国一番の才女を妻としたものを、次の王とする
第一王子から第二十王子。一代の王の子にしてはいささか数の多い王子が生まれたこの国には、一人の才女がいた。
0歳で言語を不自由なく操り、一歳では三ヶ国語を、二歳では五ヶ国語となり、三歳で新しい発明をいくつか生み出し、四歳で気難しいと有名な大国の帝王と親交を深めた。五歳で商会を開き、六歳でもう教えることはないと各科目の家庭教師(それも各学問における最優秀な学者陣)に言わしめた。
そんな少女の才能を見て、国王は言った。
二十人いる王子のうち、誰か一人この少女を妻とした者を次期王とする。
「わたくし、新しい魔術を考えていて、王子様と結婚する時間なんてないの」
そう言いながら、天才と言われる少女メソポタリアは様々な魔法陣を書き出していた。メソポタリアの実家の侯爵家は元々豊かで、彼女の学習欲や才能を支えることのできる財力がある。特に王家の支えなど不要なメソポタリアは、王妃教育にとられた時間を取り戻そうと、忙しい日々を過ごしていたのだった。
「君と友好を深めたいと思っている」
順当にいけば、次期国王であったはずの、国王と王妃の息子、第一王子は慌ててメソポタリアに会いにやってきた。
「あなた、婚約者がいたじゃない。王妃の定めた公爵令嬢だっけ?」
メソポタリアの反応に、顔を顰めた第一王子が、それを取り繕おうともせず、返答した。
「私は王になるために生まれた。ならば、彼女を婚約者にすることはできない」
そんな王子の言葉に興味などなさそうに魔法陣を書き上げたメソポタリアは、机の上のものを床に落として魔法陣を広げた。
「ここも問題ないし、ここも大丈夫」
「聞いているのか!?」
そう叫んだ王子に向かって、一枚の紙を差し出した。
「私、あなたの治める国には住みたくないわ」
その紙に第一王子が目を落とすと、ギョッと目を開いた。第一王子の入れ込んだ男爵令嬢との艶聞から、婚約者の公爵令嬢に冤罪を着せて人々の前で貶める計画の詳細な内容が書かれていた。
「いらないけど、ついでにこれあげるから帰って」
男爵令嬢が他に関係を持っている男の一覧と密会場所を記した紙を受け取り、怒りで顔を赤く染めた第一王子は、メソポタリアの部屋から出て行ったのだった。
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「兄上が失礼した」
「はい、これあげる」
第二王子が名乗る前に、メソポタリアが何か帳簿のようなものを取り出した。
ぎくりと固まる第二王子に、メソポタリアは手を振って部屋から出ていくように指示した。
「もう国王陛下には報告済みよ」
第二王子宛の収賄の詳細が記されたそれは、この国の上層部の人事にも大きな影響を与えた。
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「寝込みを襲って物理的に俺のものにすればいい」
そう言った第三王子がその夜、メソポタリアの寝室に忍び込んで彼女を襲った。
翌朝明るくなったところで見てみると、襲われた女性は醜女と言われて婚約者に捨てられたばかりの女性で、次に彼女の婚約者になった者は必ず結婚するようにという王命が出させるほど、父親に大切にされた公爵令嬢だった。
「ずっと、第三王子に憧れていたんです」
そう言って頬を染めた公爵令嬢は、メソポタリアに謝意を述べて、第三王子と共に帰っていった。
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その後も、趣味が王政を傾けるとして却下され、違法に奴隷の女を買っているとバラされ、次々と王子たちがメソポタリアに振られていく中、気弱そうな第十七王子がメソポタリアの元に訪れた。
「あ、あの……め、め、め、メソポタリアさんですか? 僕と結婚してくださいませんか?」
花束を差し出す、第十七王子の顔をちらりと見たメソポタリアが、大変困ったような表情をして言った。
「……第十七王子。あなたは人も良く、臣下の話もよく聞き、とてもいい人なのでしょう。不正も何もしていません。ただ、王になるにはその気弱なところと凡庸なところが心配です。わたくしが支えれば、問題ないのでしょうが……」
そこまで言って、メソポタリアが第十七王子から視線を外した。
「本当に、わたくしの個人的な感情で申し訳ございません。王子のお顔が、好みじゃないのです……。世間一般では好まれるお顔立ちなのでしょうけれど……。お詫びの印として、こちらを差し上げます」
そう言って、メソポタリアが一枚の紙を取り出した。
その紙を受け取って目を通した第十七王子が驚いたように周りを見渡し、メソポタリアに問いかけた。
「これは……本物なのですか?」
「えぇ。わたくしが第十七王子のために調べ上げたのです。きっと貴方は生涯不自由なく、わたくしよりも素敵な女性と一緒に暮らしていけることでしょう」
第十七王子が治めている領地に金鉱山がいくつかあるというメソポタリアの渡した地図を手に、第十七王子は帰っていった。実際、国一番の豊かさを誇る安定した領地経営をした第十七王子には、優しくも美しく、そして優秀な妻と可愛い子どもたちに恵まれたという。
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「もう、後がないぞ!」
焦った国王が、最後の第二十王子にメソポタリアの元へいくように行った。
優しく微笑んだ第二十王子がいくつかの贈り物を持って、メソポタリアの元へと向かった。
「メソポタリア嬢。僕と一緒に、一生をかけて新しい魔術具を開発していきませんか?」
第二十王子のその言葉と、メソポタリアが求めていたいくつもの魔術具作りの材料をなる素材を見て、メソポタリアは目を輝かした。
「王子たちの中で、本当にわたくしのことを理解して、わたくしが欲しいものを贈ってくれたのは貴方だけです。わたくしは、貴方と結婚いたします」
第二十王子とメソポタリアが治めた国は、様々な魔術具を次々と生み出し、優秀な国王夫妻による安定した治世を敷き、大変発展したそうな。




