目の上のたんこぶ? 私には関係ないです
世界には勇者がいる。そして、勇者は迷宮の奥底へと潜っていく。
迷宮に潜るのは、勇者だけではない。栄光、名誉を求めて、数多の人々が迷宮に挑戦し、散っていく。そんな彼らを人々は冒険者と呼んだ。
「くっそー、見せつけやがって。なあ、そう思うだろ?」
わざわざ空いていた私の前の席に座り、アディストは嫌そうにそういったのだった。
ここは、冒険者を育成する機関、学園。国が運営する機関で、貴族、平民問わず実力があれば入学できる。
「おい、何か言えよ」
「……別に」
私は読書を止めず、一瞬だけ視線をアディストに。そして、アディストが見ていた方向を見た。
短く揃えられた黒髪。訓練が終わった後なのか、額や首筋に汗が流れている。その様子は、決して泥臭い雰囲気はなく、一言でいうなら爽やか。
風貌も揃って嫌味が感じられない青年が歩いている。その周りには、三人の美少女が後を追う様に続き、それぞれ気遣いを発揮しようとしている。一人は荷物を持とうと、もう一人はタオルを、最後の一人は飲み物を渡そうとする。
彼ら四人は、世界を救おうとする勇者とその仲間。彼らは四人でパーティを組んでいた。
天に約束された類稀なる才能の勇者。この国の第三王女にして、神殿の巫女。世界でも指折りの魔法使いの賢者。竜の血を引くといわれる隣国の女騎士。どれも一騎当千の強者。
見ての通り、三人の美少女は勇者に惚れているらしい。そんな勇者はそれに気づいているのか、気付いていないのか。定かではない。
「そんなライバル視しても変わらないのに」
私は読んでいた本を閉じて、立ち上がる。
「うっせえよ。どこ行くんだ?」
「一緒に組んであげるけど、あんまり話しかけないで」
「あっ、ま、待てよっ!」
私の名前はイリステル・ユニティ。この学園で魔法課程に在籍している。私に話しかけてきたのは、アディスト・ガーデン。彼は騎士過程、勇者と同じ課程だ。
アディストの剣の腕は悪くはない。この学園でも指折り。しかし、その上には勇者と隣国の女騎士が阻んでいる。どうやら、それが気に食わないらしい。
赤髪の派手な外見。勇者とは正反対雰囲気の整った青年だ。自信満々で傲慢ともいえる。その性格もあり、中々勇者を認めることが出来ないのではないかと思う。勇者が平民というのも理由にあるが。
一番大きい理由としては、実習を行うために、複数人でパーティを組まなければならない。そこで、アディストは自信満々に巫女と賢者の二人に声を掛け沈没した。そもそも、相手にされなかったらしい。
そして、魔法課程で二番目の私に声を掛けたとのこと。
実習で組むなら、私はアディストなら腕は申し分ないし、断る理由はなかった。しかし、性格は合わないと思うので実習以外で声を掛けてくるのはやめてほしいと言ったのだが、たまにこうして話しかけてくる。
友人曰く、イリス(私の愛称)も賢者(目の上のタンコブたんこぶ)がいるから、自分と同じ境遇と思っているんじゃないのっということらしい。私自身、賢者については尊敬するし、凄いと思ってる程度でそれ以上に関心はなかった。
ましてや、勇者とその仲間に関わるのは面倒臭そうだったので遠慮したい。
「イリスッ!」
アディストと別れて、数分後。私を呼ぶ男の声が後ろから聞こえてくる。
私の愛称を呼ぶ人たちは少ない。男になるともっと少なくなる。この学園に在籍するのはたったの二人。一人はアディスト。何故か愛称で呼び始めてくる。そして、もう一人は……。
「イリスは今日休日だったけど、何をやっていたんだ?」
振り向くと、勇者……カイルはどこが嬉しいのか、私に向かって満面な笑みを浮かべて聞いてきた。
「図書館に行って、その後、カフェで読書をしていたけど」
カイル一人だけだった。さきほどまで周りにいる美少女三人は見当たらない。
「貴方は何をしていたの?」
カイルが訓練をしていたことを知っていたが、特に話す話題もなかったので同じ話題を振って返した。
「俺かい? 俺はちょっと体を動かしてかな」
「そう、だから少し汗臭いのね」
すると、カイルは慌てて自分の服の臭いを嗅ぐ。
「別にそこまで気にする必要はないと思うけど」
「いや、でも……」
カイルはどこか気恥ずかしそうにしていた。訳も分からず私が首をかしげていると、後ろから腕が伸びてきて、私の体を後ろに引っ張ってきたのだ。
「何か用か?」
「アディストッ!」
どうやら、私の後を追ってきたらしいアディストがそこにいた。そして、喧嘩を売るようにカイルと対峙する。
「おー、アディストか。元気か?」
「元気にやってんよ。行くぞ、イリス」
アディストはカイルを睨み付けながら、私の腕を握り引っ張っていくのだが、歩みは途中で止まる。
「俺はイリスに用事があるのだ。ねっ? イリス」
カイルはどこか背筋が寒くなるような笑みを浮かべ、空いていた方の私の手を握った。
アディストとカイルはそのまま、私の手を握りながら、片方は笑みを浮かべ、もう片方は眉間に皺を寄せ威嚇している。正反対の表情だ。共通するのは、二人とも目が笑っていないということ。
そして、一つ言わせてもらうなら二人とも私の手を放して、私を巻き込まないで欲しい。
今回は短編だけです。
気が向いたら、一万字程度で書けたらいいなっと。