失踪
佳苗は、身の回りで起きる奇妙な出来事や、あの張り紙のことを話したくて、ユーリーに何度もメッセージを送った。しかし、ユーリーからの返信はなかった。いつもなら、何かしら反応をくれるはずなのに、今回は既読にもならない。
(もしかして、私のことを避けている…?)
佳苗は不安と疑念が入り混じった気持ちで、スマホの画面を見つめた。頼る相手がいない中で、思い当たることといえば、あの「#彼女を探して」というタグのついた投稿たち。これまで自分が辿ってきた行方不明の話や都市伝説の真相に、答えが隠されているのではないか。佳苗はそう思い、過去の投稿を一つずつ読み返して見ようと決めた。
スマホの画面に写る数か月前の投稿たち。彼女の自撮り写真や、友人たちと出かけた記録がそこには残っている。しかし、よく見てみると、ところどころに違和感が浮かび上がってきた。
例えば、友人との記念写真には、佳苗だけがぼんやりと輪郭が曖昧に映り、どこか現実感が薄いように見えた。そして、何枚かの写真には、薄暗い影が彼女を取り囲むように写り込んでいることに気づいた。
(これ…こんな風に撮った覚えがない…)
心拍数が早まっていくのを感じながら、さらに古い投稿をさかのぼっていく。すると、ある投稿に目が釘付けになった。
『#彼女を探して』
『今日も、見つからなかった。彼女はどこにいるの?』
それは彼女が投稿した覚えのない言葉だった。まるで誰かが彼女になり代わり、彼女を「探している」かのような奇妙な文章。思わずスマホを握る手に力が入る。
恐る恐る過去のメッセージ欄を開く。ユーリーとのやり取りを遡ってみたが、ここでもどこか違和感があった。ユーリーとの会話の中で、彼女が「いる」ことが証明される言葉が一度も出てこないのだ。
ほとんどが、ユーリーが彼女に何かを教えたり、ただ話を聞いたりしているだけだった。まるで、彼女の存在そのものがどこにも確立されていないような感覚が胸を締めつけた。
佳苗はふと、画面の中に映る自分の指先を見つめた。自分の存在が、いつの間にか薄れてしまっているような、輪郭の曖昧さを感じる。その感覚が、さらに彼女の心を不安で満たした。
(私って…本当にここにいるの?)
その瞬間、スマホの画面がぼんやりと揺れ、通知が一つ、画面に浮かび上がった。まるでタイミングを合わせたかのように現れたのは、見覚えのある名前だった。
『ウツロ:#彼女を探している。まだ見つかっていない』
佳苗は固まったまま、そのメッセージを凝視した。自分が探されている。そう直感した途端、自分がいつから存在しているのか、何者であるのかさえが曖昧に感じられてくる。全てが不安と恐怖に包まれたまま、彼女はスマホを手に震えながら、しばらくその場で呆然としていた。
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