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ほんとのところは

私は日本で引っ越しや転校が多い暮らしをしていたせいで、なに食わぬ顔をして周囲に溶け込んだ振りをするのはわりと得意だ。


そう。―――『振り』ならね。


そして、気持ちの方はいつもおいてけぼりにされる。

…だってそうしないと、周りからどんどん浮いた子供になっていつか自分の居場所を失うような気がしたから。

離れてしまった友達や馴染んだ環境に固執して、新しい場所で孤立するのがとても怖かった。


だから、いつも笑った。

初めは無理した作り笑いでも、そのうちきっと心から笑えるようになると、毎回自分に言い聞かせながら。


でも今回の『お引っ越し』はちょっと予想外過ぎ。

まさか天国あのよまで引っ越す事になるなんて思わなかったし。







やたら目付きの悪い男がずっとこっちを睨んでる。


昨日いきなり同室になった男。

見た目的にまだ二十代前半くらいと若いのに、そこはかと無く下衆い雰囲気が漂ってて愛想笑いを振りまく気にもならない。


朝起きたらあの男が使った寝台の上に、使い込んでるのが一目で分かる大きな剣が無造作に放り投げてあって、少しぎょっとなった。


こっちの世界ではごく当たり前に、ああいう刃物ぶきを道具として持ち歩く人がいる。

日本では絶対に有り得なかった光景だから、こればかりは未だに慣れない。


実を言えばグリフォンも護身用に三日月形の短剣を持ち歩いている。

でも普段の用途は主に枝打ちや食用に捕らえた獣の解体で、後はごくたまに害獣を追い払うのに振るわれるくらい。


―――だけど、あの男は…?

ああも剥き出しの敵意を向けてくる相手の手に、簡単に人を害する事の出来る刃物があるかと思うと、正直ゾッとする。


絶対二人きりとかになりたくない。






「―――ネイロ、食欲無いの?具合悪い?」


朝食の席で匙が進まない私を見て、リンカが話し掛けてきた。

チラチラ私の顔色と麦粥の入ったお椀を見比べて、首を傾げてる。


『………うぅ、ゴメンナサイ』


リンカのお父さんが作る料理はどれもおいしい。

まだちゃんと顔を合わせた事は無いけど、きっといい人なんだろうなって思う。


私は食べ物に好き嫌いは無い方なんだけど………、ゴメンナサイ。

麦粥…麦粥オートミールだけはっっっ!


このブツブツドロドロした感触と独特の匂いが…、ちょっとだけ…いや、物凄く………苦手。

だけど食べ物を粗末に扱うのは気が引けるしで、結局匙を握ったまま動けない。

おかんグリフの目が『お残しは許しません』とばかりにジト目で見ているだけに、引くに引けず。


すると何を思ったのかリンカが私の麦粥の入ったお椀をガッと取り上げて、そのまま一息に完食。


「ぷはっ、ごめん!ネイロのご飯食べちゃった~」


『え?え?』


「リンカ!あんたは何をやってるの!」


姉のメイベルに叱られながら、リンカは生でテヘペロを繰り出して見せた。


「じゃー、お詫びにネイロにはあたしの特製手料理をご馳走するから!」


『?なに?どーゆう事?』


もしかして助け船だったのかな?麦粥苦手なのがバレバレだった?


オロオロしてグリフォンの方を見たら、しょうがない奴めって顔で溜め息をつかれた。

うわぁ…、、、もしかしなくても私の事だよね。


「ハハハ、気にすんな嬢ちゃん。麦粥が苦手な子供は多いからな。リンカも妙な機転がきくようになっちまったもんだぜ」


『???』


商人さんその一が笑いながら何かを話し掛けてきたけど、グリフォンは呆れ顔のまんま黙々と自分の分の麦粥を平らげてた。

食べ物の好き嫌いが許されるほど余裕のある身分じゃないのは分かってるんだけど…。


ションボリした気分でテーブルに座ってたら、しばらくしてリンカがトレイに何を乗せて運んできた。


「はい、お待ちどー!これ食べて元気出しなよ」


トン、と目の前に置かれたのは細かく刻んだ野菜のスープとコンガリ焼けたナンみたいな平たいパン。


「エヘヘ、スープはうちの賄い用だけど、そっちのモフルはあたしが焼いたの。食べてみて?」


ニコニコ笑ってお盆をずいっと押し出される。

じゃあ、遠慮無く。


コンガリ焼けたナンもどきは味もナンに近くて、雑穀が混ぜてあってプチプチする歯応えが香ばしかった。


『…ありがと、リンカ。美味しいよ』


「“アリガト”?なに?」


意味の解らない単語にキョトンとするリンカにグリフが言葉を付け足した。


「弟子は礼を言ってるようだ」


「“アリガト”ってお礼の言葉?」


何となく意味が伝わったのかどうか、リンカが嬉しそうな表情をして笑うから、さっきまでの嫌な気分はもうとっくにどこかへ消えてしまっていた。





そして更に嬉しい事に、朝食の後宿の奥の一室でお湯を使わせて貰う事が出来た。


お風呂とまではいかなかったけど、大きめのたらいにお湯を張って久し振りに髪を洗い、ついでに汗も流し、最後の残り湯でお洗濯もした。

残念な事に石鹸やシャンプーみたいな物は無くて、代わりにいい匂いのするハーブの束がお湯に浮かべてあって、それなりにスッキリ。


旅の道中はほぼ着た切りスズメで身体を拭く事すら出来ず、年頃の乙女としては臭いやら何やら気掛かり満載だから物凄く嬉しかった。


おまけに昨夜グリフォンに添い寝という名の羞恥プレイを受けて、こっちは悶絶赤面ものだったってのにあの男~~~!!

いつも通りのしれっとした顔で!!

乙女を犬猫ペットと同列の扱いかあああぁっ!!

確かに私は標準並みですよ!うっすい日本人体型ですよ!


……お~の~れ~グリフ~。今に見ておれ~~~!!

乙女の怨み晴らさでおくべきか!

いずれ爆乳に育ってギャフンと言わせてやるわあああ!!












































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