレックス)の役割をしていて、光学兵器のダメージを50~90%カットする。奴らは剣が届かない上空から襲い掛かって来ることが多いから墨田区に行くときは実弾射撃ができないと詰むぞ」

「は、はい。き、気をつけます……」

「ただ、対策が取れれば奴は“七つの苦難(セブン=トーメント)”の中でも落とし易い方だから、どこかで腕試しに狙ってみるのも良いかもな。怪魚(テラー)巨獣(グラトニー)は作戦さえ間違えなければ二大カモと呼ばれてるし」

「その二体をカモにする作戦を考案した戦犯が何か他人事のように語ってますね……」


 島津の解説に山路が律儀に突っ込む。グラトニーにしてもテラーにしてもゲーム時代には島津が発案した大層えげつない戦術で完封された事があるのだが、あまりのハメ技っぷりに彼女は一時期“鬼畜女子高生(JK)軍師”と名誉か不名誉か迷うあだ名で呼ばれたりした。

 ゲーム時代ではゲームとして面白くないという理由で封印した作戦であるが、現実であれば損害無く安全に勝てる作戦はむしろ採用しない方がおかしいと言えるだろう。


「その巨獣(グラトニー)だが、どうやら『茶会』が倒しちまったらしいぞ」

「ほう」


 先程HAR(ハル)が冊子と一緒に届けてきたというプリントを、緒賀が島津に手渡した。

 このプリントは正式名称を“HAR雑記帳(ハルノート)”と言い、HAR(ハル)が毎日の出来事を面白おかしく紙1枚に纏めて印刷して各パーティに配っている物で、学生時代の学級新聞を彷彿とさせるためか皆“館内新聞”と読んでいる。


「ええと、どれどれ? “巨獣グラトニー大炎上! 勝利の茶会は焼肉の味!?”……相変わらずスポーツ新聞のようなノリなんだな」


 眉間を押さえつつも本文に目を走らせる島津。意外と真剣に読み進める彼女の姿を見て悠里が一言。


「島津君、素材は深層の令嬢っぽい感じなのにタバコチョコ咥えて無造作に脚組んでタブロイド紙読んでる姿はなんかいろいろ台無し感が強いわよね。堀井君はあんな大人になっちゃ駄目よー?」

「えっと、その……ぜ、善処します」


 色んな意味で対処に困る話題だったのでつい誠意に欠ける答弁になってしまったが、彼女を責めるのは酷というものだろう。



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