fall down
もう嫌だ。何もかも、もう嫌になった。
・・・これで冷たい雨が降っていて、凍えるような寒い夜なら、私のこのワンシーンはドラマの一場面(しかもなかなか重要なシーン)で活用されてもおかしくはないだろう。
私は今、自宅のアパートのベランダから飛び降りようとしている。勿論、死ぬために。
残念ながらもう日は昇っていて、朝露に光が反射してキラキラと景色を彩っている。とても自殺の現場には似合わない。(後々冷静に考えてみると、私の部屋は2階で、飛び降り自殺をするにはあまり適していなかった。不覚。)
低すぎる私の死に場所から、精一杯背伸びして街を見渡す。山手を無理矢理開発して造られた、いわゆるニュータウンのこの街は、特に目立った高層ビルなんてものは無く、全てが静かに佇んでいる。
地元から遠く離れた大学に通うために1年半ほど前にここに引っ越してきて以来、私はここから街を眺めるのが好きだった。街全体が山手の斜面に造られていて、私の借りているアパートはその最上部にあたるので、2階からでもいい眺めが望めるのだ。
このニュータウンのコンセプトが「緑あるまち」ということもあり、今の季節はあちこちに紅葉で赤や黄色に染まった木々も見えて、素人の油絵にでもありそうな風景なのである。・・・静かすぎて、本当に絵みたいだ。
左手首につけているお気に入りの腕時計は、午前5時を示している。もう暫くすれば、少しずつ街は動き出すだろう。
ふと涙が零れた。そうだ、この時計も外さなければ。
できれば、死ぬ瞬間は誰にも見られたくないな。最後の最後に、なぜ恥を晒さなければならないのよ。死体になってしまえば、傷口を弄られよう
が写真を撮られようがどうでもいい。だって死体ということは、私の精神はその体とは別物になっているんだし。
べつに、死んだら天国や地獄に行く、というのを信じているわけではない。失礼かもしれないが、思考を持たなくなった時点で死体はものになると思っている。自分自身に対してもそう。だからきちんと死ぬまで誰にも見られたくない。