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旅の恥はかき捨て…?

寝台に押さえ込まれたネイロは、初めはモゾモゾと身をよじっていたもののじきに抵抗を諦めて大人しくなった。


仔兎はすぐ隣に自分を狙う野犬がいるとも知らず、連れの自分を気遣って自分が床に寝ると主張を続けていたが、先程のあの傭兵崩れとのやり取りの後では危なっかしくて、どれだけ暴れられたところで到底手の内から解放してやる事は出来ない。

爪も牙も無い仔兎では僅かな油断でペロリと喰われてお仕舞いだ。



頭から毛布を被せられたせいで息苦しかったのか、少女はぷはっと息を吐きながら顔を出し、そのまま男の胸の位置でカチンと固まった。


サイドテーブルのランプを消したため暗くてお互いの表情も見えはしないが、少女がいきなりな事態に驚き狼狽えているのが手に取るように分かる。


「…静かに。悪いがこのまま眠ってくれ」


耳許で小さく囁くと日向の匂いのする身体がピクリと微かに身動みじろいだ。


男は白粉おしろいや紅の香りがする女との供寝ともねは日常茶飯事でも、年端もいかない幼い少女との同衾どうきんなど一度も経験が無い。

その妙に落ち着かない(自分の)気分を宥めるために毛布越しの小さな背中をトントンと軽く撫で付けた。


犬や猫を撫でる時のような無造作な手付きでしばらく撫で続けていたら、少女の身体から徐々に強張りが解けたのが感じられ、男は少女に気付かれぬようにホッと息を吐き出した。


(……子供の相手は何だか色々と勝手が違う…)


少女は寝苦しいかもしれないが、このままの方が安全だろう。

あの男は寝た振りをしているつもりらしいが、呼吸の音で狸寝入りである事は分かりきっている。

…何か仕掛けて来られたら厄介だ。


野宿に鍛えられたグリフォンの身体は僅かな物音で直ぐに目覚めるように慣らされている。

この静けさの中でなら微かな衣擦れの音だとて聞き漏らさぬ自身はある。


―――そうでなければ今まで生き延びてはこられなかった、というだけの話だが。


『……グリフ……爆発……』


腕の中の仔兎が何やらゴニョゴニョと呟いた。


(…寝言か?)


「……いいから寝てろ」


仔兎の頭を一撫ですると、くふんと鼻を鳴らして何故か胸元に擦り寄って来る。

男が色めいた目的も無く他人と一緒に寝るのは、随分と久し振りの事だ。


それはどことなくこそばゆいような、むず痒いような、なんとも奇妙な感覚がした。




* * *




『うひょふぉほほほふぇええええっ!?!?◎▲☆◆▽※!?!?』



明け方の、とある宿の一室に奇妙な叫び声が響き渡った。


「……起き抜けにどういう叫びだ、それは」


そしてその後に続いたのは、疲れきったような気怠げな低い掠れ声。


狭い寝台の上にガバリと起き上がった少女の身体の下に何故だか半裸に剥かれた男の身体がある、という状況だけを見れば単に睦まじい男女の朝の光景とも思えるが、それにしては空気が微妙過ぎた。


夜中にコロコロと寝返りを打つ少女が寝台から落ちそうになる度に男がそれを引き寄せては抱え直す、という作業が一晩中繰り返され、朝方になってようやく落ち着いたかと思ったら肌寒さを覚えた少女が男の懐に潜り込み、体温を求めてその衣服をはだけさせた結果が、この状態。


勿論少女は寝ぼけた上での無意識の行為だったため、目を覚ました途端男の胸板にしがみつくような体勢の自分に激しく動揺して、あの叫び声になったようだ。


『うにょおぉぉぉ―――――!!何故こんな事態にィィィ!!!!』


「……はぁ。喧しい」


ぜいはあと荒い呼吸をする少女の横で、男はいつものしれっとした平静さを保ったまま、何食わぬ顔で乱れた衣服を整え始める。

男にしてみればこれしきの事、兎―――というか猫にジャレつかれたようなもの。

ネイロに服を剥ぎ取られたところで今更感じる羞恥心も無い。


(うぬぅ、グリフ~~~!ナニゴトも無かったかのように!!いや、何も無いんだけどね!!)


『…目が覚めたら、男の上に跨がってる十五の乙女ってどうなのよ…』


(羞恥で軽く死ねるレベルだと思う……)




そんなこんなで動揺しまくっていた少女ネイロが、明け方まだ早い時間にもかかわらず、隣の寝台が空な事に気が付くのは、それからかなり時間が経っての事になる。



























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