第三十話
「それにしても……さっきのカラスの大群は凄かったなぁ」
「あれが~お兄さんの~必殺技~ですね~」
話も聞いて、仲間としてやっていこうって決めたから別にいいんだけど、もし、本当にPKだったとしたら……あれを見せたのは軽率と言える行為だったな。
協力出来る奴らでよかった。
「ああ。他の奴には秘密だぞ」
「わかってるがな」
「勿論~です~」
口調の戻ったテイトにスガタと話しながら、俺はクエスト目標のイグルー洞窟に向かう。
「ほっ! 木の杖って……このこびりついた腐肉は落ちるのか!?」
「その回避力はどうなってんねん、おかしいやろ!?」
「スガタ~一寸~黙ってなさい~集中出来ない~」
木の杖の先端や先を使って、襲い来るゾンビの攻撃をそらして回避に専念する。
そして、その隙にスガタのブロンズアクスとテイトのハンターズボウが襲いかかる。
滅多打ちのように斧を振るいまくるスガタに、ゆっくりと時間をかけて一撃の矢を放つテイト。
それは少しづつ、しかし確実にゾンビのHPを減らしていく。
適材適所と言う言葉がある。
個々にプレイしていても危険があるなら、パーティーでの役割を与えて円滑な戦闘を行うと言う事だ。
一番初めは俺。
俺が先制して敵との戦闘を開始。
で、ある程度ダメージを与えたらスガタが背後から、テイトが弓の射程距離である中距離から参戦する。
その後は二人に攻撃を任せてターゲットを取った俺は回避に専念するのだ。
これはモンスターにヘイト制が導入されてるから出来ることだ。
ヘイトとは、攻撃やモーションを起こしたときにモンスターが受ける敵対心みたいなものだ。
たくさん殴ったり大ダメージを与えると、ダメージを与えたプレイヤーがターゲットとして固定され、他のプレイヤーはそれを上回るような行動を示さないとターゲットは変わらない。
そんなシステムだ。
この場合、二人の攻撃型が高くないのは幸いだった。でなければこんな戦法とれないからな。
どれだけ斬りつけても、よりダメージの高い弓の一撃とダメージ配分が分散されるから更に高いダメージの俺からターゲットが変わる可能性が低い……と思う。
「なんや、やっこさんの後ろから斧で斬りつけるなんて……わい、殺人鬼かいな」
「周り回って~変人~って事ね~でも~こんなにうまく出来るなんて~想像も出来なかったわ~」
全く敵が来ないこの作戦、更に少しだけ強めの絆で結ばれた……筈の俺達。
随分落ち着いて射撃に集中出来ているのか的から矢が外れる事が少なくなった。
今までは1/100位の確率……でしか当たらないって言っていたが……これは当たらない事に対する皮肉だろう……から、1/8位の確率で当たっているような気がする。
全く持ってうれしい限りだ。
「あーよかった。時間で汚れや匂いも消えた。駄目だったらへこんでもへこみきれない」
「そうやな。わいなんてこんなに顔が近いねんぞ。血しぶきも飛んでくるし……」
「あら~それでも~スガタは~全く違和感が~なかった~気がするわ~」
そして、へこむスガタ。だから、メンタル弱すぎだろう?
「これで大分洞窟内も進んだんちゃうか?」
「そうかもしれないが、何も起こってない。まだまだ先があると見るべきだな。しかも、敵はゾンビだけ……一個の洞窟でモンスター一種類なんて有り得ない。クエスト用に調整されてるって事か?」
「え~と~それは~どういう事~何ですか~」
テイトは口に出して疑問を聞いてくるが、スガタは首を傾げて目をぱちくりしてる。
可愛いなぁ、こいつ等は。これが父性愛?
「それはな、まだわからないが決まったモンスターしかでない。つまりは弱点もはっきりしてるし、こんなにやりやすいレベリングはないって事だ。勿論、出現数が決まってるかも知らないし、それどころじゃない位厄介なモンスターが出るかもしれないがな」
「……確かに~言われてみれば~その通りです~流石お兄さん~」
「今のダンジョン進行だけでそこまで思い至るなんて……シュール、恐るべしや」
なんて軽口を叩きながら先を進む俺達。
複数体敵が出た場合は、二人共自信喪失するであろう、俺より強いサモンクロウを使用と思っていたが……何故かモンスター……と言うかゾンビ一体しか出ない。
「モンスターが種類、数共に一体なのも不思議なんだが、何故他のプレイヤーに会わないんだ? ここは、別に特殊フィールドじゃないよな?」
「ええ……とな、それは……」
「このクエストは~人気が~ないんです~」
不人気? クエストが面倒くさい? 難しいとかか?
「3人っちゅうのがネックやねん。もう、普通のプレイヤーは大抵何処かのギルドに所属しとるし、戦闘も大した事ない。それに、報酬も同じ様に大した事ないらしいねん。更に街からも遠い。そんな面白味のないクエスト殆どやらんっちゅうねん」
「……そんなものか」
「そんな物好き~私達位でしょうしね~」
曲がりなりにもクエストだから、そこまで誰もいない訳はないと思うんだがなぁ。
「お、行き止まりやで! 果たして、何が起こるやら、や」
「調べたんじゃないのか?」
「その~何パターンか~あるらしいんです~」
ギャンブルって事か?
行き止まりの道は三カ所の壁に文字が掘ってある。何かの演出になってるのか、何が書いてあるのかは全く持ってわからない。ミミズがのたくったような……三カ所って事は、まさかこれが依頼の内容か?
「読めない文字ってのが何かの選択を促してるのか?」
「そうや! 自分、冴えてるなぁ……で、この文字の意味はな……」
何だ、ギャンブルじゃないのか……一寸残念だな。
「……ええーと……なあ、テイトはどうや?」
「私!? ちょ、一寸待って! ……無理!」
ええ……なんでそんな肝心な場面を忘れてるのか?
テイトは急に振られて地に戻ってるし。
俺は構わないが、真面目にギャンブルプレイじゃん。
「まあ、ええわい。適当にやろうや」
「あっ! スガタ、それは! きゃっ、ああぁぁあぁぁああぁあ!!」
「おわっ! ……外れってヤツかああああああああ」
そう言いながら左端に書いてある文字を殴りつける。
テイトの慌てたような声を聞きながら、俺達は急激な落下感を体感していた。




