第六話
「我が手に光は集まらん、ライトボール!」
俺はラビットを殴り付けるのに合わせて、ライトボールを発動させる。
あれから大分使用してわかったのだが、スキル欄から選択しなくも詠唱だけでライトボールが発動出来るのだ。
やはり、声に出すのは厨二を患ったみたいで恥ずかしいが、なれてくると段々誇らしい気持ちにもなってくる。
まさか、禁断症状か?
ライトボールは、ラビットに当たると弾けるように爆発する。
威力は俺の素手の一撃と大差ないが、これは俺の魔攻撃力が低いからだと信じたい。
射程が近接レンジな為、一方的な魔法と言われる中長距離からの攻撃が出来ない。
魔法使いっぽくないが、これはこれで結構な利点はある。
拳の後に即発動する事で、追撃のように追加ダメージをあたえられるのだ。
魔法戦士って言えばそれっぽいか?
「戦闘型スキルの使い方だよね」
「まあな。この距離で魔法です! みたいに出来るか。むしろ、そうなると詠唱が邪魔なだけだ」
MPが丁度一発分しかないのと、その詠唱での連撃が出来ないせいで未だに一回きりの必殺技みたいな位置にいる。
レベルが上がったらまずMP増やそう。
「敵の姿が見えないな」
「他のプレイヤーいないのにね。僕達で狩り過ぎたかな?」
歩いてれば自動で敵の出るRPGと違って、倒した敵は一定時間たたないと再出現しない。
「じゃあ、森に行ってみないか?」
MPも回復したし。待ってても時間が勿体ない。
「街道から外れるとモンスターが強くなるって言うけど……」
「ま、いいじゃないか。何事も経験だ」
早く、ライトボールの扱いになれないと。
まだ、戦闘中に組み込めるレベルじゃないしな。トドメに使うくらいしか出来ないし。
「シュールがそう言うなら僕はいいけど……」
「じゃあ、決まりだな。行こう」
早速、街道に並列するようにある森に足を踏み入れた。
「ボアって、そのまま猪か。あれの突撃はどうみても俺一撃死だよな」
「いやいや、多分僕もだからね!? 矢面にたたせないでよ!」
でかいし、直線的だから回避は出来るが……姿がでかいから反撃なんて危なくて出来ない。
そんな事で拳で倒せるのか、これ? いくら森はモンスターのレベルがあがるっていっても限度がないか?
「我が手に光は……」
突撃、かわすをタイミング良く行い、同時に左手にライトボールを待機させる。
「ブルウ!」
来た、タイミングを合わせて……。
「集まらん! ライトボール!」
再突撃の回避に合わせて、ライトボールを叩きつける。
「ブルゥオ!?」
よろめいた? 進行方向にある木に頭から突っ込んだ。チャンスだ!
「マリア、今なら行ける!」
「う、うん。わかった」
木は結構なダメージがあったんだろう。暫く動かずフリーズしている。
これがこいつのダメージパターンか?
「うりゃゃゃゃゃゃあ!」
「行くよ! えいえいえい!」
二人で左右に別れて、殴る蹴るの暴行を繰り出す。
「く、効いてるのかどうかもわからん……邪魔な毛皮だな」
やはり、ボアは何事もなかったかのように、木から頭を離して振る。
「マリア、挑発でまた木に……」
「うん、わかった。シュールは?」
決まっている。距離を取って俺に話しかけてくるマリアに、ボアがまた走り出す前にその背にまたがった。
「決まってる……暴れ猪退治さ」
俺を振り落とそうと跳び跳ねるボア。
これはこれでレアな気がするが、頭の毛をつかんだ俺はうごかない。
挑発で木に突撃させる事8回。
ボアに乗っかったままライトボールを叩き込む事3回。
拳などの物理攻撃は聞いてる様子はない。
「大分動きは悪くなってきたが……まだ倒れないのか?」
「シュールぅ、これ以上避けるの無理だよお」
終わりが見えない為俺は考える。
木にぶつかった時に動きを止める。
今まではそこでラッシュをかけてたが、ダメージなんて微々たるものだろう。
なら、その隙に木に飛び乗って顔面に飛び降りれば流石にダメージになるんじゃないだろうか?
無理だったら……逃げよう。
マリアにも思い付いた作戦を伝える。
「じゃあ、これで最後だね。行くよ、挑発!」
今までと同じ要領で、ボアの突撃をかわして木にぶつけるマリア。ずいぶん巧くなってきたものだ。
俺はボアの硬直に合わせるように、その背を蹴って太めの木の枝に掴まる。
「よっと……マリア、勝っても負けても戦闘は終わりだ。距離を取っていてくれ……と、おわぁあああ!?」
「シュール!?」
そのまま木に乗っかろうとしたら、枝は途中から折れて俺は両手で折れた木を掴んだまままっ逆さま。
「ーーく、まだまだぁ!」
なんとか体を動かして下を向き、真下のボアにダメージを与えようと手にした木を降り下ろす。
そして……。
「シュール、大丈夫? 落下ダメージは?」
「足が痺れてる位だから……それにしても、そんなのまであるのか? 全く……リアルな世界だ事。げっ、2/16までHP減ってる。危なかったな、俺」
俺の身を案じて駆け寄ってくれたマリアと一緒に、ボアを見やる。
「倒せはしたけど……」
「うん。一寸可哀想だね」
俺が振り下ろした木の枝が、体を貫通して地面に突き刺さっている。
かなり深くに刺さったらしく、どれだけジタバタしても微動だにしない。
死因は出血死って事かな。
そして、その姿を消すボア。
姿が消えるのと一緒に、木の枝も消えたのが残念だった。
武器がないから代わりに使おうと思ってたのに。
ボアの消滅と同時に俺達の体が光輝く。
「お、レベルが上がった」
「僕もだ。何かクエストもクリアしたみたいだよ」
頭上のこのマークの事かな?
クエスト、森の主を倒せ、をクリアしました?
何、あいつ森の主だったの?
なんだ、この森のすべてのモンスターがこの位強いのかと思った。
「それにしても何時、クエストなんて受けたんだ?」
「臨時クエストだね。ボアに遭遇した時に自動で発生したんだと思う。集中してたから聞いてなかったけど」
完了報告は名も無き村の村長、ワイルか。折角だから行ってみるか。
「そうだ、マリアは村に入れるのか? レベル4だよな」
「ああっ!? そうだよ!! どうなんだろう、シュールぅ?」
知らんよ。不安そうな顔のマリアと一緒に、一つの疑問を胸に俺達は村に戻った。
「ここなの?僕には道しか見えないよ?シュール、村に入ったんだよね?姿が急に消えたけど」
「なるほど、それがレベル4以上のプレイヤーへの対応なのか」
マリアは報酬がもらえない事がわかり、見るも無惨なへこみようである。
「……仕方ないよ。シュール、行ってきてよ。僕はここで待ってるから」
「あ、ああ、わかった。すぐに戻るから」
慰めようがないので、とりあえず俺は村長の家に向かった。
「よくぞ、森の暴れん坊を倒してくださった。これで、この村も少しは平和になるじゃろう。それで、報酬ですが……」
「一寸待ってもらえないか」
矢継ぎ早に話を進めようとする村長のワイルに、外にもクエストを行った仲間がいる事を説明する。
「……その者のレベルはいくつですかな?」
「……4です」
「この名も無き村は、レベル3までの冒険者に解放している。その者は運がなかったとしか……」
「待ってくれ。彼女はずっとここを拠点にしてたんだ。ボアの討伐でレベルが上がったけど、それまではレベルも3だったんだぞ」
何やら渋るワイルに尚もいい募る。
「彼女が居なかったら俺はボアを倒すことができなかった」
「……この村にも余裕はない。貴方への報酬を分ける形になるがよろしいか?」
俺がもらってから分けても一緒じゃないのだろうか? と、一瞬思ったが、直の方がマリアの気分も違うだろう。
俺は躊躇う事なく頷いた。
「では、その者の所へ案内して下され」
「マジか!? 有難う村長様」
成功した。言ってみるものである。
「あ、シュール、お帰り。クエスト、何をもらったの?」
「それなんだけど……」
「貴女がシュール殿の言われていた冒険者ですかな?」
「わ、あなただれ?」
座ってぼうっとしていたマリアは、俺の姿を見るや立ち上がって駆け寄ってくる。
続いて出てきたワイルに驚きをあらわにする。
そこで、話をしてマリアにも報酬を貰う事が出来るようになったことを説明する。
「本当に!?」
「シュール殿の熱意に負けた形ですな」
「有難う、シュール!」
当然の事だから、なんか礼を言われる方が変な感じだ。
「では、こちらになります。マリア殿はスキルディフェンスを。シュール殿はスキルサモンクロウを。二人ともこの度は真に助かった。ありがとう」
「え、スキルって、本当に? しかも、魔法?」
「サモン系って……召喚術が使えるようになったって事か」
後から考えると恥ずかしいが、俺達が手を取り合って跳ねながら喜んでいるのを、村長ワイルは嬉しそうに見つめていた。
これも俺の人生の汚点の一つにならなきゃいいが……。