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遅すぎ

それからも私とグリフォンの旅は続いた。


てくてくと地道に自らの足で歩き、行く先々の土地で日銭を稼ぐ暮らしはけして楽なものではないけど、今更それを特に不満に思う事も無い。

もうとっくにそれが“当たり前”になってたから。


幾度か季節が移り変わる頃には私の言葉も更に上達し、日常会話ならある程度不自由無くこなせるようになったため、愛想笑いが苦手な師匠に替わって周囲に営業スマイルを振りまくのが私の専らの役目になった。

―――いわゆる適材適所?


そして会話が可能になった事で、新たに発覚した事実も幾つかあった。









無愛想で大柄な楽士と小柄な少女の二人連れは、夏から秋にかけて中央大地シンハラの北西部を目指し、野宿が厳しくなる冬の季節を第十六藩国の首都〈ガムラン〉で過ごした。


下町の安宿を塒にして一冬同じ部屋で寝起きするうちに、男は徐々に連れの少女になんとなく微妙な違和感を感じるようになったが、どこがどうと説明出来る類いのものではなかったため、そこは敢えて考えるのを止めた。

―――大した問題とも思われなかったからだ。


それがそもそもの大きな間違いだったと男が気付いたのは、春先になったある日の事。


冬場の防寒用にと少女に買い与えた大きめの古着の外套コートを、日中の陽射しに汗を感じた当人が何気無く脱いだその瞬間、袖口やズボンの裾からはみ出した肌色がふと視界に飛び込んで男は軽く目を見張った。


―――流石は成長期と言うべきか。

短期間でかなり背丈を伸ばしたらしい少女はいつの間にか衣服がかなり窮屈そうな状態になっていて、チュニックの袖から覗くほっそりとした手首はともかく、元々丈の長さがくるぶしの上までしかなかったズボンからはみ出た素足は、年頃の娘としては些か気の毒な身形に思われた。


虫除けの為に少年のような格好なりをさせてはいても肢体からだの線の柔らかさは最早隠しきれてはおらず、既に一目見てそれと気付かぬ間抜けは余程の近眼くらいのもの。

衣服で誤魔化しきれる時期はとっくに過ぎていたのだ。


旅暮らしの流民が着たきり雀なのは仕方ないとしても、やはり最低限の衣類は要る。

稼ぎの落ち込む冬場、出費を切り詰めてそこそこの生活をしていたお陰で幸いにも男の懐の金子には幾らかの余裕があった。


「…着替えを調達しなければならないな」


「―――なぁに?」


「お前の服が必要だ、と言ったんだ。客商売は見た目を整えるのも仕事のうちだからな 」


「え、買ってくれるの?やったぁ!」


茶色い兎はぴょんぴょん跳び跳ねて男の腕にまとわりついた。

出会った頃は並ぶと男の胸の辺りまでしかなかった身長が、この一年程でぐんぐん伸びて現在いまは頭が肩のすぐ下の位置にある。

いつものように手を伸ばして撫でると兎は屈託の無い

笑みを浮かべ、ふふと小さな声で笑う。

ネイロは出会った頃よりもよく笑うようになった。




お目当ての古着屋を探しつつ昼下がりの首都ガムランの街中を散々歩き回ってようやく二人が目に止めたのは、表の目抜通りからはかなり奥まった位置にある道幅の狭い横丁だった。


表側に建ち並ぶ上品な造りの店とは一風異なり、間口の小さな商店がところ狭しと軒を連ねる下町風情のその一画には、一般庶民向けの古着や生地そのものを扱う店が何軒も肩を並べていて、この日は多くの買い物客で通りが賑わっていた。


「…この辺りの店で適当に見繕うといい」


「ん、わかった」


何軒かの店を出たり入ったりしながら楽しそうに服を選ぶ弟子を見て、男はもう少し早く気をきかせてやれば良かったと内心密かに悔やんだ。

ネイロが必要だからといってやたらと物をねだる性格で無い事は、理解していたつもりだったが。


(―――やれやれ、俺も大概だな…)


暫くの間あれこれと手に取っては眺め、首を傾げたり頷いたりしていた少女の目がふと一点で止まり、ヨシヨシと納得の表情を浮かべて男を振り返る。


「試着して来る!」


そして、売り子と共に一旦奥に消えた少女が着替えて戻った姿を見るなり、男は危うく腰を抜かしそうになった。


(―――――これは誰だ…)


襟ぐりを広く開けた若い娘らしいデザインの上衣ブラウスと薄布を重ねてたっぷりとひだをとった下衣スカートは、女物の衣服としてはごくありきたりなデザインのもので特に奇抜なところなど見当たらない。

ただ、胸のすぐ下辺りから腰までの位置をこれでもかとビスチェで絞ったスタイルは、いやが上にも身体の線を際立たせ、いままで幼げな少女こどもという認識しか持たなかった相手をすっかり“女性おんな”へと変貌させてしまっていた。


見慣れているはずの顔が見知らぬ他人のようにも見える。


(……それにしたって、化け過ぎだ!!)


いつものゆったりとしたシルエットのチュニックの下で、この一年程で見事なまでの凹凸が育っていた事実に改めて気付かされた男は絶句。

あんぐりと開いた口が塞がらない状態でしばらく固まったまま生ける彫像と化した。


「…やっぱり似合わない?」


ションボリと悲し気な声に問われてようやく我に返った男は、周章あわてて首を横に振った。


「い、いや…、よく、似合っている。が―――その…なんだ………いきなり大人びたような気がしてだな…」


「そぉ?私、もうこの春で十六だし。このくらいフツーだと思う」


「…………じゅうろく…?」


「今までが小さ過ぎたの!日本人の平均身長しかなかったし。多分まだ伸びると思う」


「十六歳!?…見た目より大人びてはいると思ったが……、十六……っ」


中央大地シンハラではほぼ成人と見なされて婚姻も可能な年齢だ。


「むぅー…、そりゃあ三十過ぎのグリフからしたら子供に見えるかもしんないけどー」


「―――俺は……だ…」


「え?」


「…俺はまだ二十六だ!」


「ええええ――――っ!!嘘嘘、ナイスミドルのおじさまじゃなかったの!!!」




―――――出逢って一年。

ここに至ってようやくお互いの年齢が判明。











































































































グリフォン197㎝。ネイロが現在165㎝くらいのつもりで書いてます。

主人公は両親がハイブリッドの家系なのでまだ伸びる予定。

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