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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

ベータがアルファを飼ってる話

作者: ちょっかく
掲載日:2025/12/31

宮間千里はとても優秀なアルファ、らしい。

なんでもフェロモンを発しただけで周囲のオメガを孕ませることができるとか、威嚇(Glareというらしい)だけで半径数メートルにいる人間を全員不能にできるとか、精子に億の価値がつくとか、真偽不明のなんだかすごそうなステータスをたくさん抱えた男、それが宮間千里。


「まぁ、たしかにガタイがいいのは『強いオス』って感じするかもな」

そんなすごいアルファのフェロモンもGlareも感じないベータの俺、並河友章は、自身を抱きすくめるガタイのいい腕を軽く叩いて振り返った。

千里は今、俺の背もたれになっている。


------

俺が千里を飼い始めたのは第二性の診断がくだるずっと前、小学1年生のとき。

幼い頃から容姿は整っていたものの、今より線が細く小柄で引っ込み思案だった千里は女から奪い合いの対象とされ、男からはやっかみの対象とされていた。

一方、そのころ俺は動物もののバラエティ番組にハマっていた。人間に虐げられて傷ついた動物に手を差し伸べ、心を通わせ、幸せに暮らす。そんなドラマに強く憧れていた俺にとって、教室の隅で小さくなっているふわふわの美少年は都合の良すぎる対象だった。


「やめろよ、千里が怖がってるだろ」

そう言ってクラスメイトと千里の間に立つ己のなんと誇らしかったことか。

空気の読めない勘違い男に向けられた鋭い視線をよそに、脳内ではバラエティ番組で聴いた感動的なBGMが爆音で流れていた。

「並河くん……!」

千里はそんな勘違い男の勇姿に感動を覚えたらしい。


俺も子供だったが、千里も子供だったのだ。


------

あれから10年以上経ち、現在大学1年生。

小さくてふわふわでかわいい千里は筋肉質でゴツゴツしたイケメン男に成長し、俺も動物もののバラエティ番組に対してやらせを疑える程度には大人になった。

だけど2人の関係性はあの時のまま。

中学、高校、大学と進学をしてなお千里は俺のペットで俺は千里の飼い主だ。


アルファとベータ。一時、圧倒的な地頭の違いから別の学校に進学する可能性も浮上していた。しかし、「飼い主なのに俺を捨てるのか」という千里の懇願に抗うことができず、猛勉強の日々を経て今に至る。

ここまできたら徹底してこの顔の良いアルファの飼い主を貫いてやろうという腹づもりである。


そんなベータの俺とアルファの千里は今、お見合いのために待ち合わせをしている。

場所はとある高級ホテルの応接室。

アルファやオメガの界隈には、発情期のオメガとアルファでお見合いをさせて相性が良ければそのまま部屋に入って交配、という文化があるらしい。

ベータの俺には想像もつかない世界だが、とても優秀なアルファの飼い主としてお見合いのセッティングは果たすべき役割の1つである。


ちなみに千里が18歳の誕生日を迎えた直後から始まったお見合いラッシュは過去9回やって全て不成立。

千里はデカくなっても引っ込み思案なところがあり、初対面のオメガを怖がってしまうのだ。中には回数を重ねて慣れさせていけば良いと言ってくれる人もいるが、交流が続いたことは一度もない。

今回で10回目。優秀なアルファの遺伝子を後世に遺すべく色んな大人が走り回ってお見合い相手を見繕ったと聞いている。


「相性の良い子が見つかるといいな」

大きな体に背中を預けて呟いた。

お見合いの時、怖がりな千里はいつも俺の背後に隠れようとする。

だけどお見合いの主役はアルファとオメガ。主役がソファに座らないのはおかしいので、ソファに座る千里の間に俺が座ることでどうにか体裁を保っている。

平均身長程度はある男の俺を包み込めるいいサイズ感だ。


「千里、お手」

簡単な指示を出すと、千里はそっと右手を重ねてくる。今日も俺のペットは優秀だ。

「こんなに良い子なのになんでお見合いうまくいかないんだろうな〜」

握られていない左手で髪を撫でると、もっとと撫でろと言わんばかりに肩へ頭を押し付けてきた。

「友章は、俺にオメガを抱いてほしいの?」

「え、いやどうだろうな」

アルファにはそういう文化があると聞いていたからお見合いをセッティングしているだけで、俺がどう思うかなんて考えたこともなかったな。


アルファはオメガと違って発情期はないから番がいなくて困ることもないというし、相性が合わないなら無理にオメガを抱くことはない、と思う。

でもまぁ、

「千里の子供がいたらかわいいんだろうな〜とは思うかも」

「……ふーん」

千里は生返事を一つして俺の手で遊び始めた。指の股を撫でる動きが少しくすぐったい。思わず指を跳ねさせると、肩口から満足そうに喉を鳴らす声が聞こえてきた。そのまま指を絡めて強く手を握られる。

やはり緊張しているのかもしれない。飼い主の俺がしっかりしなくては。


それから数分後、待ち合わせ時間ピッタリに応接室の扉が開く。

「知らない男に抱かれるなんて絶対に嫌だ!」

「そう言わずに。会ってみたら考えが変わるかもしれないじゃないか」


恰幅のいい壮年の男性に腕を引かれて俺たちと同い年くらいの青年が入ってきた。顔を赤く染めて俯いている。きっと彼が今回のお見合い相手なのだろう。

背格好は成人男性の平均程度で、紅潮した顔は整っているもののオメガにしては男らしい顔付き。


「いかがでしょう。今回は宮間様の好みに合わせたオメガを用意しました」

頑なにこちらへ目を向けない青年を無視して壮年は話を進める。

オメガ側にも色々あるんだろう。

「ほら、君も早く挨拶をしなさい」

青年は千里の前に立たされ(間には俺がいるわけだが)、意を決したように顔を上げる。そして目を見開いた。

「あ、あぁ……俺の運命……!」

嫌そうな顔が一点。恍惚とした表情でその場に崩れ落ちる。


運命。オメガとアルファが本能で惹かれ合う現象。人生の中で運命に出会える確率はとても低く、その代わり運命に出会えれば至上の幸福を得られるとか、互いのフェロモンに病みつきになってしまうとか。


顔を見ただけなのに青年は息を荒げ、股座はテントを張っている。ベータの俺には何も感じられないが、今この部屋にはオメガの濃厚なフェロモンが充満しているのだろう。

これはいよいよお見合い成立か?

「千里はどうだ?仲良くなれそう?」

いまだ俺の後ろに隠れようとしている人見知りのペットに努めて優しく声をかける。

「やだ、無理」

「え」

千里の答えは呆気なかった。

部屋が静まり返る。


「俺、出会ってすぐちんこおっ勃ててるような男と仲良くなりたくない」

不満そうにそう告げると、また俺の肩に顔を埋めてしまった。

千里の言い分も一理ある。

残念だが今回もお見合い失敗だ。

「申し訳ないですけど今日は千里がこう言っているので。あの、よろしければまた落ち着いた頃に改めてお話でもーー」

10回目にもなるとこちらも断り慣れてくる。

いつも通り穏便にコトを終わらせようとしたのだが、相手は納得していなかった。

「そんなわけない!あなたは俺の運命だ!」

そう言って青年はこちらに手を伸ばす。

アルファを求めるオメガのドロドロした眼差し、実はちょっと苦手なんだよな。


「なぁ、早く頸を噛んで番にしてくれよ」

どうしようかと考えていると、俺は思いのほか力強い青年に引き剥がされ、ソファの下に投げ捨てられた。

青年と千里が直接対峙する。

これはまずいかもしれない。

「お前、友章から俺を取り上げるつもり?」

千里が地を這うような声で告げる。室温が5度くらい下がった気がした。


自分で言うのもなんだが千里は俺のことが大好きだ。

だから親しくない人間に俺を取られそうになるといつも不安定になってしまう。

千里は立ち上がり、無感情に青年を見下ろした。

「お前が俺の運命なわけないだろ」

「ひっ…………」

運命の相手からの明確な拒絶。

青年は顔を真っ白にしてその場に蹲ってしまった。先ほどまでの濡れた吐息とは違う、苦しそうな喘鳴が部屋にこだまする。


部外者の俺ですら憐憫を抱く光景を無視して千里は壮年の男性に狙いを向けた。

「お前も、お前を雇っている奴も、これ以上俺と友章の時間を奪おうとするなら容赦しない」

優秀なアルファによる本気のGlare。ベータの俺ですら息苦しさを感じるほどの圧力。

にこやかだった壮年も顔を赤らめていた青年もすっかり戦意喪失して震えるばかり。

次の予定も立ちそうにない。


「こら、怖がってるだろ。そんなに威嚇するな」

肩をポンと叩いて千里を宥める。

「だって、こいつらが友章を取ろうとするから」

「もう反省してるだろうから大丈夫だよ。ーー今日のお見合いは終わりでいいですよね?」

念のため振り返って聞いてみると壮年がわずかに首肯するのが見えた。

「な?だから今日はもう終わり。早く帰ろう」

高い位置にある髪を一撫でして手を繋ぐ。それで少しは機嫌が上向いたのか、俺が扉の方に向かえば大人しく着いてきてくれる。

俺たちはお見合い会場を後にした。


------

ホテルの階段を降りていると、踊り場で突然腕を引かれた。

「千里?どうし……んぅっ」

背を壁に押し付けられ、口を奪われる。

じゅる、ぐちゅ、と大きな舌で口腔内を食い荒らされる感覚。呼吸ごと食らい尽くそうとする勢いに飲まれて意識がぼやけていく。

しかし周囲に人の気配はないとはいえ、ここはホテルの階段。飼い主の矜持で冷静さを取り戻し、千里の胸を押す。

「はぁ……っ、こら、ここホテルの中だぞ」 

千里は納得のいっていない顔をしている。

「俺、お見合い嫌なのにがんばったんだけど」

そう言ってまた大きな舌で俺の唇をひと舐め。

「好きでもないオメガのフェロモン嗅がされて、好きなもの奪われそうになって、でも友章がダメって言うからあいつらのこと許してあげたんだ」

いつの間にか千里がホテルのルームキーを持っていることに気づいた。きっとお見合いでもしもがあった時のために事前に渡されていたのだろう。

運命のオメガに見向きもしなかった優秀なアルファが蕩けた目で囁きかけてくる。

「良い子な俺にご褒美くれるよね?」


千里はペットで俺は飼い主。

ペットが褒美を強請るなら、与えてやるのが俺の義務だ。

たしかに今日の千里はすごく良い子で、とてもがんばっていたと思う。

後のことはひとしきり千里を甘やかしてから考えよう。

そう頭を切り替え、俺は了承の意を込めて鼻先へキスを落とした。




------

宮間千里はとても優秀なアルファ、らしい。

フェロモンを浴びただけで孕んだとか、お前のせいで不能になってしまったとか、精子に億の価値があるとか、そういうことを言われて育ってきた。


だけど、そんな優秀なステータスは全てアルファとオメガの世界でしか通用しない。


俺の飼い主である並河友章はベータである。

ベータの友章は俺のフェロモンやGlareを浴びても何も感じない、俺の優秀なアルファ性が何の意味も成さない人物だ。


友章との出会いは小学1年生の時。

容姿の良さから嫌でも浴びせられる羨望や妬み。そういったものが嫌で教室で縮こまっていた俺に対し、友章が手を差し伸べてくれた。


運命だと思った。


友章は若気の至りと言っていたがそんなことはどうでもいい。

たしかにあの日、あの場所で差し出された暖かな手に俺は救われ、恋に落ちたのだ。


運命の出会いから十数年。

第二性が発現し、優秀なアルファとして成長した俺のことを友章はまだかわいがってくれている。


一つ誤算があるとすれば、友章がアルファやオメガのことをベータとは違う世界の生き物と認識してしまっていること。

アルファである以前に人間の男として意識してほしい。そう思ったことがないと言えば嘘になる。

だけど別の世界の生き物として愛玩されることに悦びを覚えていることも事実で。


第二性に振り回される哀れな生き物であれば友章がかわいがってくれる。

体が大きくなっても、どんなに立派な肩書きが増えても、教室の隅で縮こまっていた頃の姿を見せれば友章がかわいがってくれる。

優しくて愚かな友章は可哀想なアルファを捨てられない。

だから今は、それで満足することにした。


18歳を超えると、友章が俺にはお見合いを勧めてくるようになった。

発情したオメガとアルファを交配させるためにセッティングされた獣の行為。


俺は友章の体内でしか精子を出したいと思わないのだけど、友章が飼い主の自覚を持ってセッティングしてくれるのであれば参加くらいはしてやってもいいと思っていた。


だけど友章が「俺の子供もかわいいだろう」なんて言うから、俺は早急にお見合いをやめることにした。

俺以外の人間をかわいがるなんて想像だけでも許せない。

怒りに任せて強めのGlareを発してしまったが、結果的に牽制になって良かっただろう。


賢くて従順な俺は褒美を強請る。

優しい飼い主はそんな俺を邪険にできない。


純粋で、優しくて、愚かな俺の飼い主。

アルファ性の奥に隠れた人間の欲を見つけた時、お前はどんな顔をするのだろう。


早く自覚を持って人間の俺に抱かれるお前が見たいけれど、今はまだ、かわいくて哀れなペットとして。

もうすぐ差し出されるご褒美を前に、俺は唾液を飲み込むのだった。

身内企画用

イカれてる攻め×無自覚にイカれてる受けが好き。

執着×無愛想がお題でしたがこの受けは無愛想じゃなくて思考停止ですね。

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