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46 北京2日目~北京市郊外観光、ホテル→頤和園~

前回までのあらすじ

咲良 紫苑は初海外旅行で友達のミッキーと共に中国は北京へと旅立った。

北京に着いたのは現地時間の夜。慣れぬ空の旅で疲れた身体を休めたくても、全食事つきで28000円の激安ツアーなため、マットレスは硬いし、高速道路の騒音は激しく、おちおち休めたものではない。

だが、それでも、咲良は次の日の北京市郊外観光に思いをはせているうちになんとか眠りを手に入れたのであった。




早朝5時

私たちのベッドルームに一本の電話がかかってくる。

まだ半分寝ている状態で、昨晩バスの中でつばめさんが

「明日の朝5時にモーニングコールしますね」

と言っていたことを思い出し、あわてて受話器をとり

「つばめさん、おはようございます。今日も朝早くから御苦労さまです」

と言ったのだが、受話器の向こう側からはブチっと切る音のみが聞こえてきた。

なんだなんだ、つばめさん、随分な態度じゃあないか。と憤りを感じ、まだ健やかに眠るミッキーを叩き起こし、文句をたれる私。

「ちょっと、ちょっと、ミッキー、つばめさんのモーニングコールったらひどいんだよ!すっごい無愛想でさぁ」

「……んがっ、落ち着いて、紫苑ちゃん。きっとそれはつばめさんじゃなくてホテルの人だよ。考えても見て、今日モーニングコールを5時に受けなければならない人が何人いると思っているの、少なくても、あの場にいた8組の部屋に同時刻にモーニングコールをかけるなんてムリでしょ。きっと、自動的に電話がなって受話器を取ったら切れる仕組みになっているんだよ」

と最もらしいことを言った。

私はミッキーの言っていることに深く納得し、朝食を食べに行くために支度を始めることにした。


支度を終えた私たち2人は、朝食の会場へと向かった。1階ロビーの奥にあるレストランにはもうすでに行列ができていた。ホテルの従業員から朝食券を受け取り、列に並んで順番を待つ。どうやら、ここにいるのは日本人がほとんどらしく、いまや中国の代名詞となりつつある「横入り」をうけずにすんだ。

朝食券をレストランの内部にいる従業員に渡し、お皿と交換してもらう仕組みになっているのだが、あろうことか、私の直前で従業員同士が言い争いを始めてしまった。

オロオロする私とミッキー。

ものすごい剣幕でお互いのことを罵りあっている従業員2人。

一方は男性、もう一方は女性。

どうした、痴情のもつれか!?

非常に緊迫した状況をただ見守っていた私の視線に気がついたのか、女性従業員が

「早くチケットよこせ」

というようなことを言ったのがわかった。

あまりに突然のことであり、その時の私の心境は

「お茶の間で壮絶な昼ドラを固唾を飲んで見ている途中、眼を血走らせた女優が画面の向こうから、私にも罵声を浴びせてきた時」のものに近い。

「SORRY…」

とだけ言ってチケットを渡し、投げるようにして渡してきたお皿をなんとか受け取った私は、なんとか心を落ち着かせようと目の前にあるたくさんの料理に集中することにした。

一瞬、なぜ私が謝っているのかを疑問に思ってしまったが、もはや笑うしかできなかった。これが中国なのだ。


 料理は材料が明確であるものが7割を超えていたので、安心して取りわけることができた。

中には、灰色の卵のようなものや、もはやこれは食べ物か!?と疑いたくなるものもあったが、幸いにもバイキング形式だったために好きなものだけを選ぶことができた。

味は、薄いものは極端に薄く、濃いものは極端に濃かった。この味付けは中国で入った店の全てに共通することで、中国では、濃いものと薄いものをアンサンブルで食べるものなんだと無理やり納得することにした。

 中国料理は、行く前から「まずい、まずい」と聞かされていて、大変不安に思っていたのだが、私にはとてもおいしく感じた。

中でも、チンゲンサイの炒め物はこの世のものとは思えないほど美味で、ミッキーに

「ここまでチンゲンサイの魅力を引き出すなんて、中国人のチンゲンサイプロデュース力は計り知れないね!」とまで言わせた。無論、おかわりした。


朝食を食べる時間は約30分。実に短いが、ここは全食事つきで、28,000円の激安…(略)だから仕方がない。

朝食を食べた足で、そのままバスに乗り込み、観光へと向かう。




バスの中では、つばめさんが爽やかに北京のあれこれを話してくれた。

今日は北京の冬の中では暖かい方だとか、

中国人は油ばかり食べるが、一緒にお茶を飲むから太らないだとか、そんな話だ。

つばめさんの話がひと段落して、バス内に静寂が訪れた時、窓側に座るミッキーが悲鳴をあげた。

「ど、どうした!?」

と聞くと、

「今、そこで事件を目撃した!男の人が、もう一人の男の人を後ろから羽交い絞めにして、口を押さえつけていたよ!!どうしよう、つばめさんに教えてあげたほうがいいかな…」

ミッキーは本当に焦っているようで、文字通りにアワアワしていた。

だが、もはやバスは現場を離れ、高速道路へ乗り入れたところだった。

「大丈夫、きっと、この国ではよくあることなんだよ、思いだして、朝のレストランでの痴話喧嘩を…忘れよう。見なかったことにしよう…」

と私はあわてるミッキーをなだめることしかできなかった。



一行を乗せたバスは、北京市郊外にある世界遺産「頤和園」へと到着した。

「頤和園」は西太后が軍事費を横領してまで贅のかぎりをつくした離宮だ。まさに中国建築を絵にかいたような建物が軒を連ね、湖に写るその様子はこの世とは思えないほどに美しいとガイドブックには書いてあった。

頤和園の入り口の門の前には2体の獅子の像がたっている。中国の建物には、門や入口の横には大きさこそバラバラだが、結構な確率で獅子の像が2体ある。その獅子にはオスとメスがあるそうな。

そこでつばめさんは

「迷子になったら、オスの獅子の前で待ち合わせをしましょうネ」

と言った。

私たちは「ほうほう、オスの獅子ね、了解だ」

と納得しかけたのだが、ふと気がつくことがあった。

オスもメスも違いが分からないのである。こっそり股間のあたりを覗き見たのだが、特に違いはなかった。

他のツアー客達も「どっちがオス!?」と若干パニック状態。

しかしつばめさんは、「早く来てくださーい」と次なるポイントへと私たちをせかした。

その時私たちは「絶対に迷子になってはならない」と悟ったのである。

3分程歩いていると目の前が開け、湖が目に入った。そこでつばめさんは立ち止まり、前方を見るようにうながした。

「ここが頤和園の絶景ポイントです。良くガイドブックに載っている写真はここです」とつばめさん。

皆、わぁ!と前方を見るが、霧が濃すぎて何も見えず、ピンとこない。

「あそこには有名な橋がかかっています」と言われても、「ん?橋?あるような、ないような…」というありさま。

北京はこの日、ここ数年にないくらいの濃霧だったのだ。

つばめさんは、一生懸命前方に見える建物の説明をしてくれているのだが、全く見えないので皆、凍った湖の上に立つアヒルを見つめていた。


だが、景色はいまいちでも、頤和園で見かけた人の面白さはピカイチだ。

湖畔を歩いていると、前方から中国人のおばさんが歩いてきた。

なにやら、音楽も聞こえてくる。

おばさんとの距離が近づくとその正体がわかった。

彼女は、腰のあたりにラジカセを結びつけ、カラオケを流していたのだ。

そして大声で周囲の目線関係なしに歌ってのける。

その大胆さに私とミッキーは口をあんぐりあけることしかできない。

なんと自由な国なんでしょう!

このように、ラジカセを腰にぶら下げてカラオケをしている中国人を結構見かけた。滞在時間は1時間にも満たないほどだったが、その間に5,6人は見た。


更に衝撃を与えたのは、大きな筆に水を含ませ、それを用いて道に文字を書いているおじさんだ。

水で書いているのだから当然、時間がたつと消えてしまうのだが、その文字がべらぼうにうまい。良く、中華料理屋に行くと屏風に描いてある漢字のような文字を水筆でなんなく書いているのだ。

どうやら、その内容は有名な漢詩の一部らしい。

皆、めずらしがって写真を何枚もとっているのだが、おじさんの心に乱れはないのか、実に美しい文字を書き続けている。書いたそばから、薄くにじんでいくその様子に私は諸行無常を感じ、なんだか泣きたくなった。ぜひ、墨で書いていただきたい。

文字は人の心を表わすというけれど、それはおじさんの目にも表れていた。

おじさんの目はとても綺麗で、まさにこの美しい字を書く人にふさわしいと思った。

つばめさんいわく、毎日ここの場所に来て水筆を使って道に文字を書き続けているらしい。

私は、このおじさんとの出会いを生涯忘れないだろう。

今日もあの場所で自分の心と向き合うかのように文字を書いているのかな。

いつまでも、元気で書き続けていてほしいものである。


旅の一行は、惜しみながらもおじさんから離れ、道路を渡って団体バスに戻るのである。

だが、中国の車は歩行者がいようとも、スピードを緩めてはくれない。

先ほどの感動モードをさっさと切り替えないと、本当に轢き殺されそうだ。

つばめさんは慣れているのか、左手で車を制しながら道路を渡りきった。

そのすぐ後を一行の半分以上は親ガモを追う赤ちゃんガモのようにしてついていったのだが、私とミッキーと中年カップルはついて行きそびれ、止まらない車を目で追うことしかできなくなっていた。

すると、あきれ顔のつばめさんが、「ちゃんとついてきてくださいねぇ」と言いながら、道路に飛び出し、車との間に割り込んだ。「あぶない!」と思わず叫んだが、車はつばめさんのギリギリ手前で急停止し、そのすきに私たちは道路を渡ることができたのだ。

はたして、旅行中に中国の交通事情に慣れることはできるのだろうか……


続く


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