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おそらく、私には異性から嫌われる呪いがかかっている +番外編追加(1月15日)  作者: 紺青


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【番外編】出会いと募る想い  side義兄①

 ――誰か、叶わない恋を叶える方法があったら教えてくれないか?


 俺は叶わない恋心を十二の頃から大事に持ち続けている。

 じくじくと膿んだ傷のように存在感を主張しながら、手放すこともできずに、ずっと俺の最奥に居座っている。


 ただの初恋じゃないか。

 彼女以外にも素晴らしい女性はいるだろう? 

 養子として籍を入れてもらったのだから、次期伯爵として婚約者を定めるべきだし、他に目を向けるべきだ。


 何度も何度も自分に言い聞かせた。

 見ないふりをしても、蓋をしても、どうしても溢れてきてしまう。


 いつかこの気持ちが変わったり枯れたりすることはあるのだろうか?

 この気持ちに折り合いをつけられる日はくるのだろうか?


 この問いに対する答えを俺は八年経っても見つけられないままだ。



 ◇◇



 はじめて会った時の彼女はまるで天使のようだった。


 母とマクファーレン伯爵との再婚が決まり、伯爵邸に居を移した。

 玄関から邸に足を踏み入れ、二階へと続く立派な階段を見上げると、そこに小柄な女の子がいた。

 薄紫色の瞳は見たことがないほど綺麗な色で、10歳にしてすでに完成されている綺麗な顔立ちを引き立てていた。

 俺達の到着を知らされていなかったのか、顔を青ざめさせた。

 静かに、でも急いで階段を下りてくる彼女をはらはらしながら見守る。さらりさらりと揺れる菫色の髪が陽の光を反射していた。


 俺達を迎えに来て、母をエスコートしている伯爵は彼女に声を掛けることも迎えに行くこともせず無言で佇んでいる。

 

 彼女が俺達の対面に立った時、まつげのふるえる音が聞えた気がした。人生で初めてなにかを美しいと思った。


「お初にお目にかかります。マクファーレン伯爵家のルーシーと申します」


 父親の再婚相手とその連れ子との対面に驚き、緊張しながらも一生懸命、自己紹介して華麗にカーテシーをする姿に胸がぎゅっとつかまれた。

 

「ルーシーちゃん! まぁ、なんてかわいいの!」


 俺の心の声をそのまま口にして、母は彼女を抱きしめた。

 母に抱きしめられる彼女を見ても、母親を取られたという感情はない。

 ただただ、うらやましかった。心のままに行動できる母が。

 母の腕の中で、頬を染めてはにかむ彼女から目が離せない。

 

 母とルーシーを複雑そうな表情で見守る伯爵を見て、我に返る。


 俺はここになにをしに来たのか?

 母が再婚して、ありがたいことに俺も養子として伯爵家の籍に入れてもらうことができた。

 そして、俺は伯爵家を継ぐ。

 伯爵家の唯一の子供であるルーシーの婚約が王命で決まり、家を出て嫁ぐことになったからだ。

 

 彼女は義妹で、家族だ。

 恋愛対象じゃない。見惚れている場合ではない。深入りしてはいけない。

 母を守るため、自分が安穏と生きていくため。


 これまで自制のきくタイプだと自分のことを思っていた。

 だから、新しい妹が例え天使のようにかわいくて美しかったとしても、溺れることなどないと思っていたんだ。



 ◇◇



 俺も母も今まで散々な目に合ってきた。

 母は子供の俺から見ても美人で優秀なのに、実家では不遇な扱いを受け売られるように嫁がされた。そしてこれまでの二度の結婚も婚家で酷い扱いを受けた。

 母が前向きで行動力があり、俺に魔力が膨大にあって器用に魔法を使いこなせたお陰で、なんとか生き抜いてこれた。


 だから、母の三度目の結婚も別になにも期待していなかった。

 気難しいという伯爵の機嫌を損なわないようにして、その娘にできるだけ嫌われないようにしようと母と事前に方針を決めていた。もし伯爵や娘がとんでもない人物だったら、さっさと縁を切って次の手を考えるだけだ。


 そう意気込んでやって来たのに思いのほか、マクファーレン伯爵家での暮らしは快適だった。

 マクファーレン伯爵は前評判通り気難しい人物だったが、俺達の処遇は悪いものではなく、衣食住や教育も想像以上のものが与えられた。こんなに安心して貴族のような生活を送れるのは初めてかもしれない。


 生活に余裕があるせいか、心にも余白が増えてしまった。

 彼女が視界に入ると、つい目で追ってしまう。

 そうすると色々なものが見えてしまう。


 父親の無関心にも心折れることなく、貴族令嬢として努力を惜しまない姿。

 母とお茶をしているときの無邪気な笑顔。

 ガゼボでくつろいでいる時の気の抜けた姿。

 そして、横柄な婚約者への諦観の表情。

 時折、消えてしまうのではないかと思うくらい儚げな様子。


 真面目で不器用で健気で、綺麗なのにかわいくて。

 惹かれるなというほうが無理だろう。


 日々、なんとなく好きな気持ちが降り積もる。

 はらりはらりと舞う雪のように。

 儚くて消えてしまいそうなのに、積もるとなかなか消えない。


 だめだ。彼女には婚約者がいるし、自分も伯爵家を継ぐために然るべき相手と結婚しなければならない。

 彼女に恋愛感情を持ってはいけない。

 何度も何度も自分に言い聞かせる。

 それなのに、心の底から湧いてくる気持ちはなんだろう?

 だめだと思うから余計に惹かれるのだろうと放置しても、それでもやっぱり彼女を目で追ってしまう。


 器用に溺愛する兄の演技もできず、彼女を目の前にすると緊張してしまうし、これ以上惹かれないようにと自制する気持ちのせいで、ぶっきらぼうな態度になってしまう。

 コントロールできない自分の気持ちに戸惑った俺はルーシーと距離を取ることしかできなかった。

 ルーシーへの想いを募らせながらも、母と楽しそうにお茶をしたり話したりしているのを遠目に眺めることしかできない。


 兄として家族として、穏やかに彼女の幸せを祈りたいのに。

 彼女に関することだと、すぐに俺の心は泡立つ。

 距離を置こうとするけど、我慢できずに時折、話しかけるという矛盾した行動をとってしまう。


 公爵家の嫡男である婚約者との交流が伯爵家で行われるのは、俺の想いに気づいた義父の手配なのかと思っていた。できるだけ交流の茶会の日は留守にするようにしていた。

 そのせいで、気づくのが遅れた。いつの頃からか婚約者と会った後にルーシーは体調を崩すようになっていた。


 家政や社交など伯爵夫人として忙しくしている母もさすがにおかしいと気付き、死角に潜み二人の茶会を見守る。人払いがされていて、二人のいるガゼボの傍に侍女や侍従の気配はない。


「ほら、早く治せ」

「かしこまりました」


 そこで見たのは婚約者同士の交流ではなく、対抗派閥の目上の令息に使用人のように傅くルーシーの姿だった。

 腕にできたかすり傷、暴飲暴食による胃のむかつきや頭痛、足にできた打撲の痣……。

 取るに足らない自然に治るような症状やささいな怪我。

 それに次々と治癒魔法をかけさせる。

 雑談をすることもテーブルに用意された菓子や茶に手をつけることもない。


「……あのクソ男……」

 隣で母が怒りに震えていた。


 元々、王命で結ばれた婚約で二人の間に冷んやりとした空気が漂っているのは把握している。貴族の政略的な婚約などそんなものだ。しかし、いくら対抗派閥の格下の婚約者だとしてもこの扱いは酷い。


「伯爵や母さんの手配で交流を伯爵家でしているわけじゃないのか?」


「あっちの希望だって聞いてるわよ。公爵家はこの婚約を歓迎してるわけじゃないと示すためにそうしているって王族派のご夫人が言っていたわ。あの男、形だけでも交流する気なんてないじゃない。ルーシーをなんだと思っているの? だから、伯爵邸から離れたガゼボで侍従や侍女も控えていないのね……」


「一体いつから?」


「わからない。用意されたものに手もつけず短時間で帰るとは聞いていたのだけど……」


「ルーシーはまだ14じゃないか! 治癒魔法については学んでいるのか? 成長期に魔力を放出しすぎるのは体に良くないだろう?」


「私だって今日初めて知ったのよ。いいわけないじゃない! 伯爵様に報告するけど、改善されるかはわからないわね……」


 憤りをぶつけるように小声で母に詰め寄るが、母だって俺と同じで怒りと困惑の混じった表情をしている。

 ルーシーに労いの言葉をかけることもなく婚約者は去って行った。

 残されたルーシーは椅子に座り込み呼吸を整えている。血色のない顔色をしていて、しんどそうだ。

 

 そもそも治癒魔法は、施術をされる側が全面的に施術者に身を委ねないと効果を発揮しない。

 ルーシーは魔力量も多いし、大したことのない症状なのにあれだけ消耗するのは、婚約者がルーシーの治癒魔法の乗った魔力を拒んでいるからだろう。


 憤慨した母から報告を受けた義父が公爵家に抗議文を出したようだが『王宮の治癒魔法師に確認したが、問題はない』という簡潔な書簡が返って来ただけだという。

 婚約者の家は王族派の筆頭公爵家で、王妃殿下の生家であることもあり、かなり力がある。

 この不本意な婚約を破棄することも横柄な婚約者を更生させることもできなかった。


 それからルーシーが婚約者に会う日はいつも邸に控えているようにしていた。

 婚約者との茶会で婚約者に請われるままに治癒魔法を使って倒れる彼女に、頼まれたわけでもないのに治癒魔法をかける。魔力の枯渇に治癒魔法は効かないことがわかっていても、なにかせずにいられなかった。


 日増しに彼女の婚約者への不満積もっていくが、王命で決まった婚約でルーシー本人も文句や不満を言うこともなく粛々と従っている。

 そんな彼女に優しくしたいのに、ルーシーの苦しみをどうにもできない自分への憤りもあって、いつもそっけない態度をとってしまう。

 俺にできることは、領地に行った時や外出先で彼女の好みそうなお茶やお菓子をせっせと母経由で貢いだり、甘い物が好きな彼女に夕食のデザートを譲ることぐらいしかできなかった。

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