第十九話
ここはダンダクール武具工房。
そこで俺は、何故かサモン系のスキルになってしまったルーナルミナの作ったユニークの片手剣、メルクリウスについて聞きに来ていた。
「……と、言うことがあったんだが?」
「そうですか……そんな短期間で私達の……シュールさん。有り難うございます」
話しを聞き終えた途端に、俺に頭を下げてくるルーナルミナ。
これはまた何でだ? そんな事される謂われはないが? そもそも、理由を聞きに来ただけなのに一体どういう事だ?
「何を頭を下げる? 俺には訳がわからないが?」
「ああ、ごめんなさい。そうですよね。初めから説明しますね」
そう言って、俺をカウンターの中のテーブルに案内する。
これも新たなクエストだろうか? 等と考えながら言われるがままに席に着く。
「どうぞ、ダージリンです」
「紅茶があるのか……んん……う、美味いな」
実は昔から紅茶は苦手……だが、状況的に断りにくい為無理をする。
無理やり飲んでるから、バットステータスとかになってないかな?
……知力上がってるし……マジか?
「じゃあ、シュールさんが私達鍛冶職人の夢を叶えてくれた剣についてですが……」
「待て、先程の話で何故鍛冶職人全体の、しかもそんな大それた話に飛躍する?」
「私達鍛冶職人は、武器を打つ時に魂を込めます。つまり、自分の作品は子に等しいんです。そんな自分の子が、意思を持って精霊になれたなんて言われたら……私……私達にとってこれ以上の喜びはありません」
なる程、細かく情報収集してるんだな。確かにそんな話も聞くな。
それにしても、召喚獣って精霊なんだ。初めて知った。
「それで、今日もらったばかりの剣がその精霊化をしたのは何故だ?」
「それは……余程シュールさんとの波長があったのか、シュールさんに才能があったのか……あの、今メルクリウスを出す事は可能ですか?」
そんな事ならおやすいご用だ。
「契約に基づき我は汝を召喚する、サモンメルクリウス! メルクリウス、ここに……はい、ルーナルミナ」
呼び出したメルクリウスを俺の手に降ろすと、そのままルーナルミナに手渡す。
よかった、言う事聞く奴で。クロウだったはまず無理だろうな。
「有り難うございます、では失礼して……ふむふむ……なる程……これは……」
没頭してしまった。時間かかるのか? 俺はどうしようかな?
そして、待つ事10分。リアル10分って、待たせすぎだろ?
「お待たせしました。原因が分かりました」
「……原因までわかったなら、待たせてない方なのか? で、何だったんだ?」
「シュールさん。シュールさんは精霊を感じる事の出来るスキルをお持ちですよね?」
はい? そんなのあったか?
「あるはずです。でなければ、メルクリウスがこんなに経験をつめるはずはないんですから」
「経験を積む? 剣がか?」
「はい、武器を理解して使用するのと、ただ安穏と武器を振るうのでは、その熟練に天と地ほどの差があります。そして、それを感じられるのはスキルだけですから」
原因は通常より武器熟練がつめていたと言う事か。で、それが何故かと言うと、俺の中にその精霊を感じるスキルがあるはずだから、と。
「サモニングと言う、召喚術を使えるがそれの事か?」
「それです! そのスキルは精霊を見る事が出来る筈です! 見た事無いですか?」
見た事って……そんなのいたか? さっきでいうならよくわからない白いの位しか……。
「だから、それですよ! 精霊には特定の姿はない者もいるって聞きます。生まれたばかりの剣の精霊なら姿は無いと思います」
じゃあ、ゴブリンにかけたつもりのサモニングが、偶然あれにかかったのか?
「クエストで連続してモンスターを退治したことで、更にメルクリウスの精霊化を促した、ってことか」
改めてルーナルミナが俺に頭を下げる。そして、頭上にクエスト表示……クエスト、剣を統べるもの1、をクリアしました……と、ある。
クエスト受諾してたのか? 一体いつの間に……全然気がつかなかった。
クリア報酬として、スキル、複製を手に入れました。
複製? コピーの事か?
「そうです。魔力を使って真に近い偽を生み出すスキルです。私は目にした武具を忘れないように手元に起きたかったから覚えたんですけど、皆からは笑われました」
「それは何故? 姿形だけなら十分役割を果たすことが出来るだろうに」
「いえ、駄目だったんです。複製の効果時間は10秒……レベルを上げればわかりませんが、そもそも冒険をしない私はスキルの経験を上げることは出来ませんでしたから……モンスターと戦う機会の多いシュールさんなら、私よりもこのスキルを生かしてくれる筈です」
まあ、ルーナルミナに比べれば俺はプレイヤーだからな。
しかし、10秒で消滅するのか。じゃあ、使い方としてはメルクリウスを複製して投擲するとかか?
「まあいい、俺に任せておけ。必ずこのスキル複製を役に立ててみせる。有り難う、ルーナルミナ」
「はい、その方がスキルも喜びますから……」
スキルは取得後、強さや数値が全て最低の状態になっている。
近距離専用魔法になってるライトボールのように。
きっと、色々問題はあるだろうが多分に俺の助けになるはず。
「シュールさん。私達の夢を叶えてくれて有り難う御座いました。まだまだ未熟ですが、もし宜しければまたシュールさん達の武器を作らせて下さい」
「ああ、その時はよろしく頼む」
返してもらったメルクリウスをアンサモニングで何処かに送り返して、俺はダンダクール武具工房を後にした。
とりあえず今日は寝よう。
今日の夜のことがあったので、俺はよくプレイヤーがログアウトする場所、ギルド前でログアウトした。