第二十四話
「はい? なんだって?」
予想外に言われた事に思わず聞き返してしまう。
「クエスト、子供を襲う子鬼のクリア報酬ですが、42体のゴブリンを倒した為、3360ゴールドになります。しかし、近隣のゴブリンを統括していたアーマードゴブリンを討伐されたので、報酬は倍の6720ゴールドになります。同時に討伐対象になっていた、アーマードゴブリンを討伐した為、5200ゴールドの追加報酬になります。合わせた報酬は11920ゴールドですが、今回のクエストでシュールさんはクラスが上がってクラスCに昇格になりました。その為報酬が20%アップになる為、合計で14304ゴールドになります」
エリアボス的な奴を倒すと関連する報酬が倍になるなんて、そんなの知らなかったぞ。
しかも、ボス自体にも懸賞金がかかってるなんて。
クエストポイントはかなり高かったみたいだな。一気に2クラスも上がった。
ていうか、何でこんなにやってたのに俺、クラス上がってなかったんだろ?
ま、上がったんだからいいか。
10000ゴールド超えの報酬とは……これなら鑑定が全部出来そうだな。
ほくほく顔で報酬を受け取ると、俺は鑑定のためダンダクール武具工房に向かうことにした。
なんか……気のせいか今日のギルドは随分騒がしかったな。
「いらっしゃいませ、ダンダクール武具工房です……って、シュールさん。いらっしゃいませ、今日はどのようなご用件で?」
なんでこの子いらっしゃいませって二回言ったんだろう?
「ああ。鑑定をお願いしたい」
メニューから未鑑定品を実体化させて受付をやっていたルーナルミナに渡す。
棒状の物が二つに剣が一つ、それに小手に足具だ。
「はい、わかりました。ええと……マジック品質の物が二つに、ノーマル品質の物が二つ、ユニーク品質が一つになりますので、合計で10000ゴールドになりますがよろしいですか?」
「宜しくはないが、規定なら仕方ないよな。安くする方法はあるのか?」
俺の言葉に一寸考えるような仕草を見せるルーナルミナ。
この辺の仕草とかが、ラグナロクがNPCをNPCだと思わせないポイントの一つだと思う。
それにしても内訳はどうなってるんだろう?
ユニークは5000ゴールドだよな? じゃあ、レアは4000? で、マジックは3000……じゃあオーバーするな。2000か? となると、ノーマルは500? それなら金額ぴったりだな。
レアはいくらだろう? 4000か3000か……手に入れてからでいいか。
「あるにはありますが…………まず一つは鍛冶ギルドに入ることです。クエストが武具作成や素材集めがメインになるので、シュールさんにはむいてないと思います。
後は自力で各種鑑定スキルを取得することです。これは狙ってスキルを覚えるのは困難なのでこちらも難しいと思います。
最後は鑑定の巻物を使う事。これならば外でもすぐに未鑑定品の鑑定が行えますが、成功率は低めです。ノーマル品質が80%でマジック品質が60%、レア品質が30%、ユニーク品質が10%程度になります」
まあ、聞いてみただけだしそんなものだよな。
簡単に出来るなら鍛冶屋必要ないしな。
「その巻物はいくらなんだ?」
「一個1000ゴールドになります。こちらを使って鑑定されますか?」
上目づかいでこっちを見るルーナルミナ。
そんな、残念です。みたいな顔されても……。
「そんな無謀な賭けはしないさ。これは取りあえず鑑定を頼む。で、巻物も一応2つ位くれ」
残金4303ゴールドに巻物2個で2000ゴールドだから、2303ゴールドか。
無くなったな一気に。鑑定って高いなぁやっぱり。
でもひょっとしたら、未鑑定品が恒常的に出るようなレベルになったら報酬や使うお金も上がるんだろうか?
「はい、鑑定料10000に鑑定の巻物2個2000ゴールドで12000ゴールド、確かにお預かりします。じゃあ、今鑑定しますから一寸待ってて下さいね」
盛り上がりにかけても困るので、品質がノーマルに近いものから鑑定してもらう事にした。
「じゃあ、まずこの足具ですね……スキル、足具鑑定……」
足具を両手で挟むように構えてスキルを発動させる。
その間で未鑑定品が光に包まれる。
「……なかなか幻想的な光景だな」
足具を包んでいたその光は、徐々に弱くなり俺の視界には皮で編んでいるショートブーツのような物が移っていた。
(言い忘れていたが、未鑑定品は決まった素体が黒く塗りつぶされるように見えない状態で表示される……どんなものでも、剣だったらロングソード、槍だったらスピアの形とかそんな感じだ)
「お待たせしました。これはノーマル品質の革の靴ですね」
「ふむ、大体そんなものか。ルーナルミナ、これを購入する場合はいくら位なんだ?」
鑑定にノーマルは500ゴールドかかっている……筈。
まさか、購入でそんなにする訳は無いと思うが……。
「はい……えっと……うちでは取り扱ってませんが、レイマールさんのお店では、あの……80ゴールド程です……すみません」
物凄く恐縮そうにこちらを見ながら(多分)正直に告げてくるルーナルミナ。
ノーマルの鑑定の利点を知りたいだけで、別に不満から聞いてる訳じゃないんだが……。
「あのっ! 確かに納得出来ない気持ちもわかりますが、これがシーフシューズやアイアンブーツ等だったらレイマールさんのお店にあれば2000ゴールド以上で売られますから、その……そんなに損はしないのではないかと……」
「ああ、別にそんな意味で聞いたんじゃないから気にしなくていい。ただ必要性や可能性を考えて聞いただけだ」
そっか、今回は革の靴だったがノーマルでも500ゴールド以上のアイテムが出る可能性があるのか。
この辺もギャンブルだな。
俺の言葉で比較的冷静を取り戻したルーナルミナ。
俺、そんなにいちゃもんつけそうに見えるか?
「そうでしたか。すみません、取り乱してしまって……シュールさんがそんな事する人だとは思ってなかったのに……私ったら……」
何、その自然な反応。
本当にNPCなんだよね?
「あ、ああ。勿論じゃないか。鑑定だって今日が初めてなんだ。知らない事だらけだから……不安にさせたなら謝ろう」
「いえいえ、私が早合点してしまったせいですから、私こそすみませんでした」
皮の靴を受け取って装備しながら、俺達は互いに謝罪を続けていた。
本当にこいつは……。
因みにこの調子でどんどん鑑定してもらい(こんなよ様子でどんどんテキパキ行うのが困難なのはわかってるよ……察してくれ)、もう一つのノーマルの棒は木の杖だった。
「じゃあ、次はマジックアイテムだな」
「はい、今まではまだシュールさんのご期待に添えるようなものは鑑定出来てないので、ここからはもっと頑張りますね」
いや、君が頑張っても中身は変わらないだろう?
むしろ変わるのか? ならいくらでも気合い入れてくれ。別にもっと早く本気出せ、とかなめんなとかそんな事は決して言わないから。
「まあ、私が頑張っても内容が変わることはないんですけどね……じゃあ、棒から行きますね」
まさかの即暴露とは……こいつ、中々侮れん。
「スキル発動……武器、棒鑑定……」
今までの未鑑定品と同じ様に、光に包まれる棒。
鑑定スキルってそんなに詳細に別れてるのか……これは取得してどうとか言うのは無理だな。
先程の木の棒もそうだったんだが、サイズの大きな未鑑定品もちゃんと全部が覆える位に光が広がる。芸が細かいよな。
「はい、わかりました。これはの「子鬼の」木の杖ですね」
「子鬼? なんだそりゃ? 何の効果なんだ?」
木の杖はわかるけど……子鬼ってゴブリンの事だよな。
ゴブリンの杖って事か。確かにゴブリンからドロップしたけど。
「はい。子鬼の木の杖の効果はHP+2、追加攻撃力+1、知力-3です。武具に付加される聖なる言葉は、決まった値ではないのでこれが「子鬼」の決定値ではありませんが……」
ええと、つまりつく数字は振り幅があるって事か?
今回で言うなら、HPや攻撃力は多少の増減はあるけど+になる。
逆に-の知力も増減する? 流石に-が+になる事は無いだろうけど……。
「そうか、わかった。ここでの販売価格と却価格を教えてくれるか?」
「はい。ええと……子鬼の木の杖は私達の所では一般的なな販売は行ってませんね。買取額は1500ゴールドになります」
結構高いな。鑑定額からすれば赤字だが。
それにしても売ってないのか。そう言えばマリアがマジックアイテムはNPCが販売してないとか言ってた気がするな。
「じゃあ、メルクリウスをくれたは?」
「あの、販売しないって言うのは、店舗では売りませんって事です。私がシュールさんやマリアさんに武器を作らせてもらったみたいに、個人的にやる分には別ですよ」
なる程、こんな裏技があったのか。
確かに俺やマリアがルーナルミナからもらったのは、NPCが売らないはずのユニークの武器だ。
これは知らないプレイヤーは大分損だな。
「そうか、じゃあ俺やマリアはルーナルミナに感謝しないとな。もう、足を向けて眠れないな」
「そんな……私の方こそ恩返しの意味でやらせてもらったのに、お金はとってるし、材料をお願いしたいしてるし、果てには私達武具職人の夢である武具に命を吹き込んでもらったりで……私達こそ足を向けて眠れませんよ」
細かいことを言うようだが、固定の就寝場所を持つNPCは、昼夜問わず動き回るプレイヤーに足を向けないように寝るのは無理だろうに……なんて言ったら風情がないし、雰囲気ぶち壊しだよな。
空気を読める俺、がんばってる。
で、どうなったかというと、ここでまた、互い相手に感謝を伝えまくるオレワタシ詐欺が始まったのだ。
因みに、もう一つのマジックの小手は「大地の」小手。
体力+1、運+1の効果だった。
これで、残すはアーマードゴブリンの落としたユニークの長剣を残すのみとなった。
さてさて、どうなることやら?




