◇ぶらんこ
きぃきぃきぃ。
錆ついたブランコは静かな公園で物悲しく鳴り響く。秋の黄昏時、元気に遊ぶ子どもの影も子連れの親の姿もなく徘徊する野良猫や鳩の一匹すらいない公園で、私はひとりブランコを鳴らす。思春期の身でありながら悩み事に縁のない私は物思いに耽るためにここに来たわけではなかったのだが場の雰囲気がそうさせてしまったのだろう。無意識のうちに思考の波にさらわれてしまっていた。
自分の事、周囲の事、気になっている誰かの事。今まで気にも留めていなかったことたちが次から次へと頭の中を埋め尽くす。それはコポコポと泡ようにとめどなく心の奥深くから浮かび上がってくるのだ。
カァー。
遠くでカラスがないているのを聞きながら、思考はどんどん奥深くへと歩んでいく。今の事、昔の事。共通の事柄なんてさほどないのに並べ立てては「あの頃は」と口にしてしまうのは思い出という補正のせい。どれくらいそうしていたのだろうか、夕刻を知らせる音楽はいつの間にか鳴り終えてしまったようで気づけば街灯の明かりがほのかに地面を照らしだしていた。
きぃぃっ。
一際大きな音を鳴らしてブランコから飛ぶように降りると、線香花火の炎のような橙の太陽に背を向けて私は藍に染まった星空へと帰路を歩んだ。
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