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第四話

 右フック。ストーンイーターは左に振られる。


 左フック。ストーンイーターは右に振られる。


 右ハイキック。ストーンイーターは左方向に飛んでいき、そのまま動かなくなる。


「ん、満足、満足」

「なんか、機嫌悪くない? シュール」

「……そんな事ない。俺は誠心誠意レベル上げに勤しんでいるだけだ」


 薬草を買う為に、名も無き村に戻った俺とマリア。


 その時、試しに無料の宿泊施設、馬小屋に泊ってみたのだ。


 うるさい、臭い(気がする)、藁の上じゃ寝れない、馬に蹴られるとダメージがある、様々不満はあるが……一番は気に入らんのは……。


「それでも回復している自分に腹がたつんじゃ!!」


 見つけた新しいストーンイーターに、助走をつけた状態での飛びげりを叩き込んだ。


「……八つ当たりじゃない」

「あーあーあー聞こえなーい」


 ゲーム内時間の二日目も順調であった。




 どうやら、同じ名前のモンスターにも個体差があるらしく、ストーンイーターでも動きや耐久力に違いがあった。

 だが、レベル2になってからは、どの個体も余裕を持って倒せるようになった。


 被弾しても終わらないという切羽詰まった感じが無くなったからだろうか? 戦いながらも殺伐としてたし。


 手に入るアイテムもミミズの肉だけ……食べるのか?

 一昔前のハンバーガーか?


 倒したストーンイーターを背にしてため息をつく。


 このままやればその内レベルが上がるだろうが……いいのか、これで?


 もっと刺激を味合わなきゃ勿体なくないか?


 ま、要は飽きたのだ。この辺で別の奴とも戦いたい。


「あれにするか……」

「ラビットにするの? ……まあ、僕がいるから大丈夫だとは思うけど……」


 何だ? 強いのか? 思いつきだから、戦闘不能を賭してって程じゃないけど……。


「……来たな」

「ラビットはアクティブモンスターだからね。大丈夫だよ。やられそうになったら僕が何とかしてあげるから」


 アクティブモンスターとは、視認したら勝手に襲ってくる奴の事。

 ウサギなのにノンアクティブじゃないとは……寂しいと死んじゃうんじゃないのか? バリバリ肉食系じゃないか。


 因みに草食系というか、こっちが手を出すまで我関せずなのはノンアクティブモンスターという。


 ピョンピョン跳ねて近づいてくるラビット相手に、地面に落ちている小石を投げつける。

 ぶっちゃけ、今の段階なら遠距離攻撃はこれしかない。

 一番のダメージソースだと思う。


 道が結構整備されてるから……仕様なんだろうが殆ど落ちてないが。

 他の村にいけば状況が変わるのかな?


「ギャン!」

「体勢を崩したな……HPゲージの減りかたを見ると、倒すまで大体小石五個分位か」


 当然持って無いけどな、偶然落ちてただけだし。


「ラビットはね、まず……」

「おお……ジャンピングタックルか? 甘い甘い、その程度じゃ俺にダメージは与えられないな」

「……何で避けれるの? まだ、説明終わってないのに……」


 俺は体を反るようにして回避する。


 マリアが何やらよくわからない事を言っているが、あのタイミングで攻撃方法を説明したら手遅れだろう?


 反転してまたジャンピングタックルを繰り出すラビット。

 反撃、と、ばかりに正面から左ストレートをぶちかます。


「キュー!!!??」

「モーションそれしかないのか? だったら、敵じゃないな。初心者向け何だろうが……楽すぎるだろう?」


 飛んでいって地面でバウンドするラビット。


「よし、攻撃力1の拳でも小石一発分に近いダメージが入るな。後、4発弱か……つうか、小石ってやっぱり、この程度か。入手率も悪いのに弱いのか……これも場所が変われば変わるのかな?」

「……シュール、君のHPも減ったよ」


 何、マジか! 何でよ???


 即座に自分のHPゲージを確認する。


 おお、7/16まで減ってるし。ダメージ高すぎだろ。HPフルでも二発で死ぬじゃないか。


 あの肉食系ウサギ、まさか、毒でも持ってるのか? だとしたら、どうしたら倒せるんだ?


「とんだ強モンスターだな……」

「多分シュールの考えてるのは違うと思うよ……僕達は素手なんだよ。ラビットの突撃を反撃したら、攻撃判定を受けるよ。相手にもダメージがいくのは利点だけど」


 むしろ、初めに言えよそれは……良かった、対応出来る敵で。


「つまり、相打ちを狙うんじゃなきゃ、攻撃後とか、対処出来る隙をつけばいいだけだろ?」

「だけって……それが出来れば苦労はしないよ……」


 いや、そうでもないだろ? だって、飛び上がってタックルしかしてこないんだろ?


 単調な突撃しかしないラビット。ジャワピングタックルを終えて地面に降りた時に、蹴りつけて別に苦もなく撃破する。


「ま、こんなもんだな」

「だから、シュールは何で攻撃、当たらないの? ズルいよ、抗議するよ」


 ズルいって……何で怒られてるんだろうなぁ?


「だから、軌道と予備動作を見てれば回避は余裕だろ?」

「そんなの、普通の人は出来ないよ。ラビットにだって、僕、何回やられたか……」


 マリア、ストーンイーターの時も言ってたが……一体何回やられてるんだ……むしろ、不憫な子なのか? マリアは。


「ドロップは……ウサギの肉か。やっと、食べられそうなのが来たな」

「名も無き村じゃ、素材を調理出来ないよ」


 そうなのか? じゃあ、暫くアイテムボックスの肥やしだな。


「……あ」

「どうした、マリア?」


 マリアが俺を見て固まる。


「シュール!!」

「何だ、急に?」


 回れ右で走り出すマリア。


 何なんだ。俺、逃げられるような事したか?


 散々、変な奴認定されて、尚且つ逃げ出されるとは……流石の俺も一寸傷つくぜ。


「シュール、何やってるの!? 後ろ! ラビットがリンクしてるから!」


 リンク……同種のモンスターが戦闘中に加勢する制度だったかな?

 そうか、俺に不満があったんじゃなかったのか。表面上は無表情を保っていたが、ガラスのハートがガシャンガシャンだったから、なんとか生き抜いたな。精神的に。


 やっと言いたいことが把握出来た俺は、自身の後方を振り替える。


「5匹か……この距離じゃ、もう逃げきれないな。出来る所までやって華々しく散るか」


 マリアは既に離脱してるから問題ない。俺の忍者マンガで見た、超回避術をみせてやるぜ。







「甘い! その程度で、俺を捕らえられるか!」


 蝶のような舞いを見せて、ひらりひらりとラビット達のジャンピングタックルを回避する俺。


 ラビットは時間差で近づいて来てるので、今相手にしてるのは2匹。

 残3匹が来た時にどうするかな?


 なんかラビットって小さいから、パンチングボールの感じでラッシュかけれないかな?


 動物愛護団体に文句を言われないように、と祈りながら、試しにラビットを1匹サッカーボールの要領で蹴り上げる。

 綺麗に眼前に跳ねてきたので、左右の拳を滅茶苦茶に繰り出すラッシュをかける。


「ふっはっりゃりゃりゃりゃりゃ……だあ!」


 そして最後は左フック。地面に落ちるときには戦闘不能状態のラビット。

 ワンラッシュでラビットを沈める事に成功する。


「後、4匹か。意外に出来るものだな……と、後続も来たか。よし! 結城一馬、推して参る!」


 目の前の1匹のラビットに身構えながら、気合いを入れ直した。







「はぁ。やっぱり駄目だったか」

「ごめんね。僕がもっと早く戻ってればなんとかなったかもしれないのに……」


 あの時、目の前のラビットと睨み合っていた俺は、後続の3匹に追い付かれた。


 散る事を想定してるとは言え、むざむざやられるつもりもない為、HP的に一撃でアウトの俺は、攻撃を捨て回避に専念せざるを得なくなった。


 勿論回避なんてしきれない。2匹まではなんとかなるが流石に3匹は無理だ。

 3引き目のジャンピングタックルに対処できずラビットCの体が眼前に迫った。


 しかし、それは間一髪戻ってきたマリアが、スキル、挑発をかけてくれたおかげで生き延びた。

 

 それにしても、慣性を無視して空中でラビットの向きが変わるとは……予想外です。


 最も……直後、ラビットDのジャンピングタックルを受けて俺がやられた為、4匹を相手取る事になってしまったマリアも駄目だったのだ。


 正直、薬草を使えば何とかなっただろう。ただ、そんな考えは失念してた。十分勝機はあったのに。


 無念。


「いや、こっちこそ悪いな。マリアを死なせる羽目になった」

「いいんだよ。もともと僕がもっと詳しく説明しとけば良かったんだから」

「いや、やはりここは俺が……止めよう、きりがない。両者痛み分けといこうじゃないか」


 仲間と共に、初めて戦闘不能になったのだった。

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