第八話
「我が手に光は集まらん、ライトボール!」
ジャブからの右ストレートを、ビー(ラビットサイズの蜂)に突き刺すと同時にライトボールを発動させる。
しかし、俺のターンは終わらず、追撃として呼び出していたクロウの急降下が突き刺さる。
「ビュウウアウウ……」
流石にこの辺の敵には荷が重かったか、難なく撃破する事が出来る。
「森の中だと多少は歯ごたえがあるな……敵が素早いとどうしても被弾は避けられないか」
俺は超人じゃなくただの器用な人な為、何でもかんでも回避は出来ない。
今回のビー戦でも、1/3近い6もHPが削られた。
レベル3で、魔法や召喚を使って尚且つこれだけやられるんだから、他のプレイヤーならかなり苦戦するんじゃないか?
「クロウも半分位削られたか……全く、こんなんじゃ戦闘中にサモニングなんて敵にかける暇ないだろ?」
次の敵を見つけたのか飛去っていくクロウの後を追いながら、俺はマリアがログインしてくる時間になるまで思い切りレベル上げに精を出すことにした。
「もうすぐ8時か……早く起きたからログインして待ってようって……子供か、俺は? 遠足が待ちきれない小学生じゃないんだから」
クロウの再召喚を優先してる為、MPは必ず5は残している。
ライトボールではなく、蹴り主体でストーンイーターを沈める。
「体が光った? レベルが上がったのか?」
早速、頭上に現れた報告を確認する。
「サモンクロウのレベルが上がりました。召喚可能数が2匹になります……ふむ、戦い手が増えるのは好都合だな」
まだ、文章は続いてるな……召喚数が増える度に、HP、威力にマイナス修正が入ります。
……ただでは楽にさせないって事か? まあ、当然の事だな。
HP10のクロウが更に下がったらどうなるんだ? スキル情報を確認してみるか。
HPは10から8、威力は3から2にさがったか。ま、これなら全然許容範囲内だろ?
充分活かせるとわかった為、即座にもう一匹クロウを召喚する。
「この辺の敵なら乱獲出来る? 筈だ。一気に行くぞ!」
MPはないが、俺がメインになれば問題ない! 力一杯モンスターハントを行うことにした。
「シュール、おはよう……って、クロウ増えてる……」
あれから三対一で優位な戦闘を繰り広げていたら、俺自身のレベルが上がった。
クロウがバラバラの敵に襲いかかるかもしれないという懸念があったが、幸いクロウの思考ルーチンは一括りで、同じ敵をサーチして襲いかかっていたのは幸運だった。
しかも、アンサモニングを使うとMPが1戻ってくる事がわかった。
想像以上に戦略の幅が広がる仕様だ。
結果、予想よりやりやすい戦闘だった。
ライトボールを中々使う暇がなかったけど……。
「おはよう、マリア。クロウのレベルが上がって召喚可能数が増えたんだ。ステータス上は弱体化してるがね」
「……早いよ。一体、何時からログインしてたの?」
「秘密」
余計な事を喋ってやぶ蛇にならない内に、挨拶もそこそこに早速ミカールの町を目指す事にする。
「マリアはレベルアップまでどの位だ?」
「僕は後64だね。シュールは?」
「俺は朝少しやってたから後11。ミカールの町までどの位かかるかわからんが、初心者が一人から二人で目指す場所だ。そんなに時間もかからないだろう。それなら、出来るだけ出会った敵は倒していこう」
「僕達自身だけじゃなくてスキルのレベルもあるもんね。わかった、じゃあそれで行こう」
とりあえず、オートでサーチアンドデストロイを行う不安要素のクロウはアンサモニングする。
戦闘時のみサモンクロウで呼び出す事にしよう。
こういう目的地があるプレイの時は、アンサモニング必須だな。
「シュールは薬草とか買っておかないでいいの? それとももう準備済んでるの?」
「いや、昨日から別に使ってないから減ってないし……改めて村による必要ないだろ?」
「僕がログインする前から経験値稼ぎしてたんだよね? 何で薬草を使う事態になってないの? あっ! また、全部避けたとか馬鹿みたいな事言うんでしょう?」
馬鹿みたいって……なんか、ちゃんとした理論を元にやってるのに、やっぱり俺がチート戦士みたいな言い方しやがる。
天然か? こいつ。相変わらず真顔でえぐってきやがるわ。
「俺は一般の学生だ。マリアがどう思ってるのかはわからないけど、何でもかんでも出来る訳じゃないぞ。現にビーって言う蜂のモンスターには結構削られたし」
「はい! ダウトだよ! ビーは森の中にしか出現しないモンスターで、飛行型で高い敏捷性もあるから、出会ったら僕達程度じゃとても倒せないんだよ? それを問題ないなんて言ってる時点で、もう何を言っても説得力はないんだよ!」
強いよな、とは思ったがそんなに強かったのか。
確かにこのラグナロクの仕様じゃあ難しいよな。でも、ダメージは受けるけど相打ち覚悟なら、攻撃モーション中にこっちも攻撃すれば楽に倒せるだろ? HPは低いんだし。
「……僕は、初めに声をかけたのがシュールだった事を幸運に思えばいいのかな?」
「何言ってるんだ?」
俺なんて他のプレイヤーからすれば下の下だろうに……。
武器はなし、防具はなし、パーティーは二人。
あんまり心配はしてないが、一応死なないように注意していく事にした。