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羅鉱  作者: 佐暮
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曲子

『 生涯を賭けて探し出す物は、自身が生まれながらにして求める物とは無縁のものであった。宿命の者ならばこの世に産まれ落ちる時に何か崇高な物を覚えていて、それを現世に探そうとする。生まれる前に見た光景があまりに力強く美しく、また常人の神経を犯しくさせる程の奇異で迫ってくるという。』

『 これを神経論と宗教論で対立させる事は私にとって何らの感動も起こさない。私は科学の子供でもなければ神の子でもなく、それどころか社会に対して声を上げた事もない市井の人種なのだった。』

『 或る時、私に声を掛けた老人がいた。身なりの貧しい老人に誘われて彼の家にある蔵書を拝見した時まで、私は市井の人間だった。そう思っていた。夢のような不可思議な彼の話と蔵書と、私の魂を連れ出した出来事は、自身の詩人学者としての死を意としていた。しかし私は正直にこの老人の話の先を促し、蔵書の図版を記憶に盗み出していた。』

『 私の探していた物とは宿命ではなく、詩心ではなく、野心でもなかった。一流の芸術家の夢見た形而上学的振り子世界でもない。何もなかった。後天的にその何かを欲して時間をさまよったが、ただ漠然とした焦りのみが私を動かしていた。何も持たずに何かを欲していたのだ。焦っていただけなのだ。』

『 私の人生最高傑作は創作にあらず、非現実の旅行記である。』


 ――と、記されている。劣化が進み、鉛筆で書かれているために判読の難しい所もある。黒く指紋の痕が隙なくつけられて埃っぽい。どこで記したものだろうか。

 或る男が人知れず非現実を書き込んでいる姿を僕は想像してみた。宿の一室での暇潰し、それとも野宿の星明りの元で目を血走らせていたのか……何のために。

 老人の正体と同じくして妖しく密めきながら、先を読んでいく。

 曲子は黙っている――。

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