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37 連写機能の間を走りぬけた熱い思い~箱根駅伝復路~

1月3日

朝8時。

携帯の充電がフルになっていることをしっかりと確認し、応援グッズと箱根駅伝ガイドブックを手に、私は群馬県の太田駅から「りょうもう14号」に飛び乗った。

携帯はワンセグで6区の様子を伝える。


私は、東京箱根間往復大学駅伝競走の復路を観戦するために、他の家族を残し先に帰京した。

ド田舎を疾走中のりょうもう14号に届く電波は微弱なもので、選手のゼッケンの文字がまともに見れない。それでも、ユニホームの微妙な配色で見分けがつくほどになっている自分に少々の驚きを覚える。


2日の往路で私が感じたランナーたちの思い。それがリアルにぶつかる場所に、後2時間後には自分もいると思うと、はやくたどり着きたくて車内で走り出したくなる気持ちを抑えることがつらかった。

だが、それは物理的にムリだった。

なぜなら、隣に座った乗客が稀にみる巨体だったからだ。自分の座席に収まりきらず、私の座席にも侵入してくること、たこ焼き焼き機に淹れすぎたタネのごとし。


そんな窮屈な座席で、私はワンセグを見る。

幸い窓際の席だったため、窓の方に追いやられて電波を少し受信しやすくなったのかもしれない。

しかし、油断するとトンネルに入ったりして映像が途切れる。よりにも寄って襷リレーの瞬間に途切れること数回。こんなんだったらラジオの方が感度が良かったかもしれない。


終点浅草で下車。

応援ポイントの日本橋まで銀座線だ。

私の応援する大学はシード権争いに食い込むか食い込まないかの瀬戸際だったため、少しのあいだでも情報が断絶するとものすごく不安になる。

私は、駅に停車している十数秒のあいだにワンセグを起動したがやっと映ると電車は地下へもぐりだしてしまう。

こんなにやきもきしながらワンセグを使用したのは初めてだ。

むしろ、ワンセグを起動したのがこの日が初めてだ。


日本橋に到着するとミッキーちゃんとEちゃんと待ち合わせた。

2人とも、興奮が顔から滲み出ていた。


私たちは、丁度日本橋の真上、三越前にスタンバイをした。

ここは、ゴールまであと1キロの地点。

そこには、すでにOBや選手のお母さんたちがすでに場所をキープしており、私たちが行くと、大学ののぼりを渡してくれた。

「興奮して、前のめりになってしまうかもしれないけど、のぼりだけは後ろに傾けておいて」

と言われた、選手の邪魔になるからだ。応援団のマナーが悪いと、来年度の選手にペナルティーがかせられるそう。

私たちはしっかりとのぼりを後ろに構え、選手が来るのをまった。

私のワンセグは、東京も0地点で元気を取り戻したのか滑らかな映像を提供してくれる。



私達がスタンバイをして役1時間半後、一台の車が目の前を通過した。

「もうすぐ早稲田大学がくる」

観客はにわかにざわめきだす。


そしていよいよ。

前方から何千人もの観客が一斉に振る旗のはためきが聞こえてくる。

その音が次第に大きくなっていく。

2台の白バイに船頭をされた早稲田大学の選手が視界に飛び込んできた。


速い。


初めて見るランナーの姿はあっという間に私の視界から消えさっていった。

本当にあのスピードで20キロ以上も走ってきたなんて信じられない。


早稲田から送れること数十秒、再び前方から旗の音が聞こえてくる。

2位の東洋大学だ。箱根駅伝3連覇がかかっている。

私は、走る姿をカメラに収めようと連写の準備をした。

シャッターを押している限り撮り続けてくれる。


人の影から東洋大学の紺色のユニホームが見えた。

必死な顔。

歯を食いしばって、

荒い呼吸はすぐ耳元で聞こえているのかと思うほど激しく、

腕をおもいきり振り、足をひたすら動かす。

どこをどう見ても全力で、この選手は走り終わったら最後、もう起き上がれないんじゃないだろうかと思う程に全身を動かしているはずなのに、私の前をスローモーションで通りすぎたかのように感じる。

こんなこと、映画やドラマの演出でしかあり得ないと思っていた。


でも彼の全てが今も私の脳裏に焼き付いている。

走る姿ってこんなに強くて美しいんだ。


『風が強く吹いている』でハイジが言った

「長距離選手にとって一番のほめ言葉は強いということ」

本当にそうだとしたら、私はこの東洋の選手に「誰よりも強かった」と言ってあげたい。

2位という順位、一番悔しい順位。辛くても苦しくても、自分のためにチームのために、最後まで1位を狙い、追い続けた彼の走りは、誰よりも強い!!

あとから知ったことだが、この選手は3年生で、今まであまり日の目をみることなく昨年の箱根も走ることができなかったのだそう。その選手が今日、ここでこんなにも強く、見る者に感動を与えている。きっと今までのたくさんの悔しい思い、今日走れることになった喜び、様々な思いが彼のパワーになったのではないかと思う。


自分の感動を受け止めるキャパが一気に満杯になった私は半ば放心状態となった。

少し落ち着いてくると次の大学がやってくる。

そしてまた、その姿に感動する。

それのくりかえし。

私の応援する大学はシード権を逃した。

だが、この過酷な箱根路を走りきったことには変わりない。

心の底から尊敬の念が湧きあがる。



帰り道、私たち3人は選手たちが走った大手町までの残り1キロの道のりを歩いた。

選手たちと同じ景色を見て、少しでも同じものを共有したかった。

ゴール地点はもう落ち着きを取り戻しつつあったが、つい先ほどまでの熱い思いの余韻をわずかに含んでいた。来年は、走っている姿を応援してからゴールにたどり着いて選手たちを大きな拍手で迎えてあげたいと思う。私も並走できるだけのトレーニングをするか?どこでもドアを発明するか?一番良いやり方の情報を求む。


こうして、今年も箱根駅伝が終わった。

私を始めとする多くの人が感動で涙し、勇気づけられ、自分自身をも奮い立たせたことだろう。

私はこれから先も彼らの走りを見ていきたいと。



東洋大学の選手を連写で撮った写真を見てみた。

選手が写り込んでいる写真は3枚しかなかった。

全身、斜め後ろ、後ろ姿。

あとは観客、車が写るのみ。

カメラの連写の間を駆け抜けていったんだね。

そこでもまた感動する私。

本当にたくさんの感動をありがとう。



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