【おまけSS】お義兄様は甘い物がお好き sideルーシー
「ルーシーはなにを着ても似合うな。一足先に春が来たみたいだ」
籍を入れてから義兄は日常のそこかしこに誉め言葉を入れ込んでくる。
「ありがとうございます」
馬車から降りてエスコートされながら、ゆるみすぎて情けない顔にならないよう表情を引き締める。
「今日は思う存分、甘い物を食べようね」
今日はがんばったご褒美という名目で、王都にある流行のカフェに連れて来てもらっている。
一体なにをがんばったのかということは疑問だが、二人で出かけられるのは嬉しい。
落ち着いたモノトーンの店で、店内も客層も落ち着いた雰囲気。外食に慣れていないルーシーはほっとした。
個室ではないようだが、大きな観葉植物や飾り棚などが上手く配置されていて、人目が気にならないような設えだ。
対面で座る形ではなくて、テーブルの前に二人がけのゆったりとしたソファが置かれている。
隣に腰掛けると距離が近くて少し緊張する。
こういった店に慣れているのか、メニューを見ながらルーシーに質問して義兄がささっと注文してくれる。
「あの……甘い物、本当は好きなんですよね?」
「ん? うん」
「これまで夕食のデザートを譲ってくださってありがとうございました」
「うん。あの頃はそんなことくらいしかできなかったしね」
「これからは、ちゃんと自分の分を食べて下さいね」
「どうしよっかな~。甘い物を食べるより、ルーシーが甘い物をおいしそうに食べてるのを見る方が好きなんだけど」
隣同士で肩の触れ合う距離で座って、手を繋ぎながら琥珀の瞳で見つめられると、溶けてしまいそうな気分になる。
そこへクリームや果物がこれでもかと盛り付けられたパンケーキと飲物が給仕された。
「はい、ルーシー。あーん」
おいしそうな盛り付けに釘付けになっていると、横からフォークが差し出された。
今日はすっきり切りそろえた前髪をセンター分けにしていて、琥珀の瞳と端正な顔立ちが良く見える。
義兄の顔とクリームがついたパンケーキの刺さったフォークを見比べる。
「お義兄さ……マーク。あのあのあの……」
「譲るのがダメなら、食べさせるのはいいでしょ? はい、味見味見」
義兄が妙に頑固なのは知っている。諦めて差し出されたパンケーキを口に収める。
甘い。クリームもパンケーキもどちらかというと甘さ控えめなのに、無茶苦茶甘く感じる。
通りかかった店員さんと目が合うと、頬を染めて目を逸らされた。
「顔真っ赤にして、涙目でかわいい。ほら、あったかいうちに食べないともったいないよ」
義兄は気にした様子もなく、自分の分を食べ進めている。
「お義兄様って、性格変わりました?」
ベリー系の果物が盛られたパンケーキを一口大に切り分けて、フォークを口に運ぶ。
「ルーシー」
どうしても気を抜くと、名前ではなくてお義兄様と呼んでしまう。
「マーク。あの、どうしてこんな……親し気な? くだけた雰囲気になったのかと思いまして……」
「んー。元々こんなかんじだけど?」
義兄の前に置かれたシトラス系のパンケーキが見る見るうちになくなっていく。一口が大きいのに品の良さは損なわれていない。
「ルーシーには婚約者がいたし、好きな気持ちが止まらなくなりそうだから、自制して距離を取っていただけだよ。今はずっとルーシーにしたかったことをしてるだけだよ」
「ずっと……」
さらりと告げられた言葉に胸が小さくはねた。
「だって、俺、母さんの子供だよ。好きになる人も愛情表現も似ていてもおかしくないだろ?」
ぶっきらぼうな態度を取っていた義兄の甘々な態度への豹変には着いていけないが、義母と根本が同じだと言われるとストンと理解することができた。
「ほら、またフォークが止まってる。さては、俺の頼んだものが食べたいんだな。ほら」
そう言って、またフォークを差し出される。
抵抗しても無駄なので、素直に食べた。オレンジの甘酸っぱいさが口に広がる。
「マークってちょっと意地悪ですよね……」
出かけた先の店や劇場でも距離が近いし、茶会や夜会でも人目が少ない場所でかすめるようなキスをしたりする。人前で異性と親密にすることに慣れていないルーシーはその度に動揺してしまう。
「嫌? 家だとすぐに母さんが割り込んでくるから。二人でいると止まらなくなるんだよね」
「……恥ずかしいので、部屋で二人きりの時だけにしてほしいです」
「どうしよっかな~。ほら、俺、甘い物が好きだし、ルーシーも我慢せずに食べてっていうから」
「もー、そういう意味じゃないのに!」
「ほらほら、食べよう」
結局、何枚も上手な義兄にごまかされて、その後も義兄の甘い猛攻に悩まされるのであった。
これにて、番外編も含めておしまいです。
長い長いお話におつきあいくださりありがとうございました!




