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おそらく、私には異性から嫌われる呪いがかかっている +番外編追加(1月15日)  作者: 紺青


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【番外編】後始末 side義兄⑧

「まったく、次から次へと……」

 ルーシーの婚約の件が片付いたと思ったら、今度は彼女の叔母が動き出したようだ。

 どうやら金と引き換えにルーシーを悪辣な男爵の後妻に差し出そうとしているようだ。

 彼女の周りには悪意を持った人間しかいないのか?


 ルーシーと公爵家の後継ぎとの婚約破棄はまだ、社交界に広まっていない。

 確かにルーシーは美しいが、治癒魔法を持つことは伏せられているし伯爵家の跡を継ぐことはできないので、焦って動き出すものがいるとは考えにくい。

「元男爵夫人に情報を入れる者なんていないでしょう? 後ろに黒幕がいるわね……」

 だいぶお腹が大きくなってきた母の顔も険しい。

「それよりさ、聞きそびれていたけど、契約結婚だったんじゃないっけ?」

「そうよ。契約書も金庫にあるわよ。まぁ、私って魅力的だからね。お前を愛することはない、なーんて言っちゃってたくせに惚れちゃったみたいよ」

「うーん……」

 契約結婚だったということに目を瞑れば、伯爵の寵愛を母が受けて子まで宿しているのは悪い事ではないのかもしれない。

 でも、ルーシーと俺の婚約にあれだけ難癖つけて、ルーシーの不遇から目を背けていたことを思うと複雑な気持ちになる。

「大丈夫よ。生まれた子が男の子でもあなたが後継ぎなのは変わらない。私のことはどうでもいいのよ。今はルーシーのことに集中して」

「母さんはブレないな。ルーシーが今でも慕っている叔母か……。爵位も後ろ盾もないとはいえ、闇に葬るわけにはいかないな……。ルーシーの唯一と言っていい親族だしな……」

「ええ。背後にいる奴と思惑を吐かせる必要もあるから、できたら現場を押さえたいわね。可哀そうだけど、ルーシーに彼女の悪意を知らせないと、同じことが繰り返される可能性もあるしね」

「これ以上、ルーシーを危険な目に合わせたくない」

「それなら、俺に任せてよーん」

 深夜に俺の部屋で話しているのに、なぜかアレックスが乱入してきた。

 さっさと叔母の件を片付けたい俺はアレックスの作戦に乗ることにした。



 わかりやすく俺と母が屋敷を不在にすると、すぐに敵は動き出した。

 やはり彼女の叔母に資金や情報を提供する存在がいるのだろう。


 叔母が豹変する様を見て、顔を青ざめさせるルーシーを見て、後悔が襲ってくる。

 叔母ともみ合い薬を嗅がされ、現れたアレックスに横抱きにされ、伯爵家の庭のくたびれた小屋に運び込まれる姿を見て、何度も出て行きそうになった。

 母が手配した屈強な騎士がいなかったら、作戦を台無しにしていただろう。

 小屋に入る前にこちらを見たアレックスがウィンクしてくるので、彼を信じることにする。


 騎士達と万一に備え、小屋の周りで待機するが気が気ではない。

 アレックスの合図を待つのに、いつまで経っても動きがない。

 じれて動こうとするのを、日が落ちた頃にやってきた母に止められた。

 母の指示で騎士達が魔道具で光をちらちらと点滅さると、扉が吹き飛びルーシーが転がり落ちてきた。

 俺がそこへ辿り着くより早く、ルーシーに叔母が馬乗りになった。

 遅れてアレックスが扉から顔を出す。


 叔母が懐から取り出した小瓶をルーシーの口に注ぎ込んだ。

 ごくりとルーシーの喉が動いた後に、彼女はもがき始めた。

 顔が青から紫色に変色し、縄で結ばれた手を喉に当て苦しそうにもがいている。

 媚薬、という言葉が聞えるが、どう見ても致死性のある毒にしか見えない。


 とっさにルーシーに乗り上げたままの叔母を押しのけて、ルーシーを抱え込み唇から魔力を流しこむ。

 伯爵家を継ぐという自覚も自分の命もなにもかも頭から吹き飛んでいた。

 毒に治癒魔法が効くかどうかもわからない。

 拘束されていたせいかルーシーの体は冷え切っていた。

 徐々に息が整っていって、目が開いた。

 状況を確認したいのか、ルーシーが立ち上がろうとするのでそれを助ける。


 ルーシーの手首が拘束されているのに気づき、アレックスを睨みつける。

 傷一つつけるなと言ったのに。

 アレックスは肩をすくめると、折り畳みナイフでルーシーの手首の枷を切った。


 そのままルーシーを後ろから抱きしめる。

 どうやったら守れるんだろうな?

 悪意とか害意とかから。

 色々と考えて画策しても、いつも上手くいかない。


 アレックスのお陰で、ルーシーが幼い頃に叔母が渡した母の形見だと偽った指輪が呪いの媒体だと判明した。叔母の主張は独りよがりで胸糞の悪いもので、一人の女の妄執のせいでルーシーは苦しめられてきた。


 母を亡くしたばかりの頃世話になったという叔母に悪意をぶつけられてもルーシーは冷静だった。

 その様を見ているだけなのに、胸がきりきり痛む。

「ルーシー、君は愛されるに値する存在だ」

 叔母がルーシーを傷つけるためだけに、呪いのような言葉を吐くのに耐えられずに耳元でささやく。

「少なくとも俺はルーシーを愛してる」

 もっと距離を縮めてから、もっとルーシーに心開いてもらってから、告げようと思っていた言葉が零れる。


 それに対するルーシーの反応は意外なものだった。

 アレックスを恋人だと思っていたとか、母を取られたと思って俺から恨まれていると思っていたとか。

 振り返って見て、確かにそう思われても仕方がない言動を取っていたと反省する。

 自分のことほど見えないものだ。


 誤解を解いていくと、ルーシーの瞳にも俺と同じ熱が灯るのがわかった。

 頬を赤らめ瞳を潤ませるルーシーにずっと言いたかったことを告げる。

 「ルーシー、責任とって結婚してくれる?」

 やっと欲しかった返事をもらえた俺は、治癒魔法を流すためではない口づけを交わした。



 ◇◇


 

「やっぱり、黒幕は王妃だったわ」

 叔母の断罪の場でも、妊娠中の母は騎士に守られ遠方で見守ることしかできなかったので不満顔だ。

 地下牢は冷えるので止めて置けと言ったのに、危険はないからとモコモコに着込んでやってきた。

 確かにここなら話を誰かに聞かれることもない。

 見張りの騎士に声が届かない場所で密談する。


「証拠は?」

「ないわよ。状況証拠。自白剤を使わずとも彼女がペラペラしゃべったことの裏付けを取っただけでも明らかだわ。繋がってる先には彼女の存在がある」


 俺にしか見せない凍てつくような目で、地下牢に転がる女を刺すように見ている。

 ルーシーの手前、衣食住は保証すると言ったが、罪人に与える程度のものだ。

 アレックスが脅してしゃべらせた後、簡素な食事を与えると石の床に敷かれた薄っぺらい布団にくるまり、すやすやと眠っている。


「ルーシーが魔法の適性検査を受けた教会の司祭の実家は王族派でお金に困っていた。叔母の婚家の男爵家が営む商家を王妃の侍女の実家が使っていた。叔母が離縁された後、彼女を匿い世話をしたのは、王族派の男爵家の未亡人だった……」


 母は一旦言葉を切ると、溜息をついた。


「この女は全部、幸運な偶然だと思っているんでしょうね。呪いの指輪を手に入れて、それで姉を犠牲にし、ルーシーに呪いをかけて。挙句の果てに大金と引き換えに姪を売る算段がつくなんて。王妃は、男爵にルーシーが渡って嬲られた後に助けて、侍女として囲うつもりだったみたいよ。ほんと、胸糞悪い話だわ」


 深呼吸をして怒りをなんとか鎮める。

 俺も同じように周りの人間を躍らせて、周りから絡めとりルーシーの婚約を破棄したので、それが可能だとわかっている。

 俺より権力も金も持っていたなら、容易なことだっただろう。


「なんでそこまでして、ルーシーにこだわるんだ……」

「さぁ? 尊い方の考えることなんてわからないわよ」


 ルーシーが魔法の適性検査で、治癒魔法と膨大な魔力を持つと判明してから囲い込むまでに手間暇をかける王妃にぞっとする。

 それに王妃はルーシーの心や体がどれだけ傷ついても構わないようだ。ただ治癒魔法の力を持つ、従順な貴族令嬢が欲しかったのだろう。


「ルーシーと気持ちが通じ合ったなら、もう籍を入れるわよ」

「ああ。でも、王妃から横やりは入らないのか?」


「やっと手が届いたの、権力に」

 母はどれだけ高級なドレスや宝石を贈られても見せたことのない、満足げな笑みを見せた。

 どうやらせっせと社交にいそしんでいた母はついに目標を達成したようだ。


「孤高の貴族派の筆頭公爵夫人を落としたわ。あなたの再結晶宝石のお陰よ。彼女、人間には興味がないけど美しい物が大好きなの。彼女が好きな色の宝石って自然界にはなくてね。入念にリサーチして理想のアクセサリーを献上して懐に入ることができたの。彼女だけじゃなくて、貴族派の夫人も取りまとめているわ。彼女達も王族派の横暴に不満を持っていたの」


 屑宝石を利用して、魔法の力で作った再結晶宝石。既存の宝石にない色をだすことに成功した。

 量産はできないが、その希少性と美しいカラーバリエーションにプレミア感があって評判は上々だ。


「それにアレックスとあなたが公爵家が他の貴族に横暴を働いている証拠を集めてくれたでしょう?

 噂もいい感じに熟しているし、都合の悪いことは聞こえないいい耳をしている王妃でも無視できないわ。近々、直談判する予定なの。今回、アレックスがルーシーの指輪から抽出した婚約者や公爵家の面々がルーシーを罵る音声情報も添えてね。

 だから、ルーシーどころじゃないわ。それにマクファーレン伯爵家を舐めているから、あなたと婚姻した後にまた狙えばいいと思ってるんじゃないかしら?」


 王妃の兄弟である公爵やその弟が金をばらまいて、自分達に都合の悪い事を口止めしていたらしい。

 だか、彼らの横暴さは日に日に増していて、ついに穏便な貴族派の貴族を怒らせた。


「舐められたもんだな」

「ふふっ。王妃の息子だけど、王太子殿下はバカではないわ。王太子妃殿下の方に王妃のルーシーへの所業を伝わるようにしたから、ただではおかないと思うけどね」


 どうやら母は王妃の息の根を止めにかかっているみたいだ。

 しばらくは様子見だが、恐らく王家がこちらに関わって来ることは今後ないだろう。

 油断は禁物だが、一段落といったところか?


「ルーシーには?」

「さすがに王妃が黒幕ってことは伏せておきましょう」

「そうだな……」

「あとね、アレックスのことなんだけど。異性に嫌われる呪いがかかっていたし、あなたを心配するが故だとは思うけどね、ルーシーちゃんに対してちょーっとやりすぎだったと思うの。あなたの恋人のふりをしたり、意地悪なこと言ったり。締めとくけどいいわよね」

 一体、アレックスはルーシーを拘束していた時になにをしたのか?

 なぜ、母がそれを知っているか気になるが、一つだけわかったことがある。

 にっこり微笑む母を前にして、この人だけは敵に回してはいけないと心に留め置くことにしたのだった。


 そして、無事にルーシーと籍を入れて結婚し、王家の夜会で夫婦になったと披露することができた。

 その夜会で王族派の筆頭貴族が王妃によって断罪され、横暴だった王族派の勢いが削がれた。

 その後、王妃は病で体調を崩し、離宮で静養しているようで表舞台に出てくることはなくなった。

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