プロローグ
バッドエンドは突如としてやってきた。
僕らの婚約を祝うはずだったパーティーが殺し合いの場となり、どこかでロウソクが倒れたのか、会場が炎上した。燃え盛る炎が勢いを増していく一方、この手の中にある我が弟――バルヴォーリオの命の灯は、今にも燃え尽きようとしていた。
「兄……様……」
バルヴォーリオは真っ赤に染まった口を開いた。なぜ、微笑んでいる。
「これからも、優しい兄様でいてね……大好きだよ。ありが……とう……」
「ダメだダメだ! 死なないでくれ! バルヴォーリオ! バルヴォーリオ!」
血の気のなくなった真っ白な頬に触れた。掴むように。まだ温かい。
揺さぶる。輝きを失った目に訴えかけた。叫ぶように。届いているのだろうか。聞こえているのだろうか。
ガクっと、その小さな顔が僕の手の平に倒れ込んできた。ずっしりと弟の身体が重くなり、体温が失われていくのが分かった。
「バルヴォーリオ! バルヴォーリオ!! ああ、何ということだ……我が息子よ……」
父だ。今までに聞いたことのない悲しみに満ちた声を上げ、その震える手でバルヴォーリオの頬に触れた。
もう、会えないのか。さきほどまであった温もりを感じることも、これから先、この小さな身体を抱きしめることもできないのか。あの無邪気な笑顔も、もう二度と見ることができないのか。
言い知れぬ何かが、胸の底から湧きあがってきた。
ガバリと顔を上げ、前方にいるその人を見た。
かつての婚約者であり、全ての元凶であるあの女を。
「我が弟は死んだ!! これが……これが君の望んだことなのか!! ロザリア!!」
「違う……違うわ! こんなはずではなかった……わたしはこんなこと望んでない!」
絶望に顔を歪ませた彼女が首を横に振った。乱れた髪が揺れた。純白に輝いていたドレスはすすとほこりで黒ずんでいる。
なぜ涙を流している。人を見下し、蔑み、嘲笑っていた悪女はどこに行ったというのだ。
「許さぬ……」
ワナワナと震える声で口にしたのは、父だった。静かに立ち上がり、血走った眼を、彼女へと向け、言い放った。
「己、ローゼンベルクめ!! 汝らの愚行は我が家の最愛の息子を奪った! これは単なる事故や過ちではなく、汝らの行動が招いた取り返しのつかない結果である! 我が家の悲しみは深く、怒りは計り知れぬものだ! 我が息子の無念を晴らすため、そして我が家の名誉を取り戻すため、息子の魂に誓い、我々モンタローネ家はここに、ローゼンベルク家に対し宣戦を布告する!!」
今この瞬間、戦争の火蓋が切られた。
「そんな……どうして、こんな……どうしたらよかったのよ!!」
あの女――ロザリアが叫んだ。まるで、後悔しているみたいではないか。
全ては君が招いたことだろう。一体、何を望んでいたというのだ。
「こうなったら、もう一度……」
彼女の目つきが変わった。何かをしようとしている。
「おい! 次は何を――」