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おそらく、私には異性から嫌われる呪いがかかっている +番外編追加(1月15日)  作者: 紺青


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【番外編】甘やかで苦しい時間 side義兄③

「私に治癒魔法を教えてください」

 公爵家で治癒魔法を使わされてボロボロにされたルーシーからの提案には驚かされた。

 彼女なりに婚家で生存する戦略を考えたのだろう。

 それがベストだとは思えないが、力になりたくて治癒魔法について俺の知っていること全てを伝える。


 たまに二言三言、言葉を交わすぐらいだったのに長時間一緒にいると頭がおかしくなりそうだった。

 傍で本を挟んで話したりしていると、優しくて甘い香りがする。

 治癒魔法の実践をしたいと言うので、白くて滑らかな手を取り、お互いの魔力を循環させる。

 甘美だけど苦しい時間。


 ずっと羨ましかった。

 彼女に治癒魔法をかけてもらえる婚約者が。

 彼女の魔力はどんなかんじなのだろうとずっと夢想していた。

 数少ない治癒魔法の文献によると、人によって魔力に個性があるという。


 甘いのかと思っていた。もしくは彼女の外見のように涼やかなのかと。

 だけど、彼女の魔力は陽だまりのようにぽかぽかとあたたかかった。

 当たり前のようにそこにあるのに、心地よさに気づかれないような。


 彼女とのふわふわとした甘い時間に癒されながら、奔走した。

 マクファーレン伯爵領は広大な領地に宝石が採掘される鉱山を多数、抱える。

 義父はきちんと領地運営をしていたが、積極的な施策は打ち出しておらず、粛々と先代から引き継いだものを回しているだけだ。

 義父と同じように現状維持したり、多少何かを改善したぐらいでは、ルーシーとの婚約は認められないだろう。

 それにこのまま鉱山を堀りつくしてしまったら、収入が一気に途絶える。

 その辺りも含めてなんとかしなければならない。


 幸いなことに優秀な魔法師である友人のアレックスがいる。

 幼馴染で、伯爵家に来てからも一緒に走り回っている頼れる相棒だ。


 幼い頃から美しかったアレックスを貴族が攫おうとしているところを助けたのが出会いで、そのせいでアレックスは俺に心酔している。お互い魔力量が豊富で魔法を使えるという共通項もあり、仲良くなるのに時間はかからなかった。

 孤児院暮らしのアレックスとは細々と交流が続いていて、母さんが二度目の離婚後に商会を立ち上げた時から一緒に働いている。


 義父に紹介すると俺の側近として雇っていいという許可が出た。義父が魔法に懐疑的な人じゃなくてよかった。

 伯爵や母に助言を受けながら、領地を周り、鉱山の整備をして労働環境を改善した。

 平民のアレックスならではの視点で物流や教育についても整えた。

 これまでも、伯爵家のために出来る限りのことをしてきた。

 でも、これでは足りない。

 ルーシーとの時間は確保しながらも、空いた時間は全て仕事に費やした。

 無駄になるかもしれないが、一つずつ可能性を積み上げていくしかない。



 ◇◇



 母とはマメに情報交換した。

「やっぱり王族派の公爵家は手強いわね……」

 あちらは権力も財力もある。立ち回りも情報操作も上手い。

 義父とルーシーの耳に入れたくない話もあるので、俺の私室で時間の合う時に紅茶を片手に話し合う。

 ルーシーとの茶会と違って、紅茶のお供はいつもナッツや干した果物だけだ。


「あの公爵家の息子も隙がなかなかないのよね……」

 さすがに公爵邸での出来事はやりすぎだと思ったのか、婚約者は相変わらずルーシーに治癒魔法を求めるものの、それ以上なにかを仕掛けることはなかった。


「ギャンブルもしないし、女関係も綺麗か……」

 騎士なので欲を解消するために高級娼館を利用することはあるようだが、恋人も愛人もいないようだ。


「ルーシーの治癒魔法に依存ぎみで、無茶をすることぐらいかしら? でも、婚約を破棄できるほどの問題じゃないのよね」

 

 近衛騎士団に所属し三番隊の隊長である婚約者は、天才肌で努力が嫌いなようだ。

 なにかあってもルーシーに治してもらえると思っている節があり、自分の実力をわきまえないせいで怪我をすることが多い。

 ルーシーが治癒魔法のコツを掴んだお陰で、その傾向は強まっている。


「いっそのことなー。あの時……」

 先日行われた騎士団の剣術大会で、婚約者は瀕死の重傷を負ったのにルーシーの治癒魔法で蘇生してしまったのだ。

 あの一件で自分の行いを反省してくれたらいいのだが、残念ながら彼の言動は一貫して変わらない。

「マーク」

 母だって内心、あのまま事故で……と思っているはずなのに。

 公爵家も婚約者も、ルーシーのお陰で助かったのにお礼の言葉の一つもなかったのだ。

 それならこちらが礼を尽くす必要もないだろう。

 二人のため息が重なる。


「で、調子はどうなの?」

 母というよりは伯爵夫人の目でこちらを見てくる。

「義父さんが無気力で領地運営にあんまり手を付けていなかったお陰で、やることが盛りだくさんだよ。鉱山を整備して、新しい鉱脈を掘って、新しい産物に目星つけて」

「それくらいで、あの人が認めてくれるかしら?」

「ああ、わかってるよ。わかりやすい利益を出さなきゃだめなんだろう? 今、捨てるしかない屑宝石を再利用できないかアレックスと実験してる」

「それ、おもしろそうね」

「屑宝石を砕いて高温で溶かしてゆっくり冷やして再結晶させた宝石を作れないか試してるんだ」

「でも再結晶宝石は所詮、偽物よね」

「ああ、偽物だよ。でも現存しないカラーバリエーションを生み出せるんじゃないかって思ってる」

「なるほど。試作品ができたら見せて。希少で綺麗なものほど高貴な女性は好むから」

「はいはい」

 領地を富ませて、なおかつ母の人脈作りに役立つなら、方向性は間違っていないのだろう。

 なんだかんだ言って、共闘してくれる母がいるから走り続けられるのかもしれない。

 

 状況が膠着(こうちゃく)している中で、俺がルーシーにできることは相変わらず少ない。

 治癒魔法の練習を一緒にして、母とのお茶会の茶菓子や茶葉を差し入れて、治癒魔法の本や文献を貸す。あとは夕食のデザートを譲るくらいか。


 俺が領地でしていることが彼女を救う一手になるかはわからない。

 彼女の結婚は止められないし、俺が婚約者になれることもないだろう。

 でも権力と金を手に入れたら、公爵家で虐げられたり放り出された時に、彼女を救い出すことができるかもしれない。

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