人間社会を動かす者たち
あるとき神さまが久しぶりに下界を眺めると、そこでは多くの人が勤勉に働き、整然と社会を動かしているのが見えた。
見ている限りでは争いも貧困も病気も不自由もほとんどなく、また、人種差別もなくなった影響なのか、人々の肌の色は黒とも褐色とも白とも黄色ともつかないものに変わっていた。
人類はついに地上に楽園を作り上げたのかと神さまは満足そうに頷く。しかしやがてあることに気が付いて顔をしかめた。
人々は、神を信仰しなくなっていたのだ。
これではいかんと考えた神さまは、地上に降臨することに決めた。いまの人間ならば、たとえ神を見たとしても宗教戦争などしないだろうと信頼したからでもあった。
そして神は地上に降臨し、はじめに働いている人々から話を聞こうとした。しかし人々は皆一様に無機質な表情で働き続け、道を歩く者に話しかけても神さまの言葉が聞こえないように足早に立ち去るばかりであった。
釈然としないままに神さまは支配階級らしい百人ほどの人々の前に姿を表す。降臨した神を前に支配階級の人々はひれ伏し、これからは神を讃えることを誓った。
神はその言葉に頷くが、あることが気になり、支配階級の一人に尋ねた。
「お前たち以外の人間はなぜ私の姿を見ても足すら止めずに働き続けるのだ?」
尋ねられた一人は答える。
「神よ、あれらは人間ではなくロボットです」
いまここに集まっている百人ほど以外にはすでに人間は存在せず、人間というものはもはやロボットの動かす社会に寄生するだけの存在になり果てていることを知った神さまは悲し気な表情をすると天界に戻り、天使にラッパを用意させた。
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