似合わない?
短いです。ごめんなさい。
「ねえ、見て見て――!可愛いでしょ、ほらぁ!」
昼の“談話室”に無邪気な声が響き、居合わせた客達は少しばかり興味を引かれて声のする方を振り返って素直に驚いた。
「おお?嬢ちゃんめかしこんだな!」
「ほおー、ぐっと大人っぽくなったじゃねえか」
「……………ネイロ?」
最後の呆然とした呟きは楽士のもの。
男達が振り向いた先に居たのは、ごく普通の町娘が着るような衣服を身に付けた少女だった。
いつもチュニックにズボンという少年のような形でいるだけに、その落差がとんでもなかった。
「お姉ちゃんのお下がりでまだあたしにはちょっと大きいんだけど、ネイロにはピッタリだったの!それにねえ、ネイロ凄いんだよ。色んな髪の結い方出来るの」
メイベルのお下がりだという白い余所行きの服を着てきちんと髪を結い上げた少女は、湯を使って身綺麗にした後だけに、どこからどう見ても育ちの良い娘にしか見えなくなっていた。
旅暮らしで幾分日に焼けたもののその肌にはシミひとつ見当たらず、単なるやせっぽちの小娘と思われた少女の体型も胴回りを締めるビスチェのお陰で娘らしい曲線が生まれた。
柔らかな輪郭の顔立ちの中のクリンとした大きな琥珀色の円らな瞳は、思わず見る者に庇護欲を抱かせる愛らしさだ。
これはマズイ、とグリフォンは咄嗟に思った。
只でさえ面倒な男に目をつけられているのに、これは駄目だろう、と。
『グリフ、似合うー?』
何も知らない本人はのんきに笑顔を見せているが、保護者はそれどころでは無い。
「―――着替えて来るんだ、ネイロ」
『…え、何?』
「面倒な事になる前に、早く自分の服に着替えろ!」
焦りから少しばかり厳しい表情になったのは、けしてわざとでは無いのだが。
少女は叱られたと思ったのか急にシュンと肩を落として、トボトボと奥に戻って行った。
「おじさん、ヒドイ!ネイロがせっかく可愛くしたのに!」
「そうだそうだ、可哀想だろが」
「…いや、まぁ。心配になるのも解るがね」
「ありゃあねえだろ」
「う……」
グリフォンは何故かリンカと馴染み客達によってたかって責められる羽目になった。
だがまあ、あの姿が例の男の目に触れなかっただけよしとしなければならない―――と、その時は思っていた。
一方、着替えのために姉妹の部屋に逆戻りしたネイロは、どこか釈然としない気分で借り物の衣装を脱いでいた。
(…私、何かいけない事したのかな。
女の子同士で着せ替えごっこしてただけなのに、あんなに怒らなくてもいいじゃない。
―――もしかしてどこか変だった?
姿見みたいな大きな鏡で全身チェックした訳じゃ無いから、おかしな格好になってたりとか…。
でもそれにしたって、怒鳴られる理由が分かんない)
『…………………』
ふわふわとした外見から、他人からはよく『おとなしそう』と評されるネイロだが、実はかなり情が強い一面がある。
保護者も薄々気が付いてきているようではあるが。
『……グリフォンのばーかばーか!ヤリチン!もげろエログリフ!!』
聞かれても誰も意味が分からないのを良いことに、思いっきり下ネタを叫ぶ乙女。
“似合わない”って言いたかったの?
子供扱いされてるのは分かってる。
でも、私だってそのうち大人になるんだから!
いずれお母さん似の爆乳美人になって、グリフなんかメじゃない優良男子を捕まえて見返してやるんだもんね!!
少女は妙な方向に開き直っていた。




