第五話
「スキルって凄いな。挑発が慣性を無視して、目標に向かわせるスキルだとは思わなかった。一寸侮ってた」
「僕もパーティーは初めてだから、あんな仕様だと思ってなかったよ。一人でやってた時は変わらなかったし」
先の俺達が全滅したラビット戦。
そこで使われたマリアのスキル、挑発。
それは、空中で俺に迫っていたラビットの向きを、マリアの方向に変えさせる程の力があったのだ。
「シュールも何か覚えてないの? 初めの一個目は覚えやすいって言うけど」
スキルねぇ。そんなの覚えた感じはしなかったが、マリアのスキルが優秀すぎるからもし覚えてても気後れするよな。
「どれどれ……ん? なんかあるな、二つ」
「二つも!? 凄いよ! 二個目からは中々覚えられないのに」
ふーん、運がいいんだ? でも、使えない奴だったら……。
「何々……ライトボールとサモニングだと」
「ライトボールって魔法じゃない!? 凄いじゃない! 僕が知ってる中で、魔法を使えるプレイヤーはいないよ! レアスキルだよ」
いや、名も無き村じゃ皆一個から二個しかスキル覚えないんだろ? じゃあ、魔法系を習得する確率はそう高くないだろうよ。
とりあえず、スキルの説明は……ああ、あったあった。
ライトボールはマリアの言う通り魔法だな。光属性か。
一昔前のゲームだと、光属性は選ばれた奴しか使えなかったりするんだけど……MMOでそれはないか。
サモニングは……召喚術? 契約したモンスターを呼び出して己の従者とするスキル……便利だな。
「……だってよ」
「凄い、凄いよシュールさん! 僕、ログインしてない時はいつも攻略掲示板みてるけど、サモニングなんて見た事ないよ。モンスターをなつかせるテイマーがあった気がするけど、余りに大変で死にスキルになってるみたいだし……」
この娘は……学生じゃないの? まさか、引き籠もり? 触れないでおこう。人には触っちゃいけない事もある。
「……ええと……そりゃまたなんで?」
「基本はモンスターを弱らせて、好物の食べ物をあげるの。そして、スキル、テイマーを使うと低確率でなつくんだって。でも、定期的に食べ物を上げないと野生に帰っちゃうんだ。あんまり言うことも聞かないし、急にテイムが切れる事もあるみたい」
それは……確かにめんどい。
しかも、いつ寝首をかかれるかわからない状態なんて……そのテイマーのプレイヤーには同情する。
「じゃあ、とりあえず同じようにモンスターを弱らせて、サモニングを使って見ればいいのか?」
「わかんない。でも、それで何かあったら見てればわかるんじゃないかな?」
だな。よし、いってみるか。その辺の村の外に。
「ラビットだね。仕返し?」
「エンカウントしただけだが、1匹でいるなら都合がいい。俺のライトボールと、サモニングの錆にしてやろう」
「仲間にするなら、錆びにしちゃ駄目だと思うけど……」
揚げ足を取るんじゃないよ、この娘ったら。
ピョンピョン跳ねてるラビットを見つけた俺は、左手をラビットに向ける。
まだ、気づかれてはいない。
「スキルってどうやって使うんだ? メニューからでいいのか? スキル、スキル、と……ライトボール……と、あったあった。おお、手が光出した」
アニメのエネルギー弾みたいに、手のひらで球形になる。
「よし、まずは一撃! 行け! ライトボール!! ほ、はっ! ……ん?」
なんか、手から離れないんだけど……何これ? 昔、ガチャガチャでこんなのあったよな。ネバネバの。
「シュール。頭の上に呪文が浮かんでるでしょ? 魔法系スキルはそれを唱えないと駄目らしいよ」
ん? 呪文……これか……これを言うのか? 本気で?
「これを、口に出すのぉ? なんか、とても恥ずかしいんだけど……」
「ゲームで恥ずかしがってどうするの!? 不特定が売りでしょ。僕が見たいんだから、早くしてよ」
く、こんな近くに暴君がいたとは……。
「……光は……まらん」
「聞こえないよ? それに発動してないよ」
「我が手に光は……」
「はーん、聞こえんなぁ」
「……ええい! 我が手に光は集まらん! ライトボール!!!」
羞恥プレイにきっと顔面は真っ赤だろう。しかし、俺は耐えきった。Sのパーティーメンバーの嫌がらせに勝ったのだ。自分で自分を褒めてやりたい。
俺の呪文を受けて、左手に宿る光の玉はスキルライトボールになり、ラビットに向かって放たれた。
「…………マリア」
「そういう仕組みなんだ……」
ライトボールは放たれた。それは確かだ。しかし、俺の拳のリーチと同じ位の距離で消滅した。
当然、ラビットには当たってない。と、言うか到達してない。
「しかも、気づかれたし。魔法は消える、Sのパーティーメンバーには羞恥プレイの強要をされる、MPはすっからかん。このやるせなさは何処にぶつけばいいと思う? マリア」
「ほら、ラビット、ね? 来てるから、あれにね? 僕はそれがいいと思うな、うん」
とりあえず、マリアの処遇は置いておくとして、駆け出してラビットの攻撃モーションより早く、飛びげりをぶちかました。
「さあ、きりきり説明してもらおうか。Sっ娘ホビットめ」
「僕は別にSじゃ……って、女の子に何言わせるんだよ、もう!」
それは重要じゃない。むしろ起こった事の説明を早くしろ。
結局、サモニングを使う暇(MPが0だし)も無かったし。
「ええと、MPが空になったのはシュールのMPが低かったからだよ。撃てただけ良かったと思うけど。ライトボールが消えちゃったのは、多分それが素体のスキルだからだと思う」
素体?
「スキルは、そのスキル内で効果や時間とか沢山の項目毎に分けられてるんだ。覚えたてのスキルはそれが全部最低の段階で始まるから……僕の挑発も、初めは効果範囲は目の前だけで、効果時間は5秒、パーティーは初めてだからわかんないけど、対象から僕に目標を変える確率も低かったと思う」
つまり……ライトボールに関しては何だろうな?
「今の感じだと……射程は影響してるみたいだが?」
「後は多分、威力と詠唱速度、消費MPとかかな?」
スキルは表記こそないが、個別でレベルが存在しているらしく、その中からランダムで上がっていくらしい。
つまり、運が悪ければ俺のライトボールは、近接専用魔法になるって事だ。
「MPとHPの回復は、アイテムと宿以外には出来ないのか?」
「一定時間で自然回復するけど、他には聞いた事ないよ。今のシュールならすぐに回復するよね」
まあ、そうだが……皮肉か? 仕返しのつもりか?
ま、なるようになるか。
折角覚えたし、出来るだけメインに据えて戦っていくか。
俺、魔法使いへの第一歩、始まる。