第二十八話
「ギギャー! ギギギー!」
「武器で戦うのも久し振りだな、ほら!」
俺は手にした子鬼の木の杖の先端を、ゴブリンに向けて勢いよく突き出す。
それは錆びた短剣を振り上げて突撃してくるゴブリンの、喉の部分に丁度クリティカルヒットした。
ダメージ的には増えてないだろうけど。
「グギャッ! グギャハ!」
「むせたりするんだ……攻撃部位って重要なんだな」
ダメージは大体HPゲージの1/6位。
やはり急所とかがあるのかな?
咳込んで動きが止まるなんて、狙いをキチンとつけきれれば、無限俺のターンが出きるな。
それなら、と、今度はゴブリンの顔面に再度突きをくれてやった。
「ギャッ! ギギギー!!」
今度は特にゴブリンに遅延効果はないし、ダメージに変わりはない。
「そらそらそらそら! 避けきれるか? 俺の連撃!」
こちらに怒りの目を向けて向かってるゴブリンに、啄木鳥のように単発の突きを山のように繰り出す。
勢いや力の入れ具合からか、ダメージは力をいれて放った突きよりも低い。
しかし、威力など関係なく、射程距離の関係か、一方的に攻撃が出来る。
チビチビと少しづつゲージを減らしていって、10発も当てただろうか?
ついにそのHPは0になり、ゴブリンは消滅した。
武器の使い方が槍とか棒だな。とても杖としての使い方じゃないし。
「さて……こっちは片づいたか。向こうはどうなって……って、何でスガタはあんなに被弾してんだ!?」
俺が任せた残りのゴブリンと戦っているテイトとスガタは随分と苦戦していた。
スガタはHPが半分位に減っており、ブロンズアクスで一生懸命斬りつけているが、なにやらダメージが上がってない。
ダメージ的には俺の杖とあんまかわらなくないか?
テイトは、これまた一生懸命弓を射ってるが矢はゴブリンには当たってない。
そして、ゴブリンの錆びた短剣は一撃でスガタに結構なダメージを与えている。
装備の為か、流石に俺よりはダメージは低いが。
「まだ、半分位あるじゃないか。これじゃあ、負けるぜ? スガタ」
俺はゴブリンの背後に回ると、両手で木の杖を振り下ろした。
「いや、ちゃうねんよ? いつもはこうじゃないねん! 今のは……そう、星の巡りが悪かったんや!」
ゴブリンが倒れてから、唐突にスガタがまくし立て始める。
別に言い訳とか欲しい訳じゃないんだが……。
むしろ、あんな戦い方でよくここまでレベルが上がったな。
実際今回は上手くハマらなかっただけと考えるのが自然か。
「そ、そうか……特化型って言ってたし、確かに運が悪かったんだろう」
「そう! そうや! 自分ようわかってるやん! 次こそわいのスーパーパワー見せたるからな!」
スーパーパワーってなんだ? パーティー戦なんて俺もよくわからないが、それなら個々の戦闘方法を合わせて協力した方がよいのだろうか。
でも俺はマリアとしかパーティー組んだこと無いな。言ったら寂い奴扱いされないだろうか?
一寸言うのは嫌だなぁ。
「スガタ~もう~やめましょう~」
俺が考え事をしながらスガタと同時進行でどうでもいい事を話していたら、隣でずっと話さなかったテイトがぽつりとスガタに向かって口を開く。
「テイト、何言うとんねん! わい等にはもう他に手はないねんぞ!」
「でも~私~もうこんな事~出来ないよ~」
何の話だ? 最近俺の知らない所で色々話が進んでる。
「今までだって~私達で~やってこれたんだよ~やっぱり~ちゃんと話して~」
「だから、今までそれで無理やったやんか! 実際、わい等二人じゃゴブリンにだって勝てるかも怪しかったで!」
今の戦闘の話か? 実は俺にも関係ある話なのか?
「でも~私は~シュールさんは~信頼出来ると~私は思うの~」
「確かにな、わいもシュールは信頼出来ると思うで。で、世の中にはもしもっちゅう事もある。だから、わい等は……」
俺の名前が出てる。会話の流れから何かを俺に隠してるみたいだ。
テイトは私って二回いったな。大事な事なんだろうか?
途中まで聞いてたが、何だかそれ所じゃなくなってきてからは聞いてない。
「街道だぜ? 何でこんなにゴブリンがいるんだ?」
何故なら茂みから飛び出してきた二体のゴブリンに、ヒーヒー言いながら戦闘を繰り広げていた。
「契約に基づき、我は汝を召喚する! スキル、サモンクロウ!」
足留めも兼ねて、俺のスキルの異常性がバレないように一匹だけ、クロウを呼び出す。
流石に二体相手だとやられる危険がる。
そして1対1になるように距離をとる。
そうすればクロウは、ゴブリンのレベルはわからないが、かなりのレベル差があるだろうし撃破出来るだろうと思う。
……でもなあ、流石に一匹じゃ無理かなぁ。
いや、盲目や防御力低下の状態異常もあるし大丈夫だろう。
少なくとも、時間は稼いでくれるだろうから、俺は気合いを入れてゴブリン退治を始めた。
負けた……いや、戦闘は勝ったよ。
負けたのはクロウとの撃破スピードバトルさ。
悔しいことに俺の何倍も早くゴブリンを撃破して、俺のサポートなんぞにきやがったからだ。
むしろ、その姿勢は「あれあれ? うちのマスターまだやってるんですか? 仕方ないなぁ、全く」と、言わんばかりだったからた。
いや、実際に言ってないよ? そんなの感じられたら、俺何処かから何か大宇宙的な何かを受信してる人だろ?
実際集団での袋叩きしか見てなかったから、正直状態異常とオートスキルによる速度強化を甘く見ていた。
召喚獣なんだから、なんだかんだ言って俺の方が強いだろう。
そう思っていた時代が俺にもありました。
元々そうなんだが、速度強化による、俺を遥かに上回る早さでの移動をみせるクロウ。
それにほぼ毎回発動を見せる盲目効果、どこまでも下がっていく防御力。
それによって、攻撃を受ける比率を減らしながら最大限ダメージを与えられる。
それで元の攻撃も俺と大差ないんじゃ、そりゃ俺には勝てないよな。
はぁ、俺って本当に召喚獣のおまけみたいになってるんだなぁ。
ウェイトタイムがあるからまだこんな事言ってられるけど、もし攻撃制限がなかったら……真面目に最強のたこ殴り軍団が生まれるだろう
ウェイトタイムとは、召喚獣やモンスター等のプレイヤー以外のキャラクターに設けられた、その名の通り待ち時間の事だ。
例えば一回攻撃したら、次の攻撃までは1秒行動出来ない。
それが近距離武器、遠距離武器、斧などの一撃のダメージが高いものや短剣などの軽くて素早い武器でもその時間は異なる。
当然スキル使用や魔法だったらより待ち時間は長くなる。と、入った具合だ。
この辺のモンスターは攻撃速度の早い短剣装備のゴブリンや、武器を持てない体当たりや爪によるひっかき等の所謂格闘系の攻撃しかしない動物や虫系のモンスターしか出現しない。
格闘と短剣は設けられるウェイトタイムの中では短い方だそうで、あまり体感はないが。
しかし、召喚獣に関しては2~3秒は確実にある。
速度強化で短くなったみたいだから、実際の所わからないが。
プレイヤーはスキル発動前のこっぱずかしい文言がそれに当たるのかな?
若干以上にショッキングな思いをしながら、索敵後にクロウをアンサモンで戻す。
さて、二人の密談は終わったかな?
「なぁ、シュール。一寸話があるんや」
何だかわからないが、話はまとまったらしい。神妙な顔をした二人。スガタが俺に話しかけてくる。
「何だ? まあ、話があるって言うなら聞くが?」
出来るだけ相手に緊張を与えないように穏やかに返答する。
「あ、ああ……そ、そのな……わい等、シュールに隠してた事があるねん」
失敗だったしい、余計に緊張させたようだ。
「二人の話が先程から何となく耳に入ってたから、何か隠してたのはわかる。ぱっと言って終わりにしよう?」
「そうやな……わい等はな……外道者なんや」
その言葉を俺が反芻するのはもう少し後だった。




