第二十九話
俺は今までパーティーを組んでいたスガタ、テイトから急いで距離をとる。
「外道者って……お前等、PKだったのか!」
二人の挙動を一足一挙動を見逃さないようにして、サモンクロウを詠唱する。
外道者なんて言葉俺は聞いた事ないが、外道の言葉は道を踏み外したものという意味だ。つまり、ラグナロクで道を踏み外したものといえばPK=プレイヤーキラーしかない。
厳重に管理されたラグナロクのPK対策を、どうかいくぐったのかは不明だが、世の中には様々な人間がいる。
運営の気がつかなかった盲点があったのかもしれない。
もしくはハッカーやクラッカーの可能性もある。
確かに現レベルを考えるとゴブリンを苦戦なんかする筈がなかった。
きっと無防備に攻撃を受けたり、わざと攻撃を外したりしたのだろう。
全ては……俺を騙す為に。
「おい、待つんや! わいの話を」
「どうやって、このラグナロクでPKしたのかはわからんが、俺もバクを利用したチーターもどきだ。ただではやられんぞ」
俺のスキル発動を受けて、クロウ20匹が召喚される。
ただ、彼等に動きはない。ただ、その辺を飛び回ってるだけだ。
まさか……サーチ対象外か?
なら、呼んだはいいが……クロウはプレイヤーを攻撃しない?
うわ、じゃあ、逃げた方がよかったか? ミスっただろうか?
「ちゃうって! わい等そんなんちゃうねん!」
「PKは皆そう言って近付いてくるんだよ。おいしい言葉に俺は引っかからんぞ」
スガタと一定の距離を取りながらクロウ達に紛れ
みる。
これで少しでも目くらましになれば、効果はあるんだろうが……逃げようにも街までは遠く、周囲はモンスター一匹いない(俺が討伐したし)。
少しでも舌戦で時間を稼いで運営にメールをするか。
「まさか、秘密が俺をはめる物だったなんてな……テイトも……って、テイト?」
「シュールさん、酷いです……うう……私達、そんな事しません……」
スガタを牽制しながら、より策謀家と思われるテイトにも口撃をしかけた。が、そこで見たのは、涙を流して俺を非難するテイトの姿だった。
「どう言う事だ? お前等PKなんだろ?」
「だから、そんなんちゃうって何度も言ってるやんけ?」
言ったか? 全く記憶にないが?
「ふむ、では何故外道者なんて呼ばれてるんだ? ラグナロクでの禁忌、PKをしたからじゃないのか?」
「んなことするかいな。それにあの呼び名はわい等にとっては忌むべき物や」
スガタの話を信じるなら、どうも、俺の勘違いの可能性が濃厚になってきた。
俺は呼び出した20匹のクロウをアンサモンで消して回る。
「テイト、済まなかったな。スガタの説明が訳わからなくて、つい取り乱してしまった。改めて、君の話を聞かせてくれないか?」
「……ごめんなさい、泣いちゃって……そのせいでシュールさん、罪悪感を刺激されて冷静になってくれたんですよね」
この娘は……わざとなのか?
まあ、藪をつついて蛇を出す事はないだろう。
あの、女性の涙を見て果てしない罪悪感を感じるのは男のサガなんだろうな。
「で、説明を聞きたいんだが……どっちが説明を? それと、テイトは口調が変わってるがいいのか?」
きっと何かのロールプレイをして言葉遣いを変えてたんだろうが、ゲーム内の俺への対応なんかで口調を戻していいのか?
「もう、それ所じゃないですし……終わったら戻します。私……今更嘘っぽいかもしれないですけど、人前で泣いた事なんて無いんですよ?」
このタイミングで言われても確かに信じられんなぁ。
ネットの匿名性って、本心が出るって言うから本当は寂しがり屋ってこと何だろうな。
「……信じられへん」
「貴方には聞いてません。説明の仕方、会話の流れ、その他様々な点において、スガタはあまりに未熟です。一歩間違えたら、シュールさんからに蔑まれながらラグナロクをやることになってたかもしれないんですよ? そこで座って猛省しなさい」
「…………すまん」
本当その場に体育座りになるスガタ。
……本当にわざと流した涙じゃないよね?
「スガタは一寸話せそうもないので、シュールさんへの説明は私がさせてもらってもいいですか?」
「あ、ああ……頼む」
正直スガタみたいに、どんな精神攻撃をされるか気が気じゃないので凄く怖いんだが、どよーんとした顔でとんでもなくへこんでるスガタに説明しろ、とは流石の俺もいえない。
「まずは……そうですね。シュールさんは、ネットのラグナロクの攻略掲示板は見ないんですか?」
「ああ……見た事ないなぁ。相棒は見てるみたいだが、少なくとも俺はこれからも見ないだろうなぁ。そこから生まれた言葉なのか?」
外道者か……そんな所で生まれてるって事は禄な意味じゃなさそうだな。
「納得しました。外道者とは種族、エルフとワーウルフの二種類を指すスラングなんです」
「スガタがワーウルフで、テイトがエルフだったな。で、その意味は?」
種族を指すって事は、PK関連の線はいっきに消えるな。
その二種類に種族的な欠陥でもあるのか?
何で数ある種族の中でそんな言葉が生まれたんだろうな?
「はい、外道者とはですね、分かり易く言うとパーティーに居ても仕方ない、いるだけで寄生の、存在自体が使えない役立たず、って言う意味です」
「………………」
この娘はよくもまあ真顔でそんな事が言えるものだ。
テイトの口振りからすると、何処かでそのままか似たような事を言われた事があるんだろう。
それにしても……また、よくもまあそんな非道いことが人の口から出るものだ。
匿名性の悪用ここに極まれり、って感じだな。
「大変だったんだな、ごめんな、さっきはあんな勘違いして」
「あっ! い、いいえ、大丈夫です。シュールさん、私の思った通りの方でしたから……」
思わずしみじみと本気で謝ったが、つい頭を撫でてしまった。
テイトも気にしてないみたいだから、そのまま頭をなで回し続ける。
「それに、言った方は今頃ラグナロクを止めていますから。運営に少しだけ発言を過剰にして、禁止ワードを込めて抗議のメールを送って、ご本人にも一寸したショートメールを送らせてもらいましたから」
ピクリと、俺のテイトを撫でる手が止まる。
果たして彼女は一体何をしたんだろうか?
やったことは心情的には許される事じゃないが、罪状はただの悪口みたいなものだ。
運営へのメールだけでは対応は厳重注意位で、いきなりアカウントの剥奪とかはあり得ないだろう。
プレイにかかる器具や利用料、通信料も馬鹿にならないんだから。
にも関わらず、テイトは辞めていると断言した。
ただ、そう言った希望を運営に出したからそう考えている。それなら、ただの一寸夢見がちな娘で済むだろう。
しかし、どうにも俺にはそう思えない。何か直接的な何かが行われたとか……むしろ、俺の中では確信に満ちているのが恐ろしい所だ。
その誰かはきっと、高すぎる代償を払うことになったんだろな。
「いいですか、話を続けて?」
「あ、ああ!? 俺の事は気にしないで話を続けてくれ」
「シュールさんに話してるのに、そんな事出来ませんよ。じゃあ、続けますね。何がそんなに駄目で言われてるのかというと……ワーウルフは、魔法系は全然駄目で、しかも、攻撃と防御が低すぎるんです」
獣人だろ? 魔法は仕方ないとしても攻撃と防御って……じゃあ、何にいい所があるんだ?
「シュールさんがご存じかはわかりませんが、ワーウルフには獣化と言うスキルがあります。HP、攻撃や防御等が上がる種族を代表するスキルです。これを使えば、全種族の中でも最高レベルの戦力になったかもしれません」
「その言葉振りからすると、ならなかったって事だよな?」
確かに思えばスガタは、装備の割には攻防が低かったな。
「はい。シュールさんもご存知でしょう? 初めに覚えたスキルがどうなのかを?」
初めに? どう言う事だ? 全く持って想像もつかん。
「おわかりでしょうが、スキルは全数値最低値で始まります。獣化は時間は10秒、上昇率も最低限。運営はバランスを取るつもりだったんでしょうが全く持ってスキル設定を間違えてますね……この為、獣化は全く持って使えないスキルになりました。レベルを上げ続けられれば別かもしれませんが、今のこの風潮では無理でしょうね。それで残ったのは、魔法職並のステータス数値しかない前衛職の出来上がりです。そんなスガタ、誰が仲間にしますか」
いやいや、スガタ指定してるから。ほら、あそこでさっきよりとんでもなくへこんでるから。
もうやめて上げて! スガタのHPはもう0よ!
「後は私の種族のエルフですが、これは一般的に2種類います」
ふむ、不遇とそうじゃないって事か?
「エルフはそのイメージ通りに、魔法に関連する数値が高めです。つまり、魔法を使えるかどうかで話が変わってくるのです」
「使えなければ駄目な扱いを受けるってことか」
この何のスキルもランダムで覚えてしまうラグナロクじゃ、キツいだろうなぁ。
「ワーウルフとは違って、運が良ければ解決出来るかもしれないので、まだ気は楽ですが……攻略掲示板の情報を鵜呑みにしてる方が余りに多くて……」
なるほど、それで、発言を後悔する奴が増えるわけか。
「後、もう一つは……この弓です。ラグナロクは自動補正が入らないんです」
「ん? 自動補正ってなんだ?」
「武器を使用する時に動きをトレースしては経験のない人にも扱いやすくするシステムです。大抵のMMOには導入されていますね」
……知らん。
「それで、一般的に弓はそのシステムの受ける恩恵が大きすぎるんです。弓を使える人なんか極少数ですし、普通に考えて矢を当てられるような射を出来る人一般人はいませんから」
成る程ね、それでその二つの種族を外道者って呼んでるのか。
意外な所でラグナロクも腐ってるんだな。
「本当に、大変だったなぁ。わかった、これからは俺と一緒にパーティーを組めばいい」
「本当! お兄さん!」
「マジか! ほんまやな! もうけ言質は取ったで! 今から、やっぱなよ! って言っても駄目やで!」
別に言うつもりじゃないが……なんか、その言い方はしゃくに障る。
それよりも……違和感合ったのは……。
「テイト、何、そのお兄さんって……背中がむずかゆくなるんだけど」
「あ、ごめんなさい。嬉しくて、つい……でも、シュールさん、私より年上ですから……」
何? 何でそう断言できるの? あの娘は俺の何を知ってるんだ?
「私、中学生ですから。シュールさんの感じから私よりはずっと年上だなって思ってましたし」
中学生……最低の対象年齢か。確かに比べたら俺なんて……確かにお兄さんだが……。
感と推察で判断したって事か。よかった、お前が誰か、私は知ってるから、とか言われなくて。
「あの……それで、シュールさんの事、お兄さんって呼んでもいいですか? その、頼れるお兄さんが私、ずっと欲しくて……」
頼れるお兄さん限定? 呼ぶのはいいが、俺頼れないぞ?
出来るだけテイトにわかるように遠回しに断ったが、どうにも難しくなんだかんだの内に俺はお兄さんと呼ばれることになってしまった。
後、どうやら、信頼して腹を割って話せそうな仲間が二人増えたようだ。
やはり、テイトが、かなり怖いのだろう、ずっとスガタは最後以外口を挟まなかった。




