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36 ランナーたちの気持ちを想像してみる~箱根駅伝往路~

2011年1月2日。

普段は元旦に遊び疲れた身体を癒すために朝寝坊を決め込む私だが、今年は違った。

いつもはただただ恐怖でしかないアラームも、今日はこれから始まる祭典のプロローグを告げるファンファーレよろしく、すがすがしく聞こえる。


私はドテラをパジャマの上から羽織り、祖母が朝食を用意し、祖父がひげを剃っている居間へと向かう。


「紫苑、こんな早起きしてどうした。もっと寝ていてもいいんだよ」


祖父母は優しく言ったが、私にとってはもはやその言葉はテレビに映る映像のBGMと化していた。


東京箱根間往復大学駅伝競走、通称箱根駅。


ついにこの日がやってきた。

私が、『風が強く吹いている』(三浦しをん)を読んでからというもの、この日のために生きてきたといっても過言ではない。(いや、少し言いすぎか?いや、でもほぼ毎日考えていた)

その上、私が応援する大学も出場する。

3日の復路は、私も直接応援に行くことが決まっていた。



8時。

いよいよスタートの時。

一斉に走り出すランナーたち。

今年の箱根路にはどんなドラマが待っているのだろう。

今走り出したランナーも

これから走るランナーも

ランナーを支える仲間も

沿道で応援する人も

テレビを通じて応援する人も


みんなの期待が凝縮されたスタートの時。

歓喜の鳥肌がたった。



私の応援する大学は、後方で1区を終えた。

華の2区を走るのは私も顔を見たことのある選手。

私と同じ年に生れた子が、20キロ以上の距離を全速力で駆け抜ける。

すごいことだ。

私には絶対に真似できない。

ただひたすらに両手両足を動かし続けるだけなのに、私には絶対にできない。

そう思うと、箱根路を走る彼は光輝くし、とても尊い人だと思えたのだ。



そして5区

東洋大学、山登りの神と言われている柏原選手。

彼についての記事を読んだが、今シーズンは不調続きだったそう。

それでも周囲の期待は残酷なまでに彼にのしかかってきたのだろう。

私は、特に期待されて育ってきたわけではないから、彼の気持ちを想像することしかできないが、

自分で納得いく結果が出ない時に感じる周囲の期待感程、追いつめるものはないはずだ。

人間、誰しも人が思っている以上の成果が出せたら嬉しいし、自信にもなる。ましてや今まで期待にこたえて来たのなら、ここで終わるようなタマじゃない。と証明したい気持ちもさぞ強いことだろう。

それなのに、できない。「ここまでだな」そう周囲に思われることが怖い。

しかし、今回柏原選手はうまくいかない自分へのいら立ちに加え、この恐怖にも打ち勝つ心を持っていた。再び5区で箱根路を沸かせてくれた。

きっと、これで来年も彼に降りかかる「期待」という「恐怖」は更に大きなものになったであろう。

だが、きっと柏原選手は大丈夫だ。

柏原選手に抜かれた選手は、抜かれ様に笑っていた。箱根に出るランナーは誰もが真剣で、勝ちたいと思う気持ちはとてつもなく強いものだろう(生半可な気持ちでは、20キロ以上も山道なんて走れないでしょう)その選手が笑って柏原選手に抜かれたのだ。私はその笑いから、「お前にはかなわないよ。さすがだよ」とういう思いを感じ取ることができた。走る者が認める柏原選手。それは誰に認められるよりも強い自信になるのではないかと思う。


以上の気持ちは、私が勝手に想像したことであり、本当の柏原選手の気持ちはわからない。

もしかしたら、そのプレッシャーすら楽しんでいるのかもしれない。

だが、私が伝えたいことは、どんな気持ちでも走ることをやめずに完走して、しかも結果まで出してしまった柏原選手を盛大に称えたいということだ。



同じく5区

早稲田の猪俣選手

彼もまたすごい。同じ区間を山の神が走るというのに、安定していた。

私は、走り方やペース配分のことは良くわかっていないが、猪俣選手の佇まいにとてつもなく大きな安心感を覚えた。私が猪俣選手の立場なら、一位で襷を受け取り、後ろから着々と山の神が近づいてくる気配を察知しようものなら、自分のペースなんてものはみじんもなくなるだろう。

焦って、飛ばして、それでも抜かれて、自信喪失、自己嫌悪……実際には走れないけど、この光景が目に浮かんでしまう。

山の神にも強い精神力があったと思うけれど、猪俣選手もまた、違った意味での強い心を持っていたと思う。山の神が火山のようにアッパー系の精神力だとしたら、猪俣選手はどこまでも流れているような大河のような精神力を私は感じた。



往路を終えて、ますます箱根駅伝にのめりこんだ私。

以前箱根を観戦した人は

「自転車で全力疾走しているくらい速かった」

と言った。

確かに身体ひとつで20キロを1時間少しで駆け抜ける速さはすごいんだとは思う。

だが、テレビではどうしても伝わってこない部分もある。

明日、私はこの速さをついにこの目で拝むことができるんだ。

そう思うと、眠りになかなかつけなかった。

ランナーたちは全てが決まる明日をどう思ってこの夜を過ごしているのか

そう考えると、更に眠れなくなった。


ついに明日全てがきまる。



私は2日の夜見る夢が初夢というならば、それまでもが駅伝を応援する夢を見た。

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