Start001 老朽化する伝統・・・昏睡レシピの再生の未来
埃まみれの倉庫の奥に鍵の壊れた金庫を見つける。
そう、この倉庫はもうほぼ使われていない、置き去りの倉庫。
現在使用している倉庫は隣に建っている。
そういえば祖父が何かメモをしていた様子をふと、思い出す。
私は"春風 久美"。
何がこの金庫に入っているのか?ダイヤルは動かない、錆びていて回らないのだ。辺りを見回すと埃から顔を出したレシピ帳が眼に飛び込んできた。
祖父母から譲り受けたものだ。かつて都本食品が作っていた、今は忘れられた商品のレシピポイントが記されている。
紙の風化により、文字が見えにくくなってしまっている。
「はぁーぁ・・・」
と無意識にため息をつく久美。
創業100年を超える老舗食品会社。近年は時代の波に取り残され業績は低迷を辿っている。
伝統的な製法を遵守しながら、新しい事業に挑戦はしたものの、失敗におわり、廃棄物問題にも直面している。
廃棄物を焼却炉で燃やしていた、そして、それは、いまだに続いていた。
ある従業員が、地域指定の可燃ごみ袋は使用しないことに、気づき、なんでだろうと、思っていた時、異臭が工場内に、漂ってきたことで、分かったのだ。
彼は、"環境によくないですね"焼却はよくないです、事業用のごみ袋もないのは税金誤魔化しと同様じゃないですか、と告げても何も変わらなかったのだ。
それどころか、体調不良になり、回復することなく、退職することになった彼は、真面目で、慕われ、頼りにされていた。焼却した"灰"の行方は誰が知っているのだろうか・・・・・
若い社員は次々と辞めていき、社内には、閉塞感が漂っている。
久美は開発部で働く中堅社員で、会社の現状に疑問を抱いていた。
廃棄物問題は重大なことと、感じていた。何とかならないものかと、常に頭の片隅にある。
が、社内は彼女の考えに賛同することはなかったのだ。
古い商品パンフレットは、都本食品の【顔】だった、今はもう幻。
もう一度、甦らせたい、そんな想いを心の底から湧いていた。
静かに目を閉じて、瞑想した。
『このレシピとプラスして、新たなものを生み出し再生の前進にする』と決意する。