第十話
「有り難う御座いました。ストーンイーター16匹にラビット8匹、ビー11匹なんかに襲われるなんて……私一人じゃ帰ることは出来ませんでした」
「集計してたのか……ひょっとして報酬に関係あるのか?」
「だといいね。僕はレベルもスキルレベルも上がったからもう満足だよ。それにしても、ラグナロクのNPCはNPCらしくないよね。町にくる間も、本当のプレイヤーと話してるみたいだったし」
新たな町ミカール。そこに辿り着く過程で助けたNPCルーナルミナ。彼女の願い(クエスト)で町まで護衛することになった俺達。
レベル上げも兼ねて、出会った敵全てを倒してきた結果、出会ってから町まで15分も無かったのにルーナルミナが言っただけのモンスターを滅した。
多すぎだと言いたい。
俺もマリアもレベルが5に上がった。俺はMPを増やす事を目下の目的に、騎士を目指すマリアは体力をメインにポイントを振った。
素早さが売りのホビットがパーティーの盾となる騎士……確かに珍しいな。
しかし、敏捷性を持った守り手……考えてみれば結構強いかもしれない。
俺はステータスが段々、遠距離型の魔法使いみたいになってきてるし……ライトボール、早く射程距離増えないかな? 紙装甲を地で行ってるんだが。
「私、大したお礼も出来なくて……せめてもの感謝の気持ちです。受け取ってください」
「275ゴールドか。これは少ないのか?」
「僕も275ゴールドだ。報酬は折半なんだろうね」
だろうな。名も無き村では、一個2ゴールドの薬草しか買う物がなかったから全く持ってピンとこないな。
これで、ゲーム開始から持っていた100ゴールドの残金、94ゴールドを足して369ゴールドになったな。
問題は武器防具がいくらかって事だな。
「あの、シュールさんもマリアさんも、暇なときに何時でも工房にきてください。私は何時でもいるので、お待ちしてます」
「ああ、俺達の武器を作ってくれるのを楽しみにしてる」
「楽しかったよ、またね、ルーナルミナ」
立ち去るルーナルミナ。頭上にクエストの完了通知がくる。
クエスト、新米鍛冶を守れ、をクリアしました。クリア報酬として、275ゴールドとダンダクール武具工房の20%割引券を取得しました。
「割引券……シュール、なんか僕商店街にいるみたいなんだけど……」
「まあ、即座に活用するんだからいいだろ? ファンタジーの風情なんか捨てることだ」
クエストを終えた俺達は、そんな事を考えながら初めての町、ミカールに脚を踏み入れた。
「ほわぁぁあ、凄いね。こんなにプレイヤーがいるんだ?」
「曲がりなりにも世界一のMMOだしな……俺からしたら、こんなのうるさくてかなわん」
町を一歩入った俺達が見たのは……プレイヤー達の飛び交う怒号だった。
「クエスト、水晶球の涙やります! 3/6です! 補助系スキル持ってる方、ツルギまでテルお願いします!」
「ライオンの毛皮持っている人、2000ゴールドで売って下さい!!」
「ギルド、砂漠の砂、入団募集中です! 初心者歓迎、テル待ってます!」
等と等と……人はうじゃうじゃしてるし、皆叫んでるし……MMOじゃよく見る光景かもしれんが、この俺達の状況からしたら邪魔でしかない。
「どうする? ログアウトするか?」
「なんで、諦めてるの!? きっとうるさくない場所あるよ! 一緒に捜そう?」
イラつきのボルテージが最高潮になりそうになった時、マリアがタイミング良く俺の手を掴んで移動してくれた。
「とりあえずダンダクール武具工房を目指そう? ルーナルミナならきっとこの町のこと教えてくれるし」
「ああ……それいいな。あんなに五月蠅いくらいなら、まだ、錬鉄のせいで凄く熱い方がいい」
体力の差か、綺麗に引きずられる俺。
洋風のモダンな建物が並ぶ町中を、地図もない状態で俺達(マリアと引きずられる俺)は歩き出した。
「マリアは第六感……シックスセンスを信じるか?」
「あ、元に戻ったんだ……何の事? どうしたの急に?」
なんかおかしな事を言うマリア。俺は別におかしくない。
「マリアがわかってたのはダンダクール武具工房の名前だけだろ?」
「ふふん、そうだよ。うんうん」
どや顔か……女性プレイヤーじゃなかったら、ぶん殴ってやるのに。
「何故、それだけの情報……じゃないな。勘だけで辿り着くんだ! 世の中の哲学者を馬鹿にしてるのか!?」
「まあまあ落ち着いて。着いちゃったものは仕方ないじゃん。とりあえず入ろうよ」
納得がいかない。
でも、確かに店の目の前で騒ぐのは、ラグナロクのNPCならマイナスに作用しかねない。
中にもしプレイヤーがいたら、それだって注目される。
本当に納得がいかなかったが、しぶしぶ俺はマリアに続いてダンダクール武具工房のドアを開いた。
「こんにちわぁ。って、熱いよ。シュール、ここ熱いよ」
「同じ事を何度も言わなくてもわかってる。基本ここは店じゃなくて工房だ。釜がある分当然熱いだろうさ。むしろ、きちんと販売用の店舗スペースがあるだけ大した物だ」
ダンダクール武具工房の中は、様々な鎧や剣が立てかけてあり、入り口すぐでプレイヤーに販売する用の店舗としているようだった。
今は誰もいないみたいで俺にとっては丁度いい。
「はい! いらっしゃいませ! ダンダクール武具工房にようこそ! って、シュールさんとマリアさんじゃないですか!?」
「こんにちわ、ルーナルミナ。早速来ちゃった」
早すぎる再会に、ルーナルミナはなによりも先に、その表情には驚きしか無かった。
つくづくNPCらしくないな、ラグナロクのNPCは。