第十四話
「待て、マリア、なんだか様子がおかしい」
「……後でね。で、何なの?」
マリアからは俺への怒りで、すっかり今までの戦闘の記憶は抜け落ちているらしい。
今、衝撃波がゴーストを攻撃したのはスケルトンの攻撃はミスか? それとも……。
「わ、また来たよ……」
「来るか……?」
今のはミスか? それとも……。
「ルウウウゥウゥゥゥ!!」
「……やはり」
「え? どういうことなの?」
放たれる衝撃波。
今回は全く俺達から狙いは逸れており、後方にいるゴーストに目掛けて飛んでいく。
そして、当たる。
どう見ても俺達が対象じゃなった。
なら、このスケルトンは……。
これで、ある程度の予測は立つな。
「少なくとも、ゴーストの敵か。そのまま抜けるぞ」
「え? え? ちょ、一寸!?」
マリアの手を引いて、そのままスケルトンの脇を走り抜ける。
やはり、俺達には全く注意を払わない。
スケルトンは両手でアイアンソードを握ると、骨身とは思えない速さで振り下ろす。
「ダメージ入ってる……」
「特殊なスケルトンなんだろうな」
ゴーストのいる墓石の前に座りこんでいたんだ。戦闘してる所を見ると仲間ではない。
ゴーストから何かを手に入れようとしてた冒険者か? あり得なくないけど弱いな。
じゃあ、敵対してた? かもしれない。自分がいる事で封をしてた?
スケルトンの起動条件は? ゴーストからの逃亡? いや、そんな簡単なことか? もしくは……ゴーストの残HPか? 俺達で考えるなら50%以下か。
今は俺達の味方だと考えよう。折角、ゴーストを倒せそうなんだ。
「このままでも、倒せそうだね」
「だなぁ、威力高い……」
ガンガンゴーストのHPを減らすスケルトン。このままなら見てるだけでも十分戦闘が終わりそうだ……なんか、攻撃毎にスケルトンもガンガンHP減ってないか?
「自傷行為?」
「その言い方だと社会風刺みたいだな。攻撃時だけみたいだから、例えば、攻撃力アップの代わりにダメージの何%を自身が受けるスキルでも持っているのかもしれない」
よく見ると両方共ガンガンHP減ってる。
何で気がつかなかったんだろうか?
しかし、残HPが半分しかないゴーストより、攻撃を受けながら自身のダメージも受ける立場のスケルトンの方が分が悪そうだ。
つまり、このままじゃ負けるって事だ。
「……サモンクロウ。差は僅かだ。一匹だってまだマシな筈」
「僕は結局やる事ないんだね……」
スケルトンやクロウにディフェンスの効果は及ばないし、自信で対処出来る敵じゃないから挑発の意味もない。
まあ、俺に延々とディフェンスかけてスキル上げすればいいんじゃないか?
実際にやる事のないマリアだった。
普通にスキルを取得してるマリアがこうなんだから、戦士系のスキルを取得してるプレイヤーはクリア不可能だよな。
本当に序盤のクエストなんだろうか?
アイアンソードを振るい続け、ダメージを自身も受け続けるスケルトン。
両手を振り回すようにスケルトンを殴り続けるゴースト。
どちらのHPも残りほんの僅かまで減った。
「クロウ三匹も余り効果が出てないな。一回でのHPのやり取りが多すぎる」
「見て、ゴーストの動きが止まったよ!」
マリアの言葉通りに、どつきあいに精を出していたゴーストの動きが止まる。
「仕様か? もしくはこの状況でフリーズ?」
「あれ? スケルトンの攻撃、ダメージ無くなってない?」
本当だ。今までと同じようにアイアンソードを振ってるのにゲージが減らなくなった。
無敵になった? いや、そんな撃破出来ないような仕様はないか。ならなんだ?
「何かスキルを使うのかも! 一旦離れよう、シュール!」
「おい、引っ張るな、自分で歩ける」
急に俺の手を掴み駆け出すマリア。
転ぶっての、全く……しかし、スキル発動の為の硬直か……有り得る。
「ルウウウゥウゥゥゥ!!!!」
「わ、来たよ! ほら、シュール、早く!」
「あれは墓石で起こった爆発か? ゴーストのスキルだったのか。広範囲だな」
起こったのは大爆発。既に距離を取っていた俺達は無事だったが、スケルトンとクロウはまともに爆発を受ける。
巻き起こる土煙。それにしても罰当たりだな。お墓がボコボコだぞ? それに戦隊物とかこういった場面や変身シーンで攻撃出来れば、怪人もヒーローに勝てるだろうに……契約でも交わしてるのかね?
被害が無かった為、俺は土煙を見ながらそんな事を考えていた。
「どう? まだいる?」
「さあ? いくら俺でも、まだ見えないから」
マリアは俺が超人か何かだと思ってるんだろな。ただの凡人だっての。
「偵察くらいはするか? 契約に基づき、我は汝を召喚する。サモンクロウ」
スキルの効果で現れたクロウは、迷う事なく土煙を直進する。
「いたようだぞ?」
「……そうだね」
完全な索敵をしてくれるのか? なら、もし今後も数が増えて攻撃力が無くなっても、使用価値があるかもしれないな。
「ルウウアウアウアウウウウウ!!!!」
「何!? 何なの!」
「残量を考えると……終わったか?」
徐々に土煙がはれてくる。
視認出来るくらい煙が無くなると、そこにはぐるぐる回りながらだんだん細くなり消えていくゴーストの姿があった。
「……実感ないんだが、これがサマナーの戦い方か?」
「そんなこと言ったら、僕なんて本当に何もしてないよ」
そして、姿は消える。俺達はレベルアップの光に包まれた。
「レベルも上がったのか。ひょっとして、俺達のような低レベルが受けるクエストじゃなかったんだろうか?」
「そうかも。敵の強さもだけど、ボスは反則すぎるよ」
まさか無効が出てくるとは思わないよな。
ボスであるゴーストを倒した(してくれた)からか、周囲のモンスターも全くポップする様子はない。
気が抜けた俺達は、のんびりレベルアップで手に入ったポイントを振っていた。