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おそらく、私には異性から嫌われる呪いがかかっている +番外編追加(1月15日)  作者: 紺青


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【番外編】葛藤 side義兄②

 ルーシーが結婚を一年後に控えたある日のこと。

 珍しく婚約者から公爵家へと招待を受けた。

 正装したルーシーを階段の踊り場の窓越しに見送る。


 年を重ねて幼い頃のかわいらしさが抜けて、洗練された美しさを放つようになった。

 久々に見るドレス姿を目に焼き付ける。

 公爵家もようやく結婚式の準備を進めるつもりだろうか……。

 ルーシーにとっては喜ばしいことなのに、心に暗雲がかかる。


 婚約者や彼の生家の公爵家はこの婚約に不満なようだが、結局、王命には逆らえないのか婚約が破棄されることはなかった。

 交流の茶会は月に一度、伯爵邸で行われていて、彼とルーシーの関係性は良くも悪くも変わらない。

 相変わらずささいなことで治癒魔法を求め、ルーシーがそれに粛々と従う。

 母と俺にできるのは、彼女が伯爵邸で居心地良く過ごせるように心を配るくらいしかなかった。


 頭を振って、すぐにルーシーのことでいっぱいになってしまう思考を追い払う。

 ルーシーと出会って八年経っても、俺の心は彼女に囚われたままだ。


 母も茶会へと出かけていて、屋敷は静けさに包まれている。

 執務室に籠り、書類作業をするがなかなか捗らない。

 居ても立ってもいられず庭に出てうろうろと歩き回る。

 彼女が出て行ったのは昼前だ。軽く昼食をとって、式の打ち合わせでもしている頃だろうか……。

 そんなことを思いながら鉄製の門を眺めていると、門が開き伯爵家の馬車が勢い良く入って来た。

 酷く顔色の悪い御者が俺の顔を見て、馬車を止める。


「若旦那様、……お嬢様が……」

 彼の様子と絞り出すような言葉に、嫌な予感がして馬車の扉を開け放つ。


「ルーシー!!!」

 馬車の中を覗き込むと彼女が座席の下でうずくまっていた。

 ドレスがひどく汚れているし、彼女が立ち上がる気配がない。

 そっとすくいあげるように抱き上げて、慎重に馬車から下ろす。


「どうした? なにをされた? 怪我はないか? 血の跡がある……!!」

 横抱きにしたルーシーはぐったりしていて、日の光の下で見るとドレスが酷い状態だ。埃まみれで、血の跡まである。

 あまりの惨状に血の気が引く。

 あいつは、公爵家はルーシーになにをしたんだ?


「おにいさま……だいじょうぶ……ちゆまほう、つかっただけ……」

 閉じていた瞳が少しだけ開いて、絞り出すようにして返事をしてくれた。

 俺だとわかったのか、ほっとしたように体を委ねてくれる。

 その華奢な体をぎゅっと抱きしめる。


「いつもの魔力枯渇か? 怪我はないか?」

 答える元気もないのか、俺の問いに小さく頷いた。

 彼女を横抱きにして歩きながら、彼女の全身をチェックする。 

 行きにしていた白い手袋がなく、手首には青あざがついていた。


「この手首の青あざはなんだ? あいつにやられたのか?」

 この状態のルーシーに詰問するのは酷だとわかっていても、侍女を連れてくるなとの指示だったので、本人に確認するしかないのが歯がゆい。


「おにいさま……」

「どうした? ルーシー」

「わたし、よごれているので……」

 こんな時にも自分の状態より人に迷惑をかけることを気にする彼女に胸が軋む。


「くだらないことを気にするな。もういい」

 使用人達に指示を飛ばしながら、いつものように治癒の魔力を流し込む。

 気を失っても軽い彼女の体を抱えて足早に屋敷へと向かう。


「……なんで、……こんな」

 一体どんな状況で治癒魔法を使わされたんだ?

 どうしたら、こんな酷い状態になるんだ?

 手当てをしたり身なりを整えることなく、ルーシーを物のように扱い、放り出して。

 腹の奥からぐらぐらと怒りが湧いてくる。


「きちんと大事にしてくれよ……」

 なんの努力もなく婚約者っていう地位についておきながら。

 彼女に触れられて、魔力を流し込んでもらっているのだから。

 ちゃんと笑顔にしてくれ。

 ちゃんと幸せにしてくれ。


 ――そうじゃなきゃ、諦めきれないじゃないか。


「もう解放してくれよ」

 王命で、確かに彼の望んだ婚約ではないのだろう。

 でも不満があるなら、公爵なり王妃なりに訴えて婚約を解消すればいいじゃないか。

 婚約中にこんな扱いを受けているルーシーの先行きは暗い。

 

「返してくれよ、彼女を」

 別に元々俺のものでもないけど。

 伯爵家に彼女を返してくれ。

 大事に大事にするから。

 お願いだから、返してくれ。



 ◇◇



 その日の夜、意を決して義父の執務室へ向かった。


「どうした、マーク? もう夜も遅い。今、しなければいけない話か?」

 夜も遅い時間だというのに、執務机に向かっている義父はこちらに視線を向けることもなく、ペンを書類に走らせている。


「ルーシーの話です」

「家令から聞いている。マーク、あまりあの子に肩入れするな」

「あのまま嫁いだら、ルーシーは心か、体を壊してしまう」

「公爵家に抗議は入れる」

「これまでだって、抗議は入れているでしょう? それで、このザマですが?」


 ガンっと執務机を叩きつけた。瓶からインクが飛び散る。やっと義父の視線がこちらに向いたが、彼も酷い顔色をしていた。


「マーク。世の中にはな、なんとかなることと、なんともならないことがあるんだ」

 そう低い声で告げた後に、ふっと義父の視線がずれた。

 その先を追うと、彼の妻の肖像画が微笑んでいる。ルーシーそっくりな顔で。


「だからって、なにもせず手をこまねいていろっていうんですか? ルーシーが不幸になるとわかっているのに?」

 婚約者や公爵家にボロ切れのように扱われて擦り切れて、魔力も生命力も枯渇して命を散らすのをただ見ていろと?


「そうだ。貴族令嬢とはそういうものだ。どうしても生まれた家や嫁ぎ先によって幸せかどうかは左右される」

 義父の言う事が正論だとわかっている。

 この婚約は王命で公爵家が良しとしているなら、それに黙って従うしかない。

 いくらルーシーを想っているからと言って、彼女を連れ去って伯爵家を出て二人で生きていくことは難しい。

 それは、母と二人、後ろ盾のない日々を過ごしたことから嫌というほどわかってる。

 特に母やルーシーのように美しい女性は市井で生きていくことなどできない。


「わかりました。でも、もしもルーシーの婚約が破棄された場合、俺と婚約させてください」

「……マーク」

「わかっています。ただでさえ、俺の婚約をルーシーの結婚まで待って欲しいという我儘を聞いてもらっているのに、厚かましいお願いであることはわかっています」

「マーク」

「お願いします」

「……どうしてもというなら、お前がよその令嬢と婚姻する分とあの子が縁を結ぶ分、二人分の婚姻で得られるくらいの実績を示せ」

 大きなため息と共に、妥協案を提示してきた。

 それは義父なりの優しさなのかもしれない。

 無茶な要求をすることで、叶わない想いをそろそろ捨てろ、という。


「わかりました」

 俺が承諾すると思わなかったのか、義父が目を見張った。

「お前もシャリーンもどうして、あの子にそんなに入れ込むんだ。結局、自分が傷つくだけだぞ……」

 ルーシーのことで、母が義父とやりあっている姿もよく見る。

 似た者親子なのかもしれない。

「頭ではバカなことだと理解できていても、どうしても気持ちが追いつかないことって世の中にはあるんですよ」

 下げた頭の上からため息が聞こえた。顔を上げると、義父が疲れた顔で下がるように手を小さく振ったので、退散することにした。



「これから、忙しくなるか……」

 これまでも伯爵家を継ぐために義父の執務を手伝ったり、領地を回ったりしていた。

 並行して、伯爵家に入る前に友人と起こした商会の仕事もしている。こちらは伯爵家から母と自分が追い出された時のための保険的なものだったが、本格的に利益を上げるように力を入れていかなければならないだろう。

 領地を盛り立てるような施策を考えて実行しつつ、お金も稼がないといけない。

 頭の中で算段を立てながら自室へと戻る途中、廊下の暗がりに佇む人影に気づいて足を止める。


「うわっ! びっくりした。母さんか。驚かすなよ……」

「……ねぇ、知ってた?」

 茶会から帰った後に着替えていないのか華やかなデイドレスをまとい、化粧もアクセサリーもそのまま。顔に生気がなく、装いの煌びやかさと暗い表情がアンバランスで不気味だ。

「なにを?」

 母がおかしくなるのは大抵ルーシーがらみだ。

「あの子が公爵邸でどんな目にあったのか?」

「知らない」

 母の言葉に血の気が引く。

 手首以外、怪我はないようだったし、あのまま侍女に引き渡した。

 侍女から手首以外の怪我の跡はないと聞いて、ルーシーも俺にあれこれ詮索されたくないだろうとそっとしておいてある。


 ドンっと胸元に衝撃が走る。

「あの子、公爵家に集まった親族に治癒魔法かけさせられたのよ!! 何人も何人も!!」

 いつも綺麗に化粧で整えられている母の顔は涙でぐしゃぐしゃになってる。

「なんだって?」

「しかも散々なこと言われながら。あいつらに傅いて埃まみれになって、お茶のもてなしも受けずに!」

「……」

 それは使用人以下の扱いではないか?

 目の奥が怒りで白くなる。


「最後には限界を迎えていたルーシーに、公爵家の次男が自分で腕を切って、それを治させたのよ。ただ治癒魔法をかけてもらいたいからって理由で」

 ドレスに微かに残っていた血の跡の正体に言葉を失う。

「……許せない許せない。でも、一番許せないのはそんなルーシーを救ってあげられない私自身なのよ!!」

 俺の胸元に何度も拳を打ち付ける母の無念が染みてくる。

 母の気持ちは痛いくらいわかる。

 ルーシーの婚約は王命で、俺は伯爵家の養子にしてもらった存在で、無力でただ見守ることしかできない。

 今回の件も公爵家へ抗議したところで、握りつぶされるだけだろう。

 貴族派の寄親の公爵家が動いてくれるとも思えない。


「早く権力の元まで駆け上がらないとね」

 仄暗い顔で母が微笑んだ。

 わずかに血の匂いがして、顔をしかめる。母が握りしめた手から少し出血していた。無言で治癒魔法を施す。

 母が伯爵家の家政を切り盛りしながら、社交に精を出すのはマクファーレン伯爵家のためだけじゃない。

 ルーシーを助け出すためだ。

 母は母なりに戦っている。

 粛々と有用な人脈を作り、情報を入れて。


 ならば、俺は?

 俺にできることはなんだろう?

 それから見守るだけじゃなく、きちんと彼女を幸せにする方法を模索する日々が始まった。

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